風録blog

風のごとく過ぎ去る日々を録したい

人間酷似型ロボット

2011-06-25 16:10:01 | Weblog
書名:どうすれば「人」を創れるか
著者:石黒 浩
発行所:新潮社
ケータイOSのアンドロイドではなく、人間酷似型ロボットのアンドロイドの話である。
阪大基礎工の教授である筆者が、自分をモデル(自分に生き写し)にしたロボットを作ったり、若い女性のロボットを作ったりしている。なぜ人間酷似型ロボットを開発するかと言うと、(勿論本物の)人間は、人間にかかわる能力を本質的に持っていて、今前にいるのが人間であれば安心すると特性を持っているから、ということらしい。その意味でこの本はロボット工学の本ではなく、人間はアンドロイドにあった時にどういう反応をするのか、アンドロイドを恋することができるのか、自分そっくりのアンドロイドが存在した場合そのアンドロイドにどういう感情を持つのか、などがテーマとなっている。従って筆者が研究しているのはロボット工学ではなく、ロボット学であると表明されている。
ではそのアンドロイドは本当に実現されているかというと、技術的に精緻にロボットの外側(皮膚や姿かたち)は出来上がっているが、動きは上半身のみであり、サーボモータや空気コンプレッサーで動かしている。最大の特徴は音声認識や音声合成は使わずに、人間が質問すると、それを答えるのは人間である点。要はアンドロイドに携帯電話を埋め込み、質問されたら携帯to携帯で遠隔に声が飛び、答えも本物の人間が携帯to携帯で、アンドロイドの中の携帯から音声(答え)が出てくる仕掛けである。実際にはコントロールセンター側にはパソコンがあり、顔の動きや上半身の動きをコマンドで動作させつつ、パソコンのマイクに向かって受け答えをする形になっている。そこには工学的な割り切りもあるが、人間が人間として認めてもらうためには、音声認識や音声合成ではなく、実際の人間が受け答えをしないと「不気味さ」が生じ、親しみを感じてもらえないということであった。こうなるとTV電話などとあまり変わりがないが、遠隔の人間がTVという枠画面の中をみるか、アンドロイドを遠方に派遣しそれをこちらからコントロールして、遠方に本人がいるようにごまかすかの違いになる。それをオーストリアに自分自身のアンドロイドを送り、日本からコントロールして本人の肉声で受け答えして実験を行ったりしている。
この本を読んでいると、アンドロイドを創ることと、人間の心理面を理解することが密接に関係していることに気づかされる。そういう意味では、人間型ロボットを実用化できる企業は、商品面から人間を理解しようと努力してきた会社ではないだろうか。例えば使いやすい家電製品をとことん追求した会社とか、化粧品という側面から人間心理を勉強してきた会社ではないだろうか。
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日本の強み

2011-06-04 19:50:02 | Weblog
書名:「見えない資産の」の大国・日本
著者:大塚文雄
   ロナルド・モース
   日下公人
発行所:祥伝社

日本は今でも、大国であり、すごい国であると言う本である。著者3名の対談になっているが議論をリードしているのは日下氏である。
なぜ日本は大国かと言うと、インタンジブルス(intangibles)を豊富に持っており、それは欧米や中国にはまねができないものであるという主張である。インタンジブルスというのは「実体をつかみづらく見えづらいもの」という意味だと思うが、この本の中では、貸借対照表に現れないものという意味で使われている。そこでは社員の自主性、自主努力、自主改良のようなことに力点がある。例えば、欧米では部下は監視するものであるというカルチャーがあるが、日本は現場を尊重するとかとかである。その中ではトヨタのカンバン方式や多機能職なども挙げられている。
面白いのは、外資系ハンバーガーチェインで、一人で来店したお客が20個のハンバーガーを注文したら、店員が「店内でお召し上がりですか、テイクアウトをされますか」と聞いた話。ちょっと誇張されていると思うが、一人で20個食う人間がいるか?持ち帰りに決まっているのに、マニュアルどおり聞くのは欧米流だと言っている。この話が言いたいことは以下である。
・欧米人は標準化ということが得意であり、その標準化のアウトプットとしてマニュアルを作り、それを世界中の社員(グローバル企業としての社員)に強要するスタイルを採る。
・日本では、小集団活動からマニュアルが生まれ、そのマニュアルはドラフトであり、そのマニュアルを日々改良することに意義を感じている。日本はそういう改良文化であり、そのインタンジブルスが日本の武器であると主張している。
ただ、このインタンジブルスも21世紀においては「見える化」をして、企業内共有財産にしていかないといけない、ということであり、その道具がITだと大塚氏は言っている。
全体的には尤もなことを主張しているが、この3人は相当先輩(シニア)であり、反欧米の反中国の日本中心主義(中華思想の日本版)が出すぎていて、ちょっと読んでいるうちに拒絶反応が出てきてしまう。
あと、議題の中心が製造業であり、もっとサービス業についても論じないといけないだろう。
最後に日本人の最大の特徴はcuriosity(好奇心)であるという議論は納得がいく。
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