水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

残月剣 -秘抄- 《剣聖②》第九回

2009年12月11日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖②》第九回
だから、左馬介は外出の届を自筆で認(したた)め、許可印を師範代の井上から貰えば事が足りた。管理番を任されているという役割上の特典もあり、外出の容易さの便宜は、他の者に比べれば数段、認められ易いということもあった。井上に出入届を持っていくと、案の
定、許可印は容易(たやす)く貰うことが出来た。
 十五日の早暁、誰もが目覚めぬ頃に起き上がると、左馬介は少し早めの洗顔を済ませ、朝餉の準備だけはしておく。一日と十五日の月、二度の閉門日は、稽古がない分だけ食事の刻限が早まるのである。しかも、左馬介にとって、今日は外出をする日なのだから急ぐ必要があった。井上に云ってあるとはいえ、鴨下一人なのだからもとなく思え、一応は一馬に助勢を頼んでおいた。左馬介は朝餉準備を整え終わると、残飯で握り飯を三ヶ作り、竹の皮に包んだ。
そうしておいて、漸く空が白み始めた頃、道場を後にした。
 左馬介の進路が千鳥屋であることは疑う余地がない。だが、千屋に今、蟹谷がいるということは、まず有り得ない。道場にいると分かっている蟹谷に会えない、もどかしさは募るが、客人身分となっている蟹谷とは、道場の決めで会って口を利くことも、ままならないのである。道場には戻っているのだから…と素人目には映るが、そうはいかぬのが堀川なのであった。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

シナリオ 夏の風景 特別編(上) 平和と温もり(2)

2009年12月10日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      夏の風景
      特別編
(上)平和と温もり(2)

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

   N      ・・湧水正也
   その他   ・・恭一の上司と同僚社員、猫のタマ、犬のポチ

8.洗い場  昼
   空に広がる入道雲。日蔭で涼んで寛ぐタマとポチ。水浴びを終え、衣類をつける正也。滾々と
湧く水。蝉しぐれ。
  N   「入道雲が俄かに湧き起こり、青空にその威容を現すと、もう夏本番である」

9.離れ 昼
   恭之介の部屋の定位置で横になる正也。蝉しぐれ。
  N   「恒例となってしまった湧き水の洗い場で水浴びを済ませ、昼寝をした。恒例になって
しまったのは二年前のリフォーム工事から
       のことで、母屋では工事音が五月蠅く
て寝られず、じいちゃんの離れで寝る破目に陥ったせいだ。リフォーム工事が済んだ

       年の夏も、僕は水浴びを終えてから母屋で昼寝をした。…その訳は、味をしめたか
らである(最後の一節は可愛く)」
   片手で団扇を扇ぎながら部屋へ入る恭一。もう片方の手に持つラジコンの模型セットを枕元
へ置く恭一。
  恭一  「よく寝てるな…(小声で呟いて)」
  N   「未だ眠っていないとも知らず、父さんは約束したラジコンの鉄道模型セットを僕の枕元
へ置いた。冬のサンタじゃあるまいし、シ
       ャイで直接、手渡せない性格が父さんを未だ
に安定したヒラとして存続させている原動力なのだろう。出世、出世と人は云うけ
       れ
ど、そんな人ばかりじゃ、偉い人だけになってしまうから、父さんは貴重な存在だと僕は
思っている。それに…(◎に続けて
       読む)」

10.(フラッシュ 
料亭 夜
   頭へネクタイを巻き、得意の踊りを披露する、赤ら顔の恭一。その芸に浮かれる膳を囲む同
僚社員や上司。
  N   「(◎)自分の父親を弁護する訳ではないが、適度に優しい上に宴会部長だし…、(◇
に続けて読む)」

