青い鳥は、追いかけられているのを楽しんでいるのか、二人の頭上で、時折小さく円を描いて見せては、スイッ――と風を切りながら、縮まった距離を難なく広げて見せた。
「お兄ちゃん、がんばって――」
しかし、ウミの応援もむなしく、ソラはふらふらと足を止めると、声も出せないほど荒い息をつきながら、お辞儀をするように、両手を膝についてしまった。
「もう…だめだ…走れないよ」ソラは、息も絶え絶えに言った。
「私もだめ、もう走れない……」と、ウミがぺたんぺたんと弱々しい靴音を立てながら、ソラを追い越したところで立ち止まった。
青い鳥は、二人をからかうように何度も宙に円を描くと、スッ――と急に降下をはじめ、白っぽい平屋建ての家の中へ、開け放されている正面のドアから入っていった。
「――ねぇ、お兄ちゃん。今の、見た?」
顔をうつ伏せたまま、ソラが「ううん」と首を振ると、ウミがようやく落ち着いた息をしながら、どこかうれしそうに言った。
「青い鳥が、どこか知らない人の家に入っちゃった……」
疲れ切った顔を上げたソラは、ウミの見ている方を向いた。
緑の芝生に囲まれた、どこといって変わったところのない一軒家だった。白い板を横に渡し、何枚も張り合わせたような平屋建ての家は、周りの家に比べ、高さも横幅も、ひと回りほど小さかった。道路に面しているため、舞い上がった土埃で汚れているのか、全体的にうっすらとねずみ色がかっていた。窓は閉め切っているようだったが、玄関のドアと、ドアと対になっている網戸が、開けっ放しにされていた。風がないおかげか、バタンバタンと開け閉めはしていないが、どんな人が住んでいるのか、少しばかり不用心にすぎるようだった。
小走りで家の前まできた足を、そうっと静かな足取りに変えると、ソラとウミは、開け放されているドアの左右に立ち、顔をのぞかせるように言った。
「ごめんくださーい。誰かいませんかー」
二人は、首を長くして家の中をのぞきこんだが、しばらく待っても、誰も返事を返す気配がなかった。
ズッキューン、ドッキューン……
と、白黒の映像が映ったテレビだけが、ぼんやりと明るく輝き、なにやら面白そうな西部劇を放送していた。
ウミは、ソラの顔を下からのぞきこむように見た。と、気がついたソラが、苦笑いを浮かべながら、困ったように言った。
「中に入っても、いいのかな……」
と、ウミが口をとがらせ、もどかしそうに大きくうなずいた。