くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

機械仕掛けの青い鳥(29)

2019-04-29 22:41:37 | 「機械仕掛けの青い鳥」
「――来い。ぐずぐずするな」
 ソラとウミの耳元で、姿は見えなかったが、囁くような女の人の声が聞こえると、見えない手が、グイッと体ごと、あらがうことができないほど強い力で、二人を引きずるように走らせた。
 白い霧の中を、手探りしながら走った二人が放りこまれたのは、石膏の胸像や、生徒の描いた水彩画が飾られた図工室だった。
 放りこまれた勢いのまま、固い床を滑りながら、ごろりと転がるように机にぶつかると、きれいに並べられていた机と椅子が、ばらばらとドミノのように倒れていった。

 ピシャリ――

 と、図工室の扉が閉められた。
「あたたっ……」と、倒れた机の中から、頭を押さえたソラが這い出してきた。手にしていた上着は、どこかに無くしてしまっていた。
「大丈夫かい、ウミ」
「痛タタッ――」と、顔をしかめたウミが、山になった机をどけて、体を起こした。
「大丈夫、みたい」ウミは、どこかに怪我をしていないか、確かめるように言った。

 ――さぁ、言え。

 どこからか、姿を見せない声の主が言った。
 二人は床に座ったまま、ぐびりっと喉を鳴らして息を飲み、声の主を捜して、部屋中に目を走らせた。

「青い鳥は、どこに行った」

 座ったまま、天井を見上げていたソラが、黙って小さく首を振った。
 ススッ――と、ソラが見上げていた天井ではなく、濃い緑色をした黒板から、黒装束に身を包んだ人影が浮かび上がった。人影は、まるで陽炎のように揺らめくと、くっきりと忍者の輪郭を現した。忍者は、背中に背負った剣を抜き放つと、ソラの横へ煙のように移動し、恐ろしげな切っ先を目の前に突き立てた。

「お兄ちゃん――」と、恐ろしさに震えているウミが、声にならない声を上げた。

 忍者は、目だけを出した頭巾ですっぽりと顔を覆っていたが、口元を隠している布に手をかけると、正体を見せるように剥ぎ取った。
「隠し立てすると、ろくな事にならないぞ」
 忍者は、シェリルだった。しかしその言葉は、聞き慣れない外国語のイントネーションなど、かけらも含まない、流ちょうなものだった。
コメント
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