男は体を起こすと、金色の髪の男とまた顔を見合わせ、ソラの方に向き直ると、笑いながら言った。
「呼び止めて悪かったね、どうもありがとう――」
「じゃあ」と言って、ソラはまた走り始めた。途中、足を止めて後ろを振り返ると、二人組の男が、ソラの妹と同じ位の低学年の女の子達を呼び止めて、同じようになにかを聞いているのが見えた。
と、不意に男の一人が顔を上げ、ソラに目をとめた。こちらを向いたサングラスがきらりと黒く反射し、ソラはぞくりっ、と身震いするような寒気を感じて、あわてて顔を背けた。
――――……
ピンポーン――。
インターホンのボタンを押すと、ドアの向こうから、小さな遠い鐘の音が、かすかに漏れ聞こえた。すぐにガチャガチャと、雑音混じりの耳障りな音が鳴り、ひび割れたようなかすれた声で、妹のウミが「誰ですか?」と、名前を聞いた。
二階建ての一軒家だった。「ただいま」と、ソラがインターホンのマイクに顔を近づけて言うと、トントントンと小気味のいい足音が近づき、すぐにガチャリガチャッ、とドアの上下に取り付けられた鍵が、二つともはずされた。
「――ただいま」
と、ソラは玄関のドアを開けた。いつもなら、「おかえり、お兄ちゃん」と、元気よく出迎えてくれるはずのウミだったが、今日に限って、めずらしく姿がなかった。
すぐにドアの鍵をかけ、靴を脱ごうとして足元を見たソラは、おやっと、思わず手を止めた。妹の靴が、だらしなく脱ぎ捨てられていた。
平日はパートの仕事に行っている母親から、玄関の靴はきちんとかかとをそろえて置くように、と何度も注意されていた。遊びに夢中になって帰ってきた時や、なにか急いでいるような場合には、上級生のソラも、たまに母親の言いつけを忘れて、叱られることがあった。しかし妹は、年下のくせに小さな母親みたいで、覚えている限り、言いつけを破ったことがなく、一緒に外へ出かけると、いつもソラの後ろにくっついてきては、生意気にあれやこれやと小言を並べ立てた。
そんなウミが、靴を脱ぎっぱなしにしているのを見て、ソラはすぐに、妹がなにか隠し事をしているんじゃないか、と疑った。
「呼び止めて悪かったね、どうもありがとう――」
「じゃあ」と言って、ソラはまた走り始めた。途中、足を止めて後ろを振り返ると、二人組の男が、ソラの妹と同じ位の低学年の女の子達を呼び止めて、同じようになにかを聞いているのが見えた。
と、不意に男の一人が顔を上げ、ソラに目をとめた。こちらを向いたサングラスがきらりと黒く反射し、ソラはぞくりっ、と身震いするような寒気を感じて、あわてて顔を背けた。
――――……
ピンポーン――。
インターホンのボタンを押すと、ドアの向こうから、小さな遠い鐘の音が、かすかに漏れ聞こえた。すぐにガチャガチャと、雑音混じりの耳障りな音が鳴り、ひび割れたようなかすれた声で、妹のウミが「誰ですか?」と、名前を聞いた。
二階建ての一軒家だった。「ただいま」と、ソラがインターホンのマイクに顔を近づけて言うと、トントントンと小気味のいい足音が近づき、すぐにガチャリガチャッ、とドアの上下に取り付けられた鍵が、二つともはずされた。
「――ただいま」
と、ソラは玄関のドアを開けた。いつもなら、「おかえり、お兄ちゃん」と、元気よく出迎えてくれるはずのウミだったが、今日に限って、めずらしく姿がなかった。
すぐにドアの鍵をかけ、靴を脱ごうとして足元を見たソラは、おやっと、思わず手を止めた。妹の靴が、だらしなく脱ぎ捨てられていた。
平日はパートの仕事に行っている母親から、玄関の靴はきちんとかかとをそろえて置くように、と何度も注意されていた。遊びに夢中になって帰ってきた時や、なにか急いでいるような場合には、上級生のソラも、たまに母親の言いつけを忘れて、叱られることがあった。しかし妹は、年下のくせに小さな母親みたいで、覚えている限り、言いつけを破ったことがなく、一緒に外へ出かけると、いつもソラの後ろにくっついてきては、生意気にあれやこれやと小言を並べ立てた。
そんなウミが、靴を脱ぎっぱなしにしているのを見て、ソラはすぐに、妹がなにか隠し事をしているんじゃないか、と疑った。