伊藤詩織さん「警察と検察にブラックボックスが存在する」不可解な捜査実態
AERA https://dot.asahi.com/aera/2017110700041.html?page=1
2017.11.8 16:00
Black Box 伊藤詩織著 |
性暴力被害を実名告白したジャーナリストの伊藤詩織さん。日本の至る所に「ブラックボックス」があるという。捜査の過程で、一体何があったか。
* * *
──今回、手記『Black Box』(文藝春秋)の中ではじめて本名を公表しました。
みなさん、私のことを強い女性であるとか勇気があると言ってくださいますが、私はまったく強い人間ではありません。ただ、私の中で原動力となったのが、大切な友だちや妹のことを考えた時、彼らに同じことが起きたら自分が一生後悔すると思ったからです。私に起きたことは誰にも経験してほしくない。そのためにも、いま私が話さなければ、いま止めなければいけないと思ったんです。そのためには、顔も名前も出して告白しなければいけないと決めていました。
──世界中でレイプは報告されない傾向にあります。日本でも警察に相談に行くレイプ被害者は5%未満。伊藤さん自身、本名の公開に葛藤はなかったでしょうか。
「葛藤」、という意味ではありませんでした。ただ、家族から名字だけは伏せてほしいと言われ、ずっと明かしてきませんでした。しかし、手記を出すに当たって、名字を隠すことに違和感を覚え公表することに決めました。もう隠すことはない、と。ただ、両親に伝えると「ノー」と言われると思ったので、手記が出る2日くらい前に速達で「私は伊藤詩織として本を出します」と伝えました。最終的には理解してもらえました。
──性暴力は魂の殺人と言われます。TBS記者(当時)の山口敬之氏と2015年4月3日、都内で飲食した際に意識を失い性暴力を受けたと訴えられています。この2年半、どのような気持ちで過ごされたのでしょう。
私があの時感じたのは、自分の体、自分の心が誰かに乗っ取られてコントロールされたという恐怖でした。レイプされたことによって、自分が自分じゃなくなってしまった、という気持ちに陥りました。今も山口氏と似た風貌の人を見ただけで、あの日のことがフラッシュバックしますし、悪い夢もよく見ます。
──性犯罪被害に遭った人は、「自分にも何か落ち度があったのでは」と自分を責めるケースがあると聞きます。
私の場合、山口氏と最後に行った都内のすし屋を出てから、朝ホテルで激しい痛みで意識が戻るまでの記憶がありませんでした。なぜ覚えていないのか、なぜホテルについていったのか。記憶が抜けた部分が多かったので、理解できずすごく苦しみました。信頼していた人が急に犯罪者になるわけもなく、自分にも非があったんじゃないかと、何度も何度も考えました。それが私たちをホテルまで乗せたタクシー運転手の証言が取れたことで、自分がどういう行動をしていたかということに確信が持て、記憶の空白が埋まりました。
──真相追及の過程で日本の至る所に「ブラックボックス」があると発言されています。
どの国にも、法のシステムの問題、司法の問題があると思います。ただこの件と向き合ってきた中で、警察や検察そのものにたくさんのブラックボックスが存在していることに気がつきました。昨年7月、山口氏を訴えた準強姦容疑の告訴に対し、東京地検は不起訴の判断を出しました。そこで今年5月に検察審査会に不服申し立てをしましたが、9月に「不起訴相当」の議決が出されました。私が訴えていた準強姦の被害は起訴できないという結果となったのです。
その時感じたのは、検察審査会でどういう論議がなされ、どういう証拠を使って、何を根拠にそうなったのかということ。一切の説明がありませんでしたから。そもそも検察審査会は、検事が出した答えを再度見直し精査する場です。審査会には申立人や証人が呼ばれ、事情を聞かれることもありますが、私も弁護士も呼ばれることはありませんでした。せっかく不服を申し立てる機会が与えられるものなのに、ここでも説明がなければ理解に苦しみます。
──手記の中で、15年6月に、一度出た逮捕状が、逮捕当日になって執行が取りやめになったと書いています。
これも、一体何があったかわからないことがたくさんあります。当時の警視庁刑事部長であった中村格氏によって逮捕が突然取りやめられたことが今年明らかになりました。執行取りやめの知らせの電話を受けた時、驚きと、次から次へと疑問がわきました。何かがおかしい、って。裁判所がいくつもの証拠と証言から判断し発行した逮捕状が、なぜ直前で差し止めになったのか。一度出た逮捕状が執行されないのは大変異例です。「なぜ逮捕を取りやめたのか」。中村氏に聞きたいと何度も取材を申し入れていますが、まだなんの回答もありません。
(聞き手・構成/編集部・野村昌二)
※AERA 2017年11月13 日号より抜粋
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