「いつのまに大人になったの。それに着ている服も、見たことない」
「そっちこそ」と、ソラは言った。「しゃべり方がお母さんに似ていなかったら、ウミだなんて気がつきもしなかったよ」
「もしかして、私も――」と、ウミは自分の手足を見ながら言った。「大人になっちゃってるの?」
「――こっちが聞きたいよ。お兄ちゃんも大人になってるのかい」と、ソラが言った。「なんだか背も高くなってるみたいだし、力も急に強くなったような気がするけど」
ソラは両手を広げ、その場でくるりと回ると、おどけるように言った。「ねぇ、どんな感じに見える」
「どんなって……」と、ウミは嫌がるように、鼻にしわを寄せて言った。「格好悪い時のお父さんみたい」
「ちぇっ」と、ソラはむくれたように口をとがらせた。
「ほかの人達は? みんな、どこに行ったの――」
「わからない」と、ソラは首を振った。「あの鳥って、やっぱり普通じゃなかったんだよ」
「だけど、かわいそう。怪我してたのに」と、ウミは小さくため息をついた。
「どうなっちゃったかわからないけど、とりあえず家に帰ろう――」ソラが歩き始めると、ウミもうなずいて、すぐに後を追いかけた。
急に大人の姿になった二人は、見慣れないせいか、なんとなく互いを意識してしまい、いつもの調子が出なかった。普通に話そうとしても、どこか気後れがして、ただもくもくと、ほとんどなにも話さないまま、家に向かって行った。
回りに見える町の様子は、そんな二人とは違い、変わったところはどこにもないようだった。どこか自分が自分でなくなったような、むずかゆい気恥ずかしさを感じていたものの、自然に慣れてくると、心持ち遠慮していた足取りが、一歩踏み出すたび、自分達のいつもの歩幅に戻っていった。
「あっ、サトシだ」と、向かい側から歩いてくる友達を見つけ、ソラが「おーい」と手を振った。
正面から歩いてきたのは、いつも一緒に公園で遊んでいる仲間達だった。しかし、「おーい」と手を振るソラを見て、子供達はあわてて足を止めると、逃げるように集まり、額をつきあわせて、なにやらひそひそと相談し始めた。
子供達のそばにやってきたソラが「やあ」と声をかけたとたん、
「ワァー」
と、子供達は口々に大きな声で叫びながら、クモの子を散らすように逃げ出していった。
「おい、おまえら、ちょっと待てよ」
と、叫びながら追いかけようとしたソラの腕を、ウミがぐいっとつかんで引き止めた。