ザクザクザック――
と、夜露にしっとりと濡れた下草を踏みしめながら、二人は森の奥へと進んで行った。
「暗くて、よくわからないけど」と、不安そうなウミが、先頭を行くマーガレットに言った。
「心配いらないわ、私にはちゃんと見えているもの。ほら、あともう少しよ」
たき火を消しているうち、前を行く二人に距離をあけられてしまったソラは、外に広げた荷物を急いでリュックに詰めこむと、置いてけぼりを食らわないよう、歯を食いしばりながら後ろについていった。
「ねぇ、少し休んでいこうよ」と、息を切らせたソラが、後ろから大きな声で言った。しかし二人は、立ち止まることなく、どんどん先に進んで行ってしまった。
「着いたわ」と、マーガレットが足を止めた。
「えっ、この家って……」暗闇の中、輪郭だけがおぼろげに浮かび上がっている家を見て、ウミは考えるように言った。
目の前の家に気をとられているウミを残し、マーガレットは一人、小走りに玄関のドアを開けて中に入ると、すぐにまぶしい明かりが窓に灯った。
「――あれっ? そっくりだ」
と、少し遅れてやって来たソラが、明かりの灯った家を見て言った。
ウミが、なにか言いたそうな顔をして、ソラを振り返った。
「入ってみようよ。そうすればわかるさ――」ソラが言うと、ウミはこくりとうなずいた。
「お邪魔しまーす」と、重い荷物を担いだソラが、玄関から中に入ってきた。
「こんばんわ……」ソラの後から、ウミが少しどぎまぎしたように入ってきた。
「いらっしゃいませ」と、マーガレットの声だけが、奥から聞こえてきた。
ソラは、「どっこらせ」と重い荷物を下に降ろすと、マーガレットの声が聞こえた台所の方へ、様子をうかがいに行った。
一人で部屋に残ったウミは、目の前に置かれたソファーの正面に回った。赤茶色をしたソファーは、ウミ達がいた家とまったく同じものだった。テーブルも、テレビも、壁に描かれたおとなしい花柄も、違いを見つける方が難しいほど、そっくり同じだった。
「ウミ! こっちにおいでよ」
「どうしたの――」ウミは、ソラの声に答えて足を向けた。
と、コツン――。なにかがつま先にあたった。ウミが足下をのぞくと、ソファーと床のわずかな隙間に落ちていたのは、青い鳥そっくりの絵が描かれた模型飛行機だった。