11.(フラッシュ 
台所 昼
   勢いよく、包丁で西瓜を一刀両断する恭之介。それを怖々と見る恭一。
  N   「(◇)今一、じいちゃんのように度胸がない点を除けば素晴らしい父親なのだ(△に続
けて読む)」
   隣で小皿をテーブルへ置く道子。
  N   「(△)勿論、母さんは、その父さんを管理しているのだから、文句なくそれ以上に
素晴らしい」
   西瓜を見事に切り割った恭之介。恭之介の光る頭。
  N   「更には、光を発する禿げ頭のじいちゃんに至っては、失われた日本古来の精神を重
んじる抜きん出た逸材で、そうはいないと
       思える」

12.もとの離れ 昼
   恭之介の部屋の定位置で熟睡する正也。蝉しぐれ。目覚める正也。枕元に置かれた鉄道模
型セットの箱に気づく正也。手に取り、喜
   ぶ正也。駆けだす正也。
  N   「気にはなったが、枕元の箱はそのままにして寝入ってしまい、起きると欲しかった鉄
道模型セットの箱が存在した。ここはひと
       言、愛想を振り撒かねば…と思えた」

13.居間 昼
   長椅子に座り、本を読みながらカルピス・ソーダを飲む恭一。喜び勇んで駆け入る正也。
  正也  「父さん…有難う!(笑顔で、可愛く)」
  恭一  「ん? ああ…(シャイに)」
   離れから着替えを持って現れた恭之介。正也が持つ箱に気づく恭之介。足を止める恭之
介。   
  恭之介「正也、買って貰えたようだな。・・よかったな(弱々しく)」
   ふたたび歩き出し、洗い場へ向かう恭之介。
  N   「じいちゃんは、洗い場で身体を拭く為に来たのだが、それだけを流れる汗で弱々しく
云うと、父さんには何も云わず、通り過ぎ
       た」
   台所から声を投げる未知子。
  [未知子] 「お父様、お身体をお拭きになったら、西瓜をお願いしますわ」
  恭之介「オッ! 未知子さん。それを待っていました(元気な声に戻り)」
  N   「俄かに、じいちゃんの声が元気さを取り戻した。やはり、達人はどこか違う…と思っ
た。平和と温もりを感じる我が家の一コマ
       である」
   テーマ音楽
   キャスト、スタッフなど

   F.O
   タイトル「夏の風景 特別編(上) 平和と温もり 終」

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「夏の風景 特別編(上) 平和と温もり」 をお読み下さい。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

残月剣 -秘抄- 《剣聖②》第八回

2009年12月10日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖②》第八回
「そうでしたか…。何か委細でも分かりましたら…」
「はあ…。そういや、私が振り向いた時、幻妙斎先生がフワリと舞い降りられたのは記憶しておりますだ。そのことは鴨下様にも、お
話したと、ぞんじますだが…」
「はい、それは私も鴨下さんから訊き及んでおります。…他には?」
 左馬介は、なおも、しつこく食い下がる。
「……仕草だけだども、幻妙斎先生がお持ちの杖を一、二度、刀の
ように振られ、何やら蟹谷様に仰せでしただ…」
「一、二度、杖を振られた…。これは面妖な…」
「蟹谷様は、その振りを見られて、頷いておいででしただ。恐らくは
何かの教えをされたんでござんしょう」
 これ以上は訊いても分かりそうにない。自分が見ていたのなら多少は分かるだろうが…とは思う左馬介だったが、見ていないも
のは仕方がない。ひとまずは諦め、撤収することにした。
 次の朝、ふと閃いて、左馬介は月に二度ある道場の門が閉ざされる閉門日に外出し、蟹谷から直接、訊いてみようと思った。三日後が、その十五日だった。その為には、出入届を管理番に出さねばならない決めがある。上手くしたもので、新入りの鴨下が入門した時から、この管理番は一馬から左馬介に引き継がれていた。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

シナリオ 夏の風景 特別編(上) 平和と温もり(1)

2009年12月09日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      夏の風景
      特別編
(上)平和と温もり(1)

