城山三郎の代表作である。
昭和4年から昭和6年まで第27代内閣総理大臣であった
濱口雄幸(はまぐち おさち)とその内閣の蔵相であった井上準之助
の人生に関する物語である。
総理と蔵相という形で、協力し合って、金本位制の復活、
緊縮財政の実践を行なった。
ともに日本の平和を貫き、国民を幸せにしたいという思いから、
確信に満ちた政策を打っていく。この時代の内閣は、貴族院あり、
枢密院あり、次第に身勝手になりつつある軍部ありで、
内閣と言っても、現代より複雑な組織運営を強いられる。
勿論、最高意思決定者としての天皇がおられる時代でもある。
その中で、短期的には国民に嫌われる、しかしながら、将来は
明るいと確信する(金本位は世界のディファクトに従い輸出入を
スムーズにする、緊縮は黒字経営を目指す)施策を打っていく。
濱口は、考え抜いて耐えつつ仕事をする「静のタイプ」、
井上は思い立ったら関係者を訪ねて回って施策を固めてゆく
「動のタイプ」。相互補完的に動ける二人である。
不確定要素の多い中で、信ずることを押し通す二人、
反対者も多い中できっといつかは「やられる」と覚悟は決める
ものの、日本の平和と繁栄のためには自分が施策を打たずして
誰がやるのか、という思いで施策を打ってゆく。
結果は道半ばして、二人とも1年違いで凶弾に倒れる。
施策には正しい正しくないはなく、自分がどう考え、お客様
(上記の場合は国民)に喜んでもらえることは何かを考え、
それに最も相応しいと思われる(確信する)施策を打つべきだと
我々に教えてくれている。
濱口が好きな言葉は「遠図」(遠大な意図:ビジョンかな)であり、
海外が長い井上の口癖は「One thing once」(ひとつのことは一回:
ひとつひとつを大切に)だそうである。これも相互補完。
本の最後に
青山墓地には盟友二人の墓が、両方とも戒名なしの俗名のみを
記した墓として仲良く並んでいる、と書かれている。印象的な文末で
あった。