ソラはウミを背にして、牙をむくヴァンパイアのような怪物の方を向きながら、徐々に後ろに下がっていった。
ウミはソラの服をつかみつつ、肩幅の広い影の方を向きながら後じさりしていたが、ソラと背中合わせになると、ゾクリと身震いして足を止めた。
「ちょっと、どうして――」と言ったウミの声を聞き、足を止めて振り向いたソラは、異様なものを目にしてその場に凍りついた。
スーツを着た先生が、腹痛をこらえるように跪き、両手を廊下についていた。と、獣の遠吠えが、堰を切ったように轟いた。
手足を廊下についたまま、顎を突き出すように上を向いた先生の顔は、骨をポキポキと鳴らしながら長く伸び、犬のような風貌へと変わっていった。同時に先生の着ていたスーツが、内側からはち切れるように裂け、全身を覆うふさふさとした強い毛が、中からもっさりとあふれ出してきた。
オオオゥ――ッ……。
凶暴な犬歯を剥き出しにしたまま、狼のような獣に変身した先生が、ヘビのような長い尻尾をのたうつように振り乱しながら、二人に向かって飛びかかってきた。
互いの手を取りながら、二人はなすすべもなく、その場に立ちつくすしかなかった。
と、鋭い牙が二人に襲いかかる直前、廊下の天井から、なにかが獣に覆い被さった。
身動きができなくなった獣は、地響きを立てて横倒しになり、泡のようになったつばきを吹き飛ばしながら、その場でむなしくのたうち回った。
とっさに目をつぶった二人が、恐る恐る目を開けると、漁網のような網に全身を絡め取られ、身動きもできないほど、ぐるぐる巻きになっている獣がいた。
助かったのかな……? と、状況を把握できないでいる二人が後ろを向くと、制服を着た警察官が、こちらに背を向けて立っていた。
「さっきの――」と、警察官の顔を見たソラが、思わず口走った。通学路で、三人に声をかけてきた警察官に間違いなかった。
警察官は無表情のまま、ヴァンパイアのような怪物と向かい合っていた。自然に下ろされた右手には、すでに拳銃が握られていた。
足を止めた怪物は、宙を舞うようにゆらゆらと動きながら、挑発するように時折甲高い奇声を発し、襲いかかる機会を今か今かとうかがっているようだった。
「二人は、先に行け」と、警察官が後ろを向いたまま言った。
ひりひりとした緊張感で張り詰めた空気の中、気づかれないように後じさりしていたソラとウミは、警察官の声を聞いて小さくうなずくと、サッと後ろを振り返り、廊下の先に見える玄関に向かって、一目散に走り始めた。
怪物が、二人を追いかけるように飛び上がった。
ウミはソラの服をつかみつつ、肩幅の広い影の方を向きながら後じさりしていたが、ソラと背中合わせになると、ゾクリと身震いして足を止めた。
「ちょっと、どうして――」と言ったウミの声を聞き、足を止めて振り向いたソラは、異様なものを目にしてその場に凍りついた。
スーツを着た先生が、腹痛をこらえるように跪き、両手を廊下についていた。と、獣の遠吠えが、堰を切ったように轟いた。
手足を廊下についたまま、顎を突き出すように上を向いた先生の顔は、骨をポキポキと鳴らしながら長く伸び、犬のような風貌へと変わっていった。同時に先生の着ていたスーツが、内側からはち切れるように裂け、全身を覆うふさふさとした強い毛が、中からもっさりとあふれ出してきた。
オオオゥ――ッ……。
凶暴な犬歯を剥き出しにしたまま、狼のような獣に変身した先生が、ヘビのような長い尻尾をのたうつように振り乱しながら、二人に向かって飛びかかってきた。
互いの手を取りながら、二人はなすすべもなく、その場に立ちつくすしかなかった。
と、鋭い牙が二人に襲いかかる直前、廊下の天井から、なにかが獣に覆い被さった。
身動きができなくなった獣は、地響きを立てて横倒しになり、泡のようになったつばきを吹き飛ばしながら、その場でむなしくのたうち回った。
とっさに目をつぶった二人が、恐る恐る目を開けると、漁網のような網に全身を絡め取られ、身動きもできないほど、ぐるぐる巻きになっている獣がいた。
助かったのかな……? と、状況を把握できないでいる二人が後ろを向くと、制服を着た警察官が、こちらに背を向けて立っていた。
「さっきの――」と、警察官の顔を見たソラが、思わず口走った。通学路で、三人に声をかけてきた警察官に間違いなかった。
警察官は無表情のまま、ヴァンパイアのような怪物と向かい合っていた。自然に下ろされた右手には、すでに拳銃が握られていた。
足を止めた怪物は、宙を舞うようにゆらゆらと動きながら、挑発するように時折甲高い奇声を発し、襲いかかる機会を今か今かとうかがっているようだった。
「二人は、先に行け」と、警察官が後ろを向いたまま言った。
ひりひりとした緊張感で張り詰めた空気の中、気づかれないように後じさりしていたソラとウミは、警察官の声を聞いて小さくうなずくと、サッと後ろを振り返り、廊下の先に見える玄関に向かって、一目散に走り始めた。
怪物が、二人を追いかけるように飛び上がった。