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

   N      ・・湧水正也
   その他   ・・丘本先生、生徒達、猫のタマ、犬のポチ

1.湧水家の遠景 昼
   タイトルバック
   屋根の上の青空に広がる遠い入道雲。蝉しぐれ。

2.洗い場 昼
   麦わら帽子を被り、水浴びする正也。日蔭で涼むタマとポチ。湧き水の涼風が流れる日蔭で
心地よく眠るタマ。正也を、『元気なお方
   だ…』と云わんばかりに見遣るポチ。灼熱の太陽。
蝉しぐれ。
  N   「また夏がやってきた。そんなことは云わなくても巡ってくるのが四季なのだし、夏なの
である。じいちゃんが剣道で僕に云う、
      “自然体”って奴だ。…少し違うような気もす
るが、まあ、よしとしよう」
   恭之介が現れる。上半身の着物を脱ぎ、手拭いを湧水に浸けで拭く恭之介。
  恭之介「ふぅ~! 生き返るなぁ…(しみじみと漏らし)」
   各自、冷水を堪能する二人。
   タイトル「夏の風景 特別編(上) 平和と温もり」


3.台所 昼
   四人が食卓テーブルを囲み西瓜を食べている。テーブルに乗る切り分けられた俎板上の西
瓜。賑やかに展開する家族の雑談。
  恭之介「昔は三十度を超えりゃ、この夏一番のナントカとか云っとったんだがなあ、ワハハハ
ハハ…」
   豪快に笑い、西瓜を頬張る恭之介。細々と一切れに噛りつく恭一。
  恭一  「そうですねぇ。真夏日は、確かあったようですが、猛暑日というのは、なかったですか
ら…。当時は涼しかったですよね」
  未知子「ええ、そういえば、以前は日射病って云ってましたわ。今は熱中症とかで大騒ぎ(西
瓜を手にして)」
  恭之介「はい…。未知子さんの云う通りです」
  N   「今日も見たところ、じいちゃんは母さんに“青菜に塩”である。夏休みの到来は、今年
も僕に恩恵を何かにつけて与えてくれそ
       うである。その予兆が先だっても湧き上っ
た」
   台所に掛かっている━ 極 上 老 麺 ━ の額(がく)。
   O.L


4.(回想) 台所 朝
   O.L
   台所に掛かっている━ 極 上 老 麺 ━ の額(がく)。
   朝食を慌ただしく食べ終えた恭一が、席を立つ。腕時計を見つつ、出勤時間を気にしつつ玄
関へ向かう恭一。   
  未知子「あらっ? あなた、ネクタイは?」
   立ち止まって、振り返る恭一。
  恭一  「ん? クール・ビズだからネクタイはいいんだ」
  未知子「あら、そうだったわ…」
  N   「父さんの会社も半袖ワイシャツにノーネクタイの所謂(いわゆる)、エコ通勤へと切り替
わった。汗掻きの父さんは大層、喜んで
       いる」

5.(回想) 玄関 内 朝
   慌ただしく靴を履く恭一。通りかかり、立ち止まる恭之介。玄関へ出てきた登校する正也。
  恭之介「なんか…お前の格好は腑抜けに見えるな」
  恭一  「…」
   一瞬、二人を見遣る正也。黙って戸外へ出る恭一。靴を履く正也。
  N   「父さんは口を噤(つぐ)んで、敢えて反論しようとはしない。反論すれば必ず反撃さ
る…と、読んでいる節がある。縁台将棋で二
       手先を必死に読む程度の父さんにして
は大したものだ」
   台所へと消える恭之介。玄関を出ようとする正也。外から引き返した恭一が戸を開ける。犬
小屋のポチが、『何事だ! 朝っぱらから
   …』と云わんばかりに、薄目を開けて、ワン! と、
ひと声、小さく吠え、また目を閉じる。
  恭一  「おいっ! 正也、まだ。いるかっ?!(少し怒り口調の大きめの声で)…おお、いた
か。(冷静になって)この前、云ってたラジコ
       ン模型な。ボーナスが出たら夏休みに買
ってやるからなっ!(少し威張り口調で)」
  正也  「うん! 有難う。楽しみにしてる。じゃあ、遅刻するから、もう行くよ!」
  恭一  「おっ? おお…(拍子抜けして)」
   戸外へ出る正也。ポチが小さく、クゥ~~ンと鳴く。

6.(回想) 玄関 外 朝
   家から遠ざかる正也の歩く姿。
  N   「まあこのような、僕にとっては恩恵を与えてくれそうな幸先がいい予兆だった。しかし
半面には、夏休みが始まっても買って貰
       えないといった不吉な事態も有り得る訳で、
油断は禁物なのだった」
7.(回想) 学校 昼
   正也の教室の授業風景。教壇に立つ丘本先生がホーム
   ルームで何やら話している。生徒達の中にいる正也。    
  N   「自慢する訳ではないが、僕は校内トップか二番の好成績で、丘本先生に見込まれて
いるのだ。両親とも、そのことは知ってい
       るから、成績のことは諄々(くどくど)とは云
わない。但し、母さんは、勉強しなさい…とは口癖のように云うのだが…。好成績
       で
も、これだけは別で、母心としては、やはり安心出来ないのだろう」

                                    ≪つづく≫


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

残月剣 -秘抄- 《剣聖②》第七回

2009年12月09日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖②》第七回
 左馬介は、すぐには声を掛けず間合いを推し量り、権十が堂に
向け歩き出した刹那、
「あのう…、ちと御訊ねしたき儀があるのですが…」
 と、権十の背へ徐(おもむろ)に投げ掛けた。その敬語遣いの声に、
権十はギクッと一瞬、背を丸め、驚き含みに立ち止まった。
「私めで、ございますか?」と振り向いて、権十は、ただ小さく返した。「はい。私は堀江門下の者ですが、先だって蟹谷さんが先生に会
れた現場におられたやに御聞きしたものでして…」
 武士らしくなく、下手より百姓の権十に迫る左馬介である。
「はあ…、いつぞやの千鳥屋でのお話でございましょうか?」
「ええ、そのことです。同門の鴨下に、そのことを話されたとか…」
「はい、確かに…。鴨下様にはお話をば致しました。で…?」
「なれば、その内容を、も少し詳しくお訊きしたいのですが…」
 左馬介は権十を足止めして、諄(くど)く食い下がった。
「そうは云われましてもねえ…。私ゃ、隠れて遠目に眺めておっただけですだ。…そんなこって、お二人の話の遣り取りまでは、聞いておりませ
んで…」
 むさい野良着の権十は、髷とも見分けがつかぬ頭髪に手を伸ばし、申し訳なさそうに首筋を掻きながら小さく笑った。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

シナリオ 夏の風景(第十話) 昆虫採集

2009年12月08日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      夏の風景
      
(第十話)昆虫採集

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

   N      ・・湧水正也
   その他   ・・猫のタマ、犬のポチ

1.子供部屋 朝
   タイトルバック
   机に向かい、夏休みの宿題をしている正也。蝉の声。手を止め、窓向こうの庭を見遣る正
也。
  N   「まだ当分は残暑が続きそうだ。でも、僕はめげずに頑張っている。夏休みも残り少な
い」
   畑から恭之介が帰ってくる。手に西瓜を持つ恭之介、麦わら帽子を頭から取り、木の枝に吊
るす。笑顔で西瓜を撫でる恭之介。出来の
   いい西瓜と恭之介の頭。双方ともに、太陽光線を
受けて、眩しく光る。思わず噴き出す正也。子供部屋に響く正也の大笑いの声。そう
   とは知
らずに西瓜の出来に満足そうな笑みを湛える恭之介。T 「0」→「09」→「09:」→「09:0」→「09:00」(SE[タイプライター
   で打ち込む音])
   テーマ音楽
   タイトル「夏の風景(第十話) 昆虫採集」
   キャスト、スタッフなど

2.洗い場 昼
   水浴びを終え、離れに向かう正也。

3.離れ 昼
   洗い場から離れに入る正也。
  N   「昼過ぎ、いつもの昼寝の時間がきた。この時間は決して両親や、じいちゃんに強制さ
れたものではない。自然と僕の習慣とな
       り、小さい頃から慣れのように続いてきた。
だが、この夏に限って、じいちゃんの部屋だから、我慢大会の様相を呈している(◎
       
に続けて読む)」
   恭之介の部屋へ入る正也。いつもの場所で眠り始める正也。T「1」→「14」→「14:」→
「14:1」→「14:10」(SE[タイプライター
   で打ち込む音])
   O.L

4.離れ 昼
   O.L
   いつもの場所で熟睡する正也。少し離れた所で熟睡する恭之介。T「1」→「15」→「15:」→「15:0」→「15:00」(SE[タイプライタ
   ーで打ち込む音])
  N   「今日は、どういう訳か、じいちゃんの小言ブツブツや団扇バタバタ、がなかったから、
割合、よく眠れた」
   O.L

5.離れ 昼
   O.L
   目覚めて半身を起こす正也。両腕を伸ばし欠伸をする正也。少し離れた所で熟睡する恭之
介。T「1」→「15」→「15:」→「15:4」→
   「15:40」(SE[タイプライターで打ち込む音])

6.玄関 外 昼
   麦わら帽、水筒、長靴姿の正也。昆虫採集網を持って走り出る正也。聞こえてくる未知子の注
意を喚起する声。 T  「1」→「16」→
   「16:」→「16:1」→「16:10」(SE[タイプライターで打ち込む音]) 
  [未知子] 「帽子かぶったぁ~! 熱中症に気をつけなさい!」
  正也  「はぁ~~い!(戸を閉めながら、可愛く)」
   やや離れた日陰の洗い場に見えるミケとポチが涼む姿。心地よく眠るミケ。身を伏せた姿勢
で目だけ開け、『このクソ暑い中を、どこ
   へ行かれる…』という目つきで、出かける正也を見守
る少しバテぎみのポチ。
  N   「四時前に目覚めた僕は、朝から計画していたクワガタ採集をしようと外へ出た」

7.雑木林 昼
   慣れたように雑木林に分け入る正也。数本のクルミの木。半ば朽ちたクルミの木の前で立ち
止まり、木を見上げる正也。 T 「1」→
   「16」→「16:」→「16:3」→「16:30」 (SE[タイプライターで打ち込む音])
  N   「虫の居場所は数年前から大よそ分かっていた。夜に懐中電灯を照らして採集するの
が最も効率がいいのだが、日中も薄暗い
       雑木林だから、昼の今頃でも大丈夫だろうと
判断していた」
   木を眺めながら、クワガタを探す正也。草むらがザワザワと動く。ギクッ! と驚いて草むらを
見遣る正也。姿を現す恭之介。
  正也  「じいちゃんか…。びっくりしたよぉ(安心して)」
  恭之介「ハハハ…驚いたか。いや、悪い悪い。母さんが虫除け忘れたからとな、云ったんで、
後(あと)を追って持ってきてやった。ホ
       レ、これ(虫除けを示し)」
   正也の首に外出用の虫除けを掛けてやる恭之介。
  恭之介「どうだ…、いそうか?」
  正也  「ほら、あそこに二匹いるだろ(木を指し示し)」
  恭之介「いるいる…。わしも小さい頃は、よく採ったもんだ」
   恭之介の話を無視して動き出す正也。
  N   「じいちゃんには悪いが、昔話に付き合っている訳にもいかないから、僕は行動した」
   静かに木へ近づき、やんわりと虫を掴む正也。その虫を籠の中へポイッと入れる正也。
  恭之介「正也、その朽ちた木端(こっぱ)も取って入れな。そうそう…その蜜が出てるとこだ」
   恭之介の云う通り、樹液で半ば朽ちた木端を取り、虫籠へ入れる正也。雑木林に響く蝉しぐ
れ。

8.とある畔道 昼
   とある田園が広がる中の畔道を歩く帰宅途中の恭之介と正也。T「1」→「17」→「17:」→「17:0」→「17:00」(SE[タイプライター
   で打ち込む音])
  恭之介「なあ正也、虫にも生活はある。お前だって、全く知らん所へポイッと遣られたらどうす
る。嫌だろ? だからな、採ったら大事に飼
       ってやれ。飼う気がなくなったら、元へ戻し
てな…」
  N   「じいちゃんの云うことは的(まと)を得ている」

9.台所 夜
   食卓のテーブルを囲む四人。夕食中。T「1」→「19」→「19:」→「19:0」→「19:00」(SE[タイプライターで打ち込む音])
  恭之介「ははは…、正也も、なかなかやるぞぉ~」
  恭一  「そうでしたか…(小笑いし)」
  恭之介「お前の子供の頃より増しだ」
   しまった! と、口を噤(つぐ)んで下を向く恭一。
  N   「じいちゃんは手厳しい。父さんは返せず、口を噤んで下を向いた。今年の夏が終わろ
うとしていた」
   SE[タイプライター音のチーン!という音])
   F.O
   タイトル「夏の風景(第十話) 昆虫採集 終」

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「短編小説 夏の風景☆第十話」 をお読み下さい。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

残月剣 -秘抄- 《剣聖②》第六回

2009年12月08日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖②》第六回
「権十なら蟹谷さんの顔は知ってますね?」
「ええ、そうなんです。それで、奴が蟹谷さんに声を掛け、二人が少し
話をし、別れて歩きだした時…」
「先生が疾風の如く現れたとか?」
「はい、正にその通りの言です」
「その内容については?」
「いや、そこ迄は…。何も聞こえなかったそうです。と、云いますのも、
権十は軒に隠れて二人の様子を窺っていただけだそうで…」
「そうですか…。実はその辺りが知りたいところなんですが、仕方あ
りません。機会があれば、直接、権十に訊いてみます」
 鴨下は軽く会釈して去った。左馬介は小部屋へと戻った。
 権十が道場へ顔を見せたのは半月が経った頃である。左馬介も、つい忘れてしまっていたのだが、権十の帰り際に、ふと想い出し、その去った後を追った。道の三叉路に地蔵尊を祀(まつ)る小さな堂た。権十は立ち止まると、その堂の前で静かに両手を合わた。少し遅れて迫っていた左馬介は、すぐ追いついた。左馬介が十と同じように彼の横で手を合わせると、瞼を閉じていた権十は配で横にいると感じたのか、驚いて矢庭に瞼を開けた。そして、に立つ左馬介を垣間見た。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

シナリオ 夏の風景(第九話) ナス

2009年12月07日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      夏の風景
      
(第九話)ナス

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

   N      ・・湧水正也
   その他   ・・大工の留吉

1.離れ 昼
   タイトルバック
   恭之介の部屋で昼寝する正也。蝉しぐれ。屋外は猛暑。
  N   「僕はじいちゃんの部屋で昼寝を余儀なくされている。その訳は、家の母屋が改造中なのだ。
今でいうリフォームってやつで、請
       負った同じ町内に住む大工の留吉さんが、四六時中、出
入りをしている(◎に続けて読む)」

2.(フラッシュ) 改造中の子供部屋 昼
    金槌で釘を打つ留吉。工事中の部屋内。かなり散らかった子供部屋。
  N   「(◎)離れで寝ている訳は、工事の騒音で安眠できないからだ(◇に続けて読む)」

3.(フラッシュ)
 母屋の各部屋 昼
   湧水家の台所、居間、奥の間、浴室、洗面所…などの光景。どの部屋でも聞こえる釘を打つ音。
  N   「(◇)僕の家は昔に建てられた平屋家屋だから、まず母屋の、どの場所に寝ても、騒音は防ぎよう
がないのだ(△に続けて読
       む)」 

4.もとの離れ 昼
   恭之介の部屋で昼寝する正也。蝉しぐれ。
  N   「(△)そんなことで、別棟の離れで昼寝となった訳だが、じいちゃんが扇風機やクーラーを使わな
いものだから、大層、迷惑して
       いた」
   テーマ音楽
   タイトル「夏の風景(第九話) ナス」
   キャスト、スタッフなど

5.台所の裏口 朝
   裏口の戸を開け、作業着姿の留吉が元気に入って来る。スリッパに履き換え、台所へ上がる留吉。
  留吉  「今日も暑くなりそうですなぁ、奥さん」
  未知子「…ええ、倒れるくらい暑いから困るわ(笑って)」  
  留吉  「ほんとに…。我々、職人泣かせですよ、この暑さは…」
   台所を通り過ぎ、子供部屋に向かう留吉。

6.改造中の子供部屋 朝
   子供部屋へ入る留吉。直ぐに鉋(かんな)を手にして、横木を削り始める。ポットのお茶と湯呑み、茶菓子が乗った盆を運ぶ未知子。
   未知子の尻について入る正也。
  未知子「ここへお茶、置いときますから…」
  留吉  「いつも、すいませんなぁ…(削りながら)」
  未知子「あと、どのくらいかかりますの?」
  留吉  「そうですなぁ…。まあ、秋小口には仕上げるつもりでおりますが…(手を止め)」
  未知子「そうですか…。なにぶん、よろしく…(頭を下げ)」
   台所へ去る道子。そのまま留吉の作業を見遣る正也。正也を見遣る留吉。
  留吉  「正ちゃん、ほうれ…、この木屑をやろう。何か作りな(正也の手に渡し)」
  正也  「どうも、ありがとう…(留吉から受け取って)」
   渡された木屑を大事そうに持ち、部屋を走り去る正也。

7.台所 朝
   畑から帰ってきた恭之介が未知子と話している。台所へ入る正也。
  恭之介「未知子さん、今年もほら、こんなに成績がいい…(汗をタオルで拭きながら)」
   籠に入った収穫したてのトマト、ナス、キュウリなどを自慢して道子に見せる恭之介。籠の中を見遣
る正也。
  未知子「お父さま、助かりますわ。最近はお野菜も結構しますから…(少し、持ち上げて)」
   正也を見て、笑顔から真顔に戻る未知子。
  未知子「正也、勉強しなきゃ駄目でしょ(やや強く)」
  恭之介「そうだぞ正也。こういうふうに、いい成績をな、ワハハ…(賑やかに笑って)」
   収穫した紫色に光るナスを片手にして、示す恭之介。ふと、何か思い出したように、離れへ向かう
恭之介。
  恭之介「それにしても、あの虫除けは、よく効くなあ。全然、刺されなかった…」
   恭之介の頭とナスを交互に見る正也。
  N   「じいちゃんの頭とナスの光沢がよく似ている…、と僕は束の間、思った。台所には、じいちゃん
の頭ナスが、たくさんあり、僕を
       見ていた」
   F.O
   タイトル「夏の風景(第九話) ナス 終」

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「短編小説 夏の風景☆第九話」 をお読み下さい。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

残月剣 -秘抄- 《剣聖②》第五回

2009年12月07日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖②》第五回
 何が面白いのかがよく分からず、左馬介は、ふたたび訊ねた。
「それは、どういうことです?」
「なにね、権十から私も聞いたんですよ」
「えっ? 葛西の百姓の権十ですか?」
「ええ、そうです」
 なんのことはない。鴨下も葛西の権十から聞いたという。よく考れば、道場から一歩も出ていない鴨下が、そんな詳細に、蟹谷の事情について知っている訳がないのだ。というか、ほとんど知ることは出来ない筈であった。だから、権十から聞いたとなれば理屈も
合うし、真実味も随分と増す。
「それで、どうだと云うんです?」
 真実味が増す分、余計に詳しく知りたくなる。幻妙斎は、恐らく蟹谷の前へ忽然と現れたのであろう。そこ迄は左馬介にも想像は出来る。問題は、二人の間にどのような遣り取りがあったのか…
である。
「なにね。権十が云うには、千鳥屋へ奴が行ったときのことらしいです。千鳥屋の料理膳に供する材料を、いつものように調理場で花板へ渡し、その帰り道…。と、云いましても、暖簾を潜って外道へ出、数歩も行かないところで、バッタリと蟹谷さんに出会ったと、こう云うんですよ」


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

シナリオ 夏の風景(第八話) 西瓜(すいか)

2009年12月06日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      夏の風景
      
(第八話)西瓜(すいか)

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

   N      ・・湧水正也
   その他   ・・猫のタマ、犬のポチ

洗い場 昼
   タイトルバック
   洗い場に浸けられた西瓜。麦わら帽子を被り、水浴びをする正也。離れから出てきて洗い場を覗き
込む恭之介。恭之介を見遣る正
   也。溢れ出た水を浴び、身体を冷やすポチ。水しぶきの冷気が漂う
日陰で涼んで眠るタマ。 
  恭之介「おお…上手い具合に、よお冷えとる…」
   タマが、そら、そうでしょう、と云わんばかりに、ニャ~と鳴き、欠伸する。

2.(フラッシュ) 洗い場 朝
   畑から帰り、洗い場へ、手に持つ西瓜を浸ける恭之介。
  N   「朝早く、じいちゃんは、家に昔からある湧き水の洗い場へ西瓜を浸けておいた」

3.もとの洗い場 昼
   洗い場近くの樹々に蝉が集く。冷水が滾々と湧く水中の西瓜。水に浸かり、また上がる、を繰り返し
水と戯れる正也。上手い具合に、
   日影になっている洗い場。
  恭之介「どれ、力仕事の前に、ひとつ、身体でも拭くか…」
   湧き水に濡らした手拭いで、身体を拭き始める恭之介。
  恭之介「ふぅ~、気持ちいいのう…(誰に云うでなく)」
   気持ちよさそうな洗い場の二人。灼熱の輝く太陽。
   テーマ音楽
   タイトル「夏の風景(第八話) 西瓜(すいか)」
   キャスト、スタッフなど
   水浴びを止め、タオルで身体を拭き始める正也。
  N   「僕は昼間、洗い場で水遊びをするのが日課となっている。というのも、これからじいちゃんの
離れで昼寝をしなければならない
       からだ。別にどこだって寝られるじゃないか…と思うだろう
が、じいちゃんの離れへ行かねばならないのには、それなりの理由
       がある。それについて
は、後日、語ることにしよう(◎に続けて読む)」
   身体を拭き終え、衣類を身に着けている正也。
  N   「(◎)で、そうなると、じいちゃんは電気モノ嫌いという困った癖があるから、体を充分に冷や
しておかないと眠れない訳だ。そ
       こで、昼寝前の水遊びが日課となった…とまあ、そういうこ
とだ」
   
衣類を身に着け終え、家へ入ろうとする正也。
  恭之介「おい、正也。お前も食べるな?」
   立ち止まって振り返る正也。日陰の洗い場に腰を下ろした流れる汗姿の恭之介。
  正也  「うん!(可愛く、愛想をふり撒いて)」

4.C.I 離れ 昼
   汗だらけで団扇を忙しなくバタバタと動かす恭之介。
  N   「じいちゃんは夏に汗を掻くのが健康の秘訣だと信じている節がある。

5.洗い場 昼
   滾々(こんこん)と湧く水が勢いよく流れる。澄んだ水。
  N   「この湧き水は、いったいどこから湧き出てくるのだろう…と、いつも僕は不思議に思ってい
る。知ってる限り、枯れたことはなく、
       滾々と湧き続けているのだ」

6.台所 昼
   食卓テーブルに置かれた俎板。俎板の上の西瓜。包丁で今にも西瓜を切ろうとしている恭之介。恭
之介を取り囲んで見守る恭一、正
   也。見事に切る恭之介。
  N   「家へ入ると、じいちゃんは賑やかに西瓜を割った。力の入れ加減が絶妙で、エィ! っと、凄
まじい声を出して切り割った。流石、
       剣道の猛者(もさ)だけのことはある…と思った」
  恭一  「父さん、私は一切れだけでいいですよ…( 遠慮ぎみに)」
  恭之介「ふん! 情けない奴だ。男なら最低、三切れぐらいいはガブッといけ!(手に持った包丁で、
切った西瓜を示して)」
   テーブルより、少し避難して離れる正也。
  N   「じいちゃんは包