階段の陰に身を隠し、腰を下ろしていたシェリルは、荒い息をついたまま、宙を仰いだ。そら耳に違いなかった。ライフル銃の銃声が、こだましたように聞こえた。牧師が宿泊しているホテルは、車で移動しなければならないほど、遠くにあるはずだった。
しかし、銃声が本物だとして、いったい誰が銃を撃ったのか? 自分自身に問いかけていると、やはり遠くから、何台ものパトカーのサイレンと、救急車のけたたましいサイレンの音が、競い合うように聞こえてきた。
シェリルは、階段の陰に背中をあずけながら、両膝を抱くように胸に引きつけ、がっくりと頭を垂れた。
牧師が撃たれたという人々の悲鳴が、耳を塞ぎたくなるほどの大音声で、街中に響き渡った。
事件を未然に防ぐことは、できなかった。
「――ん?」
と、シェリルは顔を上げた。空が、いつのまにか明るくなっていた。眠ってしまったのか……そんなはずはなかった。
立ち上がると、そこは、階段の陰ではなかった。青い鳥を追いかけ、まぶしい光に包まれて目を開けた、あの時と同じだった。人々が行き来している通りの、真ん中だった。
「フフフッ――……」と、シェリルはうつむきながら笑みを浮かべた。「いいわ、私は諦めない。何度でもチャレンジしてみせる」
シェリルはスカートを翻すと、脇目もふらず、牧師のいるホテルに向かって、まっしぐらに駆けて行った。
振り出しに戻った1日が、また始まろうとしていた。