荻野洋一 映画等覚書ブログ

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台北 國立故宮博物院 神品至宝 @東博

2014-09-11 02:03:34 | アート
 今回、東博(東京・上野公園)でおこなわれている特別展《台北 國立故宮博物院 神品至宝》には2度行くことができた。すでに台北の同院には数回訪れているが、一生のうち何度訪れても足りないほど素晴らしい美の殿堂である。
 台北故宮コレクションの上質さが北京故宮(旧・紫禁城)のはるか上を行くことは、美術界の常識なのだが、さすがにそのコレクション全部を東京に持ってくるわけにはいかない。しかし、台北コレクションを知る私たちにとってはなかなか唸らせる来日のメンツである。数で勝負せず、かゆいところに手が届くメンツを、よく考慮された順序で陳列したと言える。
 まず会場に入ってすぐ、台北故宮の自慢の筆頭のひとつといえる汝窯青磁(じょようせいじ 北宋)で鑑賞者の心をピンと張りつめさせつつ、心を晴れやかにする。まるでそれは、上質なレストランにおけるアペリティフのあとの最上のポタージュのごとしである。書にせよ画にせよ陶磁にせよ、北宋および南宋という、中国文化の最盛期(日本では平安から鎌倉時代に相当)をメインに据えた来日リストはうれしい。蘇軾(そ・しょく 北宋)の有名作『行書黄州寒食詩巻』は誰もが足を長く止めざる得ない傑作だったし、私個人としては南宋の初代皇帝・高宗の『行書千字文冊』における端正な王羲之ふうの書体にいたく感銘を受けた。思えば、台北故宮で《北宋大観》という特別展が催され、世界各地に散逸した汝窯青磁を一挙に集めたのを、これが人生唯一の機会と念じて眺めたのもすでに7年前になってしまった。時の過ぎるのはなんと無情であることか。
 後半の清代の精巧な玉器(『翠玉白菜』『肉形石』)については、初心者向けのパンダである。台北故宮を見に行くと、古代の青銅器のあまりに膨大な量、元代・明代のこれでもかと続く青花磁器(日本でいう染付)に当てられて、フラフラとなって疲労してしまうから(ルーヴルにおけるロマン主義の部屋のように延々と続く)、清代の玉器はユーモラスなデザートといった程度である。
 ……いいや、私はこんな、ガイドブックのようなことを書きたいのではないのです。前置きが長くなってしまうから、このへんでやめますけれど、故宮の話は次回でも続けさせていただきます。


特別展《台北 國立故宮博物院 神品至宝》は東博(東京・上野公園)で9/15(月・祝)まで 九博(福岡・太宰府市)で10/7より11/30まで開催
http://taipei2014.jp