毎週小説

一週間ペースで小説を進めて行きたいと思います

もう一つの春 28

2007-01-14 11:20:56 | 残雪
朝6時過ぎに春子は目を覚まし、隣を窺ったが熟睡している様なので、隣室にいきカーテンを少し開けて見ると、中央公園に朝の訪れを知らせる光が僅かに見え始めた。夜がもう少し長ければ、いや充分長かった、と自分を納得させた。

真冬の冷たい風が吹きぬける中でも、ロウバイが黄色く可憐な花を咲かせ、心を温めてくれる。
沢村は、武蔵野の面影を色濃く残す深大寺周辺が好きで、年に何回も訪れている。
蕎麦屋の中でも一番古そうな店に入り、天ぷら蕎麦を頼んだ後、考え込んでいた。
この前の連休に会った春子は変だった。何か刹那的な、特に夜は・・気のせいかも知れないが、あの後電話やメールで連絡を取ろうとしても繋がらない。
来週には直接彼女の家に行ってみよう、そう決めた翌日の日曜日、一通の手紙が届いた。

前略
修さん、連絡が遅れてすみません。何度電話しようとしたか、でもあなたの声を聞いたら絶対決心が鈍ってしまう、そう思い我慢してきました。
いま私は、叔父夫婦の住んでいる新潟に居ます。東京に借りていたマンションを引き払い、新潟に引越したのです。
昨年叔父に会った時、とても熱心に私の将来を考え、心配してくれ、1,2年でもいいからこちらで暮らしてみないか、と誘われたのです。
田舎の温泉地だけれど、地元の仲間も大勢いるから就職も何とかなるだろう、東京育ちだから退屈で飽きてしまうかも知れない、だからいきなりこちらで生活するというのではなく、仕事で転勤してきた位の気持ちでいい、いやになったらまた東京で暮らす手伝いもしてあげる、とまで話してくれました。
随分迷いました。だって、修さんとこんなに遠く離れてしまうのだから、いまだって飛んで帰りたい気持ちなんです。手紙を書いている今日は吹雪で、家の周りは雪以外なんにも見えません。でも温泉は入り放題だし、雪祭りもあるから結構冬の楽しみもあるそうです。