現代ビズネスより転載
2016年06月03日(金) 飯塚真紀子
「フクシマではいま、再汚染が起きている可能性がある」米国原子力研究家の警告
除染された地域で再び線量が高まっている?
福島第一の原発事故から5年を控えた2月中旬の南相馬市。自転車で登校する小さな女の子たちの無邪気な姿を目にして、ショックを受けて深くため息をつく男がいた。米国バーモント州で“フェアウィンズ・アソシエイツ”のチーフエンジニアを務める原子炉の専門家、アーニー・ガンダーセン氏だ。
45年に渡り、原子炉の設計、運営、廃炉に携わって来た同氏はスリーマイル島の原発事故の研究とその公表に従事。福島原発事故後も独自の調査を行い、日米のメディアで、原発の危険性を声高に訴えて来た。
そんなガンダーセン氏は、事故から5年を経て、再び、福島の地を訪ねていたのである。ガンダーセン氏が、女の子たちの姿を見てショックを受けた理由をこう説明する。
「今回の訪日で福島の再調査を行いましたが、驚いたことは、すでに除染された地域が再汚染されているという現状です。これは予測していないことでした。除染された地域では、あまり高い放射線数値は出ないだろうと思っていたからです。しかし、結果はその反対だったのです」
今回の訪日で、ガンダーセン氏は、南相馬市のタウンホール屋上や、セブンイレブンのフロアマット、道路脇などからダストを採取。それらを計測したところ、放射線廃棄物遺棄場に運び出されなくてはならないような大きな線量が検出されたという。
「この結果については、近いうちに科学論文を発表するつもりです。それが完成するまで数値は公表できないのですが、明らかに、今も高放射線量のダストが街を飛び回っていることを示す数字でした。つまり、除染された土地が再汚染されているわけです。
小さな子供は、成人男子の20倍も放射線の影響を受けます。日本政府は20ミリシーベルトという基準値を設けましたが、それは、成人男子に対して当てはまるもので、小さな女の子は、実際は400ミリシーベルト相当の放射線の影響を受けているのです」
内部被曝の可能性
ガンダーセン氏はさらに、人肺が内部被曝の影響を受けている可能性も指摘した。
「今回の福島県訪問で、私は99.98%フィルタリングできる本格的な放射線防御マスクを、6時間に渡って身につけていました。そのマスクのフィルターを帰国後、研究所で検査してもらったところ、年換算すると大変な数値となるようなセシウムが検出されました。
ガイガーカウンターだけの数値を懸念し、内部被曝は考慮していないIAEAや日本政府、東電は、こんな数値は軽視していることでしょう。しかし、実際には、人肺は重大な内部被曝を受けていることを証明しているのです」
再汚染が起きているのはなぜなのか。一つには、政府が徹底した除染を行わなかったからだろう。ガンダーセン氏もずさんな除染状況を目の当たりにした。
「訪ねたある人家は、庭の半分だけが除染対象地域だったため、半分しか除染されていませんでした。あり得ないことです。残りの半分も汚染されているはずです。
また、ある人は、除染されたはずの自宅の車道から、高汚染されている土壌が再び見つかったため、役人に報告したところ、『一度除染したところなので再除染する必要はない』という回答が来たと話していました。信じられないことです。
ちなみに、その人の家は、峡谷を挟んで、向かい側が居住禁止地域となっているのです」
再汚染が起きているもう一つの原因に、山岳地帯に堆積していた放射性物質が、風雨により市街地に運び戻された可能性が考えられる。ガンダーセン氏は山岳地帯が高汚染されている状況も目の当たりにしている。
「山に住む野生の猿を追跡して、その糞に含まれている線量を計測した結果、それからも大量の放射線が検出されました。また、ある方から『お土産に』と猪の肉を頂いたのですが、それにガイガーカウンターを近づけると、120カウント/分という非常に高い数値が出たのです。
市街地の再汚染を防ぐため、多額の予算を費やしてでも山を除染すべきだと思うのですが、日本政府はそういった政治意志も予算もないのでしょう。また、山の降雨は河川入って行くのですが、河川の汚染状況がモニターされていないことも問題です」
ここ最近、栃木県のある道の駅で国の基準値を1500ベクレルも上回るような山菜が販売されたり、宇都宮市の小学校給食に使われたタケノコから基準値の2倍を超える放射能が検出されたりしている。これらも、再汚染の影響とは考えられないだろうか。
ずさんな除染で進む再汚染。実際、福島県川内村では、住民が「森林の除染が不十分だ」と訴えている。それにもかかわらず、政府は、避難を解除し、再汚染地域に人々を戻そうとしている。
「私に小さな子供がいるとしたら、このような場所には絶対住まわせません」
ガンダーセン氏の警告を、私たちは真摯に受け止め、事故後の汚染実態をもう一度調査する必要があるのではないか。