風録blog

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本:量子コンピュータが人工知能を加速する

2018-03-11 14:47:50 | Weblog
著者:西森秀稔
   大関真之
発行所:日経BP
主に量子アニーリングについて書かれている本。D-Waveの現状などがよくわかっておもしろい。
・最適化問題を解くのには、最適化問題を「イジング模型」で最もエネルギーが低い状態(基底状態)を探す問題に書き換える必要がある。イジング模型とは、量子ビットのように「0」と「1」という2つの状態を持つものが格子状に並んでいる様子をモデル化したもの。
・横磁場をかけるのは「量子トンネル効果」により、効率よくエネルギーが最も低い状態を探し当てることを期待している。
・一方確率的な探索によって良い解を探すのが「シミュレーテッド・アニーリング」
・量子ゲート方式の量子コンピュータは「ビット」を量子ビットで作り、それを組み合わせて計算する。ところが量子ビットは「0」と「1」の重ね合わせ状態を作らなければいけないが、ごくわずかなノイズによって簡単に壊れてしまう。
・量子ビットが重ね合わせ状態を保っていられる時間のことを「コヒーレンス時間」というが、これを長くする努力が必要。ニオブ製にしているのはこのため。
・D-Waveマシンが従来型コンピュータに比べて圧倒的に早く問題が解けるのは限られた条件のもとである。報道では1億倍速いと言われている。
・D-Waveでは「キメラグラフ」を使っており、量子ビットの間がすべて接続されているわけではない。この制約により解ける問題にも制限が出てくる。
・Googleはより長いコヒーレンス時間を持つマシンを開発しようとしている。コヒーレンス時間が長ければ、量子ビットが安定性を保てる時間が長くなる。
・まず横磁場をかけることにより、「0」であり「1」でもあるような奇妙な状態を取るようになる。これを「量子ゆらぎ」が生じていると表現する。時間の経過とともに横磁場を弱くしていき、同時に量子ビットの相互作用を強くしていく。こうして最短経路の探索が始まる。その間に横磁場の効果で「0」と「1」の間をゆらいでどちらが良いか探す。最後に横磁場をゼロにすると量子ビットの「0」「1」が確定し、それが最短経路を示す答えとなる。降った雨が自然に低い盆地に集まるのと似ている。これを「焼きなまし」と呼ぶ。
・AIで学習した内容を試しに出力させることを「サンプリング」と言う。D-Waveはサンプリングには使える。
ソフトウェアの準備が行われつつある。普通のコンピュータを使うのとあまり変わらない使い勝手で実際の最適化問題を解けるように。言語、アプリ、UIの開発が急速に進められている。
・米国では5年後には、量子コンピュータの一大産業が立ち上がる可能性もある。
・量子コンピュータは電力の省資源に役立つ可能性もある。絶対零度と言っても小さなチップを冷やすだけである。現状は世界中でITが消費する電力は、世界の発電量の10%に相当すると言われている。量子ビットを冷やす電力はスーパーコンピュータ京の500分の1
・D-Waveマシンを利用するためには、組み合わせ最適化問題を、量子ビットとその相互作用の組み合わせにマッピングしなければならない。そのソフトを開発しているのが「1Qbit」というベンチャー企業である。(カナダ バンクーバ)いくつかの部分に分けて計算しあとで統合するようなこともできるらしい。
・シングラリティーは来ないだろう。量子コンピュータにより効率よく学習させた人工知能であっても、その学習方法そのもののアルゴリズムを作るのは人間だから。
・海外の研究者のすごいところは、利用範囲が最適化問題に限られていても、ともかく作ってみて商用マシンとして世に送り出し、社会からフィードバックを得るところである。そしてさらに改良する。
コメント
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