トラブルは双方の主張が激突したときに起きる。誰しもトラブルを態(わざ)と起こす方はおられないだろう。そういう人は人道のお方ではなく、修羅道に生きられるお方と考えられる。^^ トラブルが起こりそうになったときは、めげない地道な努力が求められる。
とある町役場である。この男、豚崎(ぶたざき)は朝からブゥ~ブゥ~言いながら同じ課の鳥川とトラブル寸前にあった。鳥川は鳥川で、バタバタとニワトリのように忙(せわ)しいゼスチャーで両腕を動かし、誤解を解こうとしていた。
「いえ、だからですねっ! 今、言いましたように仕方なかったんですよ、ほんとにっ!」
「ほんとかどうか怪(あや)しいもんだっ! だいたい、そんなところに牛岡さんがおられる訳がないっ!」
「おられたんだから仕方ないじゃないですかっ!」
「牛岡さんは毎日、他へ回られてるんだっ! おられる訳がなかろっ!!」
「現に、おられたんだからっ! 話もしましたしねっ!」
「なぜ毎日、他へ回られてる人が、そこにいるんだっ!? 怪(おか)しいじゃないかっ!!」
「知りませんよっ! そんなこと。…何かのご用じゃなかったんですかっ!?」
「いや、それは怪しいっ!」
「怪しいって、アンタに言われたくないなっ!!」
「アンタとはなんだっ! 先輩に向かって!!」
話は拗(こじ)れに拗れ、トラブル一歩寸前となった。そのとき、話題の人、牛岡が主役のように悠然(ゆうぜん)と登庁してきた。
「まあまあ、お二方(ふたかた)。朝っぱらから…」
牛岡は、のっそりと、めげない牛のように両者の中に分け入り、二人を両手で格好よく宥(なだ)めながら、トラブルを鎮(しず)めようとした。牛岡に水をかけられて燻(くすぶ)りだした火種(ひだね)は、ジュジュ~~っと消された。
トラブルには水をかけるのが一番! という結論が導ける。水といっても、それは心理的な水で、直接、トラブっている二人に頭からバケツの水をかけてはいけない。余計、トラブルになる。^^
完