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唐木田通り 28

2007-01-06 10:08:03 | 唐木田通り
「その後から二人は付き合い始めたのですか」
「そうらしいのです、彼女、向井智子というのですが、それまで会社でも親戚の様な親しさで接してくれていたのが、急に避けるようになってきて、帰りに呼び出して問い詰めると、泣き出してしまいました」
年が一回り以上も違うのに、彼女から見ると都会的で、自分が近くで知っている男性達とは違う、何かあか抜けた感じがして、優しくて親切なところに惹かれていったと話し、東京にも呼ばれて何回か会いに行ったそうだ。
「それでもその向井さんは、東京で暮らす気にはならなかったのですか」
「その事も考えたらしいのですが、そうもいかなくなりまして」
「どうしてですか」
「ええ、それは・・・その、彼女にはいま3才になる男の子がいるんです」
「何ですって!それじゃ、その子は中谷氏の・・・」
「そういう事なんです」
中谷達彦という男は、他所に子供まで作っていたのか。
「本当なんですか、まだ信じられないが」
「誰にも打ち明けられず、中谷さんが気づいた時はもう5ヶ月目に入っていたそうで、認めるしかなかったのでしょう」
[それで村瀬さんが相談に乗ってあげていたのですね」
「向井さんは名古屋の実家には戻れず、東京にも知り合いが居ませんので、ここで住まいを探すしかなかったのです。何かあればご両親がすぐに来れる距離ですからね」
沢村は村瀬と別れた後、重い足取りでホテルに向かっていた。
これではとても由起子に話せそうにない。経理上の追求はあまり影響を受けなくて済みそうだが、私生活がこれ程の状況になっていたとは、想像を超えていた。
バスで長良橋の手前まで行き、橋を歩いて渡ってもホテルはすぐ左側にあり楽だ。
船着場や鵜飼いの銅像を近くに見ながら、長良川を渡って行く。織田信長もここを歩いたのだろうか、歴史の重みを感じながらホテルに入った。