6月12日~14日、日本で2度目となる武器展示会「Mast Asia 2017」が幕張で行われた。世界33ヵ国から150ほどの企業が集結。日本からは、日立製作所、三菱重工、川崎重工、NEC、マリメックス・ジャパン、松田通商、三井造船、日本エヤークラフトサプライ、日本海洋、NTKインターナショナル、新明和工業、東陽テクニカ、東京計器が参加した。
さかのぼること3年前の2014年4月、日本は47年ぶりに海外へ向けての武器輸出を事実上解禁した。解禁後の日本企業や防衛省の動きを追った『武器輸出と日本企業』の著者で東京新聞の望月衣塑子記者と、元経産官僚で、安倍政権への厳しい指摘を繰り出す古賀茂明氏が、意見を交わした――。
大企業は本当に武器輸出に「前のめり」なのか
古賀: 望月さんの本の冒頭で、2015年に横浜で行われた日本初の武器展示会「Mast Asia 2015」のことが描写されています。参加した13社がなにをアピールしていたのか、企業幹部のコメントなど興味深く読みました。
その展示会が今年は幕張で行われたんですね。規模はどのくらいなのでしょうか。
望月: 来場者でいえば、前回と同程度の4000人規模と見られています。
私が2年前の「Mast Asia 2015」を取材したとき、当初は2000人くらいの参加と見積もられていたんですね。それが最終的に3795人と、予想の倍近くになりました。展示会の開催に動いた防衛技術協会の方は、「次は倍の規模、8000人にする」と息巻いていたんです。ただその後、報道などの影響もあるのかもしれないのですが、思ったほど参加したい企業の数も増えず、結局4000人規模となったそうです。
前回は間に入っていた防衛技術協会も、ビジネス的なメリットもないし、「武器商人」との批判も受けるというので、今回は間に入っていません。
古賀: この本の中でおどろいたのは、解禁を望んでいた防衛企業が必ずしも前のめりというわけではなく、戸惑いの声が多く聞こえた、というところ。「Mast Asia」の2015にも2017にも参加している日立の幹部のコメントに「国がどこまでリスクをとってくれるかはっきりしない現在、とりあえずは様子見したい」という記述もありましたね。
望月: 私も取材していて、そこは意外な点でした。とくに慎重な姿勢だったのは、潜水艦に関わる企業です。
この本の中で、一つの章を割いて記したのがオーストラリアの潜水艦受注のことでした。日本、フランス、ドイツの三つ巴で受注を競い合ったのです。2015年~2016年の4月にかけてのことです。
武器輸出の解禁直後は、企業はもちろん、防衛省の幹部も「潜水艦は機密の塊。外国に出すにはハードルが高すぎる」と明言していました。しかし官邸の意向もあって、企業も防衛省も次第に態度を変えざるを得ず、最後は三菱重工の宮永俊一社長までもがオーストラリアに入ってPRを行いました。
しかし、結局オーストラリアが選んだのはフランスだったんです。
この潜水艦受注失敗の直後、ある造船会社の方は、「ここだけの話ですけど、本当に受注できなくてよかったです」というような本音を言ってくださっていました。みなさん技術の流出はどうするのかということを深刻に心配していたので、ホッとしたのだと思います。
古賀: 本が出てから一年が経っていますが、状況は変わっていますか。
望月: やはり少しずつ変化していると感じます。今、一番注目されているのは川崎重工。川重さんは昨年、輸送機C-2と哨戒機P-1の輸出戦略のプロジェクトチームを立ち上げました。どちらも大型の武器です。去年の秋ごろから本格的に動き出していて、それをニュージーランドに輸出しようとしているようです。
ただこれは必ずしも川重さんが先導してというわけではないようです。現政権は大型の完成品を輸出して、「潜水艦はダメでしたけどこれができました」と海外にアピールしたいようです。
古賀: 日本が得意な繊維技術とかレーダー技術などではなくて、見た目の派手さを優先するということですね。
望月: そのようです。元防衛大臣の森本敏さんに取材したときに、その点を聞いてみました。森本さんは、「大型のものに関しては、日本はそれほど競争力がないから無理。繊維とか部品とか技術とか、そういうもので勝負するしかないんだ」と言っていたんです。ただそうはいっても見た目が欲しい、というところはあるのですね。原発や新幹線の輸出と同じで、「華やかさ」があるというのでしょうか。
「列強」を目指す安倍首相
古賀: 出版されたばかりの『日本中枢の狂謀』にも書きましたけど、安倍さんがやりたいこと、願望というのがあって、それはたとえば炭素繊維を売りますとかレーダーの部品を売ります、というようなことではないんです。それはたとえていえば、「町人国家・日本が商売で軍事大国にモノを出しています」という話。安倍さんが本当にやりたいのはそうではなくて、列強としての地位を確立することだと思う。
僕の「列強」の定義は、経済力だけではなくて、軍事力というのを背景にして、世界の秩序、ルール作りに影響力を与える国のことで、それによって自分の国の利益を確保し、増進していく――これが列強です。その列強のリーダーに自分がなるんだ、と安倍さんは考えているのではないか。
望月: そういう意味では、日本は経済大国にはなりましたけど、軍事力はまだまだ小さい方ですから、列強ではありませんね。
古賀: 少なくとも、軍事力で世界に影響を与える国ではない。つまり安倍さんが目指す本当の意味での「列強」にはなっていない。
以下は仮説なんだけれど、安倍さんの考える「列強」にたどり着くためには「武器は全部アメリカにお願いします」ではなくて、世界の武器産業の中で、日本の武器産業が、いくつかの分野でリードする立場にあるようにしたいのではないか。
少なくともアジアの国々が日本の武器に依存する、という形を作り出したい。武器に依存させてしまえば、軍事的にも依存する関係になりますからね。武器というのは単独で相手の国に行ってお終い、というわけではなくて、システムとして行くものです。
望月: メンテナンスをしたり、補修をしたり、点検したり…と関係は長く続きますよね。アメリカが日本と築いているような関係を、日本が東南アジアの国々と、というわけですね。
古賀: 安全保障という点で、その国のシステムが部分的にでも日本に依存するということになります。そういうシステムとして売りたいから、センサーとか、炭素繊維とか、それだけではダメなんですよね。
今話したのは仮説ではあるんだけど、でもそういうふうに考えると理解できるでしょう。部品を持って行ってそれですごく儲かればいいじゃないか、とはならないわけです。
望月: なるほど。そういうイメージが安倍さんの中にあるのですね。
古賀: イメージ、というよりもう少し具体的です。最終的な目標といった方がいいかもしれません。アメリカと並ぶところまではいけないかもしれないけど、アメリカに次ぐ地位になりたい。日本は経済力としては、少なくともイギリスやフランスよりは大きいわけです。でも軍事的には決してプレゼンスは高くないですからね。
望月: 官邸はそういった壮大な絵を描いていますが、各企業はやはり戸惑っています。
実際、企業の軍需に占める割合はそれほど大きくありません。日本の防衛企業の防需依存度を見てみると、最多の川崎重工が23.9%、最大手の三菱重工が13.5%、上位9社では平均で7.7%、防衛企業全体では5%程度です(平成27年度)。
ただ、本の刊行後ですが、たとえば三菱電機などはかなり武器輸出に前向きになっている印象を受けます。
長距離空対空ミサイルに「ミーティア」というのがあります。このミサイルは、強い電子妨害を受ける環境でも遠距離への攻撃力を持つのですが、これに使われる窒化ガリウム(GaN)という物質を三菱電機は作っていて、インタビュー取材でこれについて尋ねても、ノーコメントを貫いています。三菱電機は部品で勝負している会社だと思いますが、このミサイルはイギリス、フランスなど先進6か国の空軍に配備される予定で、経済的なメリットは大きいでしょう。
三菱電機は2年前にフランスで行われた武器展示会「ユーロサトリ」にも参加しました。この分野で市場を見出したという感じで積極的になっていると感じますね。
武器ビジネスに光明を見出す人たち
古賀: 大手企業の動きはどうなの?
望月: 川崎重工さんには、先述の潜水艦の受注競争中にインタビューしたんですけれど、そのときは「これは問題だよ。潜水艦の完成が遅れた場合の、3000億円、4000億円もの損害賠償を自分たちが負わされたら、はっきりいって会社がつぶれてしまう」と危機感を持っておっしゃっていました。
ただ今回は、P-1、C-2に関してはもう「どんがらだし」といいますか、中身のシステムはアメリカ製のものだから、外身を作るだけだという割り切りと、これだけ政府が言ってきてどの道やらざるをえないんだから、もう進むしかない、という妙な前向きさが出てきたと感じます。
これまで川崎重工は三菱重工さんに比べて、慎重なコメントが多いと感じていました。三菱重工はある程度覚悟を持ってやっていたと思うんですけどね。
川崎重工の間では、相手国に行って整備したり補修したり、機体をチェックしたり、となれば、そこでまたビジネスが生まれて、何千億円かの規模になる、という話が出始めています。ちょっと変わってきたなという怖さはありますね。
古賀: 少しずつそうやって変えられていくんですね。初めはやっぱり心理的なハードルも高いですし、国民の反応も怖い。マイナスイメージで主軸の事業に影響が出たらたまらない。
今までと違う初めてのビジネスなのでどうしても慎重になる部分はあるけど、潜水艦で失敗しても「ある意味、いいところまでは行ったんだよね。相手にされなかったわけではないよね」と考える人もいる。市場で競争に入れるんだ、ということははっきり分かったわけですから、推進したい方にとっては一歩前進ともいえます。少なくともエントリーするというところまでのハードルはなくなりました。
そうやって一歩ずつクリアされていくから、そのうち大きな商談も成立するだろうな……と思いますね。
今、重工メーカーは各社状況は様々でしょうが、うまくいっていないところも多い。造船分野などは、民需では日本はひどい状態。今治造船くらいしかいいところが見当たりませんし、三菱重工はMRJの失敗などもあって、かなり苦しいでしょう。
そういうことを考えると、これまでは大変なわりに消費者からも批判されるし、ビジネス的に儲けも少ないということで及び腰だった人が多かったと思いますが、武器ビジネスに光明を見出す人も出てくるでしょう。
武器国策会社ができる日
望月: 潜水艦が失敗したあと、三菱重工の幹部から、もしオーストラリアへの輸出が成功していたら、三菱と川崎重工の防衛部門だけを合体させて、防衛省からの発注専門の船舶会社、まさに武器輸出の、潜水艦輸出のための造船会社というのを作る予定だった、という話を聞きました。
以前、獨協大学名誉教授の西川純子先生にインタビューしたときに、「おそらく日本は、常に赤字にならない、必ず政府が赤字を補てんしてくれるような軍需専門企業を作るために、支援制度の枠組みを整えているのではないか」という指摘をされていました。それを聞いたときには正直、「そんな企業を作るかな……」と半信半疑だったんです。
その後、三菱重工の方が先ほどの話を明かしてくれたのでおどろきました。武器専門の会社を作り、なにがあっても政府が常に製造を保証するシステムにすれば、会社はつぶれずに、政府から一定の金額をもらえるわけです。軍産企業は、「これはありがたい」と進んでいくのではないかな、と思ってしまいました。
望月衣塑子(もちづき・いそこ) 東京新聞記者。千葉、埼玉など各県警を担当し、東京地検特捜部、東京地高裁の裁判担を経て出産後、経済部に復帰。社会部で武器輸出、軍学共同を主に取材。「世界」6月「国策化する武器輸出」「武器輸出と日本企業」(角川新書)「武器輸出大国ニッポンでいいのか」(あけび書房)「科学」に防衛省の助成金制度など寄稿
古賀: まったく同じことは原発で起きていますね。
原発が経済的に難しいということははっきりしてきて、「原発やめましょう」となればいいんだけど、「やめない」という政府の方針がある。でも民間としてはこのままではできません。
それでいろいろな障害になるようなこと、たとえば廃炉や廃棄物の処理、あるいは事故が起きたときの除染など、企業が心配なことや対応できないことについては政府がお金を出そうとしているし、あるいは電気料金に上乗せしています。さらに、経済産業省は「過去の原発事故の賠償費用が積み立て不足だった」として、「過去分」という名目で電力料金に上乗せして国民に費用を負担させようとしています。
こういう制度が整えば、原発というのは絶対損しません、となります。大儲けはできないかもしれないけれど、損はしませんという仕組みができるわけです。
すべての電力会社を政府が保障するというのは難しいから、再編統合しろ、とそういう方向に進んでいきます。とはいえ、相当無理しないとできないと思いますけれども。これは今の潜水艦の話ととても似ていますよね。だから、武器国策会社とか原発国策会社というのが今後出来るのではないか、と思いますね。
本当に日本の武器を出していいのか
望月: この本を出した後、いくつかの講演会に呼んでいただいて話す機会があったのですが、終わった後に「実は自衛官なんです」と言ってきてくれる人がいました。彼が言うには、「日本の武器を、武器を」と防衛省からアピールされるのはいいが、それほど使えるものができているとは思えないそうです。
だからアピールされるのがすごく怖い、という。なにが怖いかといえば、日本の弱点を知られてしまうのではないか……ということなんですね。そういう意味でも、彼は武器輸出には慎重でした。
先ほどの川崎重工さんがすすめようとしているP-1、C-2の話をしても、「絶対にボーイングさんやエアバスさんがつくるものには勝てませんよ」とすごく弱気でした。実際に武器を使っている自衛官の感覚からすると、「これで戦えるのか?」というわけです。日本の武器は世界の最先端から「二周回遅れ」という意識のようです。
そういう点を、たとえば軍事ジャーナリストの清谷信一さんなどは、「本当に安倍さんのいう戦う国にするのであれば、もうちょっと武器を近代化すべきだ」というわけですね。
たとえば自衛隊の救急セットでさえ、包帯と止血帯しか入っておらず、ほかの軍隊ではあり得ないお粗末さだそうです。にもかかわらず、見た目重視で、グローバルホークなど大型の武器や、アメリカに買えといわれたものは惜しみなく買うけれど、細かい装備とか救急品など、一つ一つ見ていったらぜんぜん戦える国になっていない、というのが自衛官の方の意見ですね。
そういう現場をよく知っている防衛省の人たちというのは、武器輸出に対して私はやや慎重だと感じています。背広組は、官邸の意向を受けて常に指令を出さなくてはいけませんから、表向きは「これは日本の安全保障に資するんだ」と言いますし、とくに東南アジア諸国への中古の武器輸出を強化していくことは、日本の安全保障を強化していくことになると言い続けていますけどね。
古賀: 防衛省というのは現場感覚を持っている人たちが多いから、無用な戦争にどんどん突っ込んでいきたいとは思う人たち多くないと思います。自分たちが最初の被害者になるわけですから。
でも外務省というのはちょっと違うでしょ。直接は血を流しませんし、アメリカに言われたら断れないという立場です。そういう人たちが、経済協力の枠組みを使って武器を外にどんどん出せ、と言っているけど、僕は別の思惑を感じる。日本の中古の武器を輸出して、その穴埋めのために新品を買うでしょ? アメリカから高い武器を買うためなのでは、と思ってしまいますね。
外務省は基本的にアメリカといっしょに世界中で戦争できる国にしたいのでしょう。安倍さんに考えは近いのかな、と思います。
望月: 経産省のスタンスはどうなんですか。
古賀: 経産省はただ金儲けのことだけを考えているから。金儲けといってもべつに役人が儲かるわけではないですよ。基本的には天下りのためですよね。
武器輸出とか武器技術輸出というのは、経産省が担当の所管ですよね。そういう意味では、今後武器ビジネスが発展していった場合、権限が増えるわけです。具体的な案件にも絡んできますから、そこに利権も生まれます。原発の利権に似た構造になりますね。原発が一種の公共事業になったように、武器輸出も公共事業になるわけです。
軍学共同に反旗を翻す大学人たち
古賀: この本にはもう一つ、大切なテーマとして「軍学共同」のことが取り上げられていました。戦後、日本の大学は軍事研究を行わない、ということでしたが、少しずつ新しい動きが出てきているんですね。
望月: たとえば東大が2011年に作成したガイドラインでは「一切の例外なく軍事研究を禁止する」としていたのが、2015年には「軍事を目的とする研究は行わない」としつつも、「研究者の良識の下、軍事・平和利用の両義性を深く意識しながら個々の研究を進める」となりました。
日本の大学は少子化の影響や、国立大学では文科省からの年間1%ずつの運営費交付金削減などもあり、研究予算が減っています。これも影響しているのでしょう。
古賀: その流れの中で、防衛省が資金提供の制度を立ち上げたましたよね。
望月: 2015年からです。防衛省としては初めての資金提供の制度でした。初年度の総予算は3億円でしたが、2016年度には6億円、2017年度は110億円と、実に18倍に増えました。初年度から応募した大学もありましたが、学内には大きな波紋を起こしました。
その後、日本の研究者や科学者の最高峰ともいえる「日本学術会議」が議論を重ね、今年の3月に、軍事研究は「政府の介入が著しく、学術の健全な発展という見地から問題が多い」と懸念を表明しました。各大学、研究機関が、研究が適切かどうかを「技術的・倫理的に審査する制度を設けるべき」と決議して以降、防衛省の制度には慎重になろうとか、応募させない、といった声明を出す大学が急激に増えていますね。その影響力の大きさに驚いています。
たとえば法政大の学長の田中優子さんははっきり「応募させない」と表明していますね。学内でいろいろな派閥や考えもあると思うんですけど、歴史から学んでいる人というのはこういうことをきちんと打ち出せるんだな、と感じました。
北海道は24の大学のうち23の大学が防衛省の制度には応募せず、北見工業大学・室蘭工業大学・帯広畜産大学は、応募を認めない方針を明らかにしました。地方の工業大学や単科大学ですから、そういう資金はきっと欲しいと思うんですよね。
そのあたりを企業と対比すると、学者の方たちは軍事とは一線を画そうという気持ちを強く持っているんだな、と感じますね。
古賀: ただ僕がちょっと心配しているのが、大学というのは普通の会社より定年が長いですよね。国立で65歳、私立で70歳。そういう思想をしっかり持った人たちが、今は教授などの偉いポジションにいます。日本の大学というのはそう簡単に若い人が教授になれませんから。
年配の教授が言っていれば、若い人が突出して声を上げにくいところはあるかもしれない。忖度もあるでしょう(笑)。あと10年くらい経つと、かなり世代交代が進む可能性がありますから、今のうちに上から押さえつけるのではなくて、若い研究者たちとよく議論し、こういう考え方について理解してもらうことがすごく大事だと思います。
望月: 筑波大が2年前に学生にアンケートをとったら、理工系では、軍事研究容認派が反対派を上回ってしまったそうです。でも永田恭介学長はこの間、会見で「軍事研究しない方向で方針を策定します」と表明しました。
そこで「2年前のアンケートは逆でしたがどうしますか」という質問が出ました。学長は、「学生とは一から議論して、僕たちの考えを理解してもらえるように務めたい」と話しています。今どきの状況を象徴するように感じました。
食い止めるには、民主主義しかない
望月: 今の国家観に基づくと、先ほどの川崎重工じゃないですが、「武器ビジネスは、やらざるを得ない」というふうになっていくのではないでしょうか。一回車輪が回り始めたら、そこに根付いている企業や家族は、大きな声を出して「武器輸出反対」とは言えなくなってしまいます。そのことを強く危惧しています。
古賀: そういう心配はあります。ただ僕は、そもそも武器ビジネスは経済的に成り立たないと思います。安倍さんの理想を実現するためには相当日本の経済が強くなって成長して、その果実がどんどん増えて、そのうちのかなりの部分を軍事費に費やす、というふうにならないと無理でしょう。
軍備を拡大して、若い人をどんどん軍隊に入れ、技術者、研究者も軍事に振り向けた結果どうなるかといえば、それ以外のところに必ずしわ寄せがいくでしょう。全体のパイは拡大しないわけですから。
そんなことは国民から見ると「えー!それはおかしい」となりますよ。軍事費のために年金削る、医療費削る、子育て、介護はどうするの、と。それを国債とか消費税とかいろいろなことで補おうとすると思うんですけど、どこかで破たんします。
そのときに大事なのは、日本の民主主義が機能しているかどうかです。
たとえば北朝鮮、あんなに貧しい国なのにあれだけの軍事開発を行っている。中国もそうです。まだまだ日本より貧しいし、貧富の差は拡大している。それなのに軍事開発を進める。それはなぜかといえば、民主主義がないからですよ。国民が文句を言っても押さえつけられる、国民の権利がないがしろにされているからです。そういう体制が、果てしない軍拡競争に勝つためには必要なのです。
今、日本はその瀬戸際にいます。日本の民主主義が失われるのかどうか、の瀬戸際です。その一つのカギが僕はマスコミだと思っています。この武器輸出の問題も、マスコミがどれだけ報じてくれるのか。
武器の問題だけではなくて、安倍さんたちのやっていることを全体として捉えながら、本当にこういう方向に行っていいんですか、ということを大手メディアがきちんと伝えないと、国民がわからないまま、安倍さんを支持するということになります。「安倍さんがんばってください、私たちを守ってください」、とみんな塚本幼稚園になってしまいます。
望月: 先日ある先生から『日本国憲法 9条に込められた魂』 (鉄筆文庫) という本を薦められました。終戦直後に東条英機に替わって内閣総理大臣に就任した幣原喜重郎さんが、憲法九条について話したことをまとめたものです。
ここから4行だけ紹介させてください。
《 非武装宣言ということは、従来の観念からすれば全く狂気の沙汰である。だが今では正気の沙汰とは何かということである。武装宣言が正気の沙汰か。それこそ狂気の沙汰だという結論は、考えに考え抜いた結果もう出ている。
要するに世界は今一人の狂人を必要としているということである。何人かが自ら買って出て狂人とならない限り、世界は軍拡競争の蟻地獄から抜け出すことができないのである。これは素晴らしい狂人である。世界史の扉を開く狂人である。その歴史的使命を日本が果たすのだ。》
戦争というものを終えた結実が九条だったというのです。GHQからの押しつけなどではなく、彼から非武装宣言をマッカーサーに提示した、ということの動機も含めて語られています。
ここに見る精神性の高さというか、倫理観、道徳というのでしょうか。こういうものをこの人が九条に込めてくれたんだな、と思うんですよね。
急激に変わりつつある日本の武器輸出の動向ですが、これからも見つめ続け、つぶさに発信していきたいと思います。