「シーッ――」
と、マーガレットは、小さく寝返りを打ったソラを横目で見ながら、唇に人差し指をあてて言った。
「声が大きいですわ――。ここで姿を見られたら、はじめっからやり直しですわよ」
シルビアは、おどけるように両手で口を押さえると、謝るように大きくうなずいた。
と、台所から、ウミが拾った模型飛行機がフラフラと飛んできて、シルビアの足下にぽとりと落ちた。
「――おや、青い鳥の模型じゃないか」シルビアは、足下に落ちた模型を手に取りながら言った。「そういえば、元に戻すのをすっかり忘れていたねぇ、ごめんよ」
シルビアが、手に持った模型を小さく宙に放り上げると、ボッと音を立てて煙が湧き上がり、中から青い鳥にそっくりな鳥が現れて、玄関に置かれた洋服かけの上に止まった。
「忘れるなんてひどい――そう言っていますわ」マーガレットが、羽根を繕っている鳥を見ながら言った。
「いちいち通訳なんかしなくてもいいよ、わかってるさ」
と、鳥に近づいていったシルビアが、怒ったように言った。
「がんばって働いてくれたことには感謝するけどね、こっちだって、子供達が食べる食料を用意したり、時間に合わせて景色を変えたりするのに大変だったんだ。そのくらい、我慢してくれたっていいじゃないか」
青い鳥にそっくりな鳥は、捕まえようと伸びてきたシルビアの手を、サッと宙に舞い上がってかわすと、テレビの上にちょこんと止まった。
「なんだってんだい。その紛らわしいペイントを落としてやろうっていうのに、バタバタ逃げるんじゃないよ――」
振り返ったシルビアが近づこうと足を出したとたん、青い鳥にそっくりな鳥は、半開きになっていた玄関のドアから、外に飛んでいってしまった。
「まったく偏屈な鳥だよ。あの姿でうろうろされたんじゃ、まぎらわしくってしょうがないってのにさ」
「仕方がありませんわ。模型飛行機の真似をずっとしてくれていたんですもの。少しの間だけでも、羽を伸ばさせてあげてもいいんじゃないですか。元に戻りたくなって帰ってくれば、私が捕まえてペイントを落としますから」と、マーガレットがお願いをするように言った。
「まったく、どうしようもないねぇ――」
と、「誰?」ソラがソファーの背もたれを越えて、眠そうな顔を玄関の方へ向けた。
「――あら、起こしてしまいましたか?」マーガレットが、申し訳なさそうな顔をして言った。
ギギッ――
と、風が通ったのか、わずかに開いた玄関のドアが、耳障りな音を立てた。