荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『月下の銃声』 ロバート・ワイズ

2014-09-26 09:32:09 | 映画
 “西部劇の皮をかぶったフィルムノワール” と友人からかねてより聞かされていたロバート・ワイズ監督『月下の銃声』(1948)を、CSにてようやく見ることができた。
 これは意図的なのだろうが、全体的に感情の抑揚が乏しく、西部劇らしい快活さもない。ムードアクションなどと形容すると別の意味になってしまうが、居酒屋の照明が落ちたあとのロバート・ミッチャムとロバート・プレストンの乱闘シーンにおけるノワールなライティングは、たしかに西部劇というより、まるでロバート・ジオドマークあたりがやりそうなスリラーの一場面のようだ。
 ラストシーンのウォルター・ブレナンの小屋に立てこもっての銃撃戦も、ひんやりとした感触。ミッチャムがブレナンに言う「俺が外へ出たら、たくさん撃ってくれ。硝煙が俺の姿を消してくれる」などというセリフは、ミッチャムにふさわしいことこの上なし。夜陰に乗じて敵の背後に回ったミッチャムが、敵の頭上めがけて拳銃を斧のごとく2度ほど振り下ろしてみせる時の顔つきは、もはや西部劇のヒーローの顔ではなく、ニューロティック・スリラーのそれであり、まさに7年後の『狩人の夜』(1955)を予告するカットだ。
 このノワールな画作りをおこなった張本人である撮影のニコラス・ムスラカは、RKOピクチャーズのB級暗黒映画をライティング面から支えたイタリア出身の名手だけれど、ムスラカとロバート・ワイズの出会いは、これの4年前の『キャット・ピープルの呪い』になるだろうか?