荻野洋一 映画等覚書ブログ

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青山真治『東京公園』&山田洋次『吹けば飛ぶよな男だが』をApple TVで試し見す

2014-07-23 03:10:59 | 映画
 近所で唯一のレンタルビデオ店が先日つぶれてしまい、レンタルビデオ難民となること数週間。つぶれた店の名前は「SHINBOW」といい、近隣の住民たちのあいだでは、揃えたタイトル数への不満ゆえ「SHINBOWで辛抱しよう」というのがもっぱら合言葉になっていたわけであるが、それはわれわれにとっては、親愛の情を逆説的に表象するニックネームのごときものであって、断じて本気であの店をディスっていたわけではない。
 ただ、いざレンタルビデオ店を失ってみると、その喪失感たるや絶大であって、難民としての悲哀が充満するにまかせるほかはなかった。「とはいえ、お前は都心に住んでいる身だ。その気になれば、新宿まで15分、渋谷まで17分の距離ではないか」と、私の中のもうひとりの私が私を冷静に諫める。新宿と渋谷のTSUTAYAは、品揃えという点で日本一を競い合っている。私も、誰か映画作家のまとまった批評を著す際には、この2店のお世話になったりしたものである。
 ただ、レンタルビデオの使い方というのは、そういう気合いの入った使い方だけではないのではないか。一日の仕事を終え、駅前の居酒屋で少し飲んで、それでも元気が持続しているとき、近所のレンタル屋でホラー映画の旧作を借りてみたくなるというようなことは、誰にだってある。街場のレンタル屋を喪失するということは、そういう恣意的な鑑賞体験が奪われるということを示している。私の現在の地元は東京・日本橋地区で、最近「TOHOシネマズ日本橋」というシネコンが開館して、ロードショー鑑賞には理想的な環境となったのだが、その代わり、レンタルビデオが皆無となってしまった。これも、現代の都市状況の一端をしめす好例なのであろう。

 ビックカメラのポイントを吐き出して、「Apple TV」というデバイスを購入してみた。これは、iTunes Storeでダウンロードした映画(購入したタイトルもレンタルしたタイトルも)や、YouTubeの検索映像、そして自分の音楽ライブラリを、Wi-Fiを使って自宅のテレビに転送し、大画面で視聴できるようにするセットトップボックスである。これまでiTunesでダウンロードした楽曲のPVは、(パソコンのモニター上で見る限りは)さして画質的に優れているとも思わなかったので、きょう「Apple TV」の実機を売場で眺めても、正直なところ疑心暗鬼だった。店員にデモしてもらって「あぁ、これなら、まあいいか」と納得した。
 買って帰り、デバイスとテレビをHDMIケーブルで接続して、さっそく青山真治監督『東京公園』(2011)、山田洋次監督『吹けば飛ぶよな男だが』(1968)の2本の映画、そして何曲かのPVを立て続けにダウンロードして視聴してみた。結果は期待以上で、これはNHK-BSプレミアムやWOWOWのオンエアを予約録画したのと遜色ない画質・音質である。少なくとも、パソコンのモニター上で見るよりも画質は飛躍的に向上している。
 今後、現代の大都市中心部では、レンタルビデオ難民が激増するのではないか。是枝裕和の『空気人形』では、東京・中央区の佃島のレンタルビデオ店がメイン舞台として描かれていたが、ああいう状況というのも、そう長くは続くまい。郊外の住宅街ではしばらく健在だろうが、都市中心部ではドーナツ化が進展するだろう。渋谷や新宿のTSUTAYAでレアなタイトル確保をするのと併行して、日々の平凡なレンタル経験の代替として、「Apple TV」はかなりいけるのではないだろうか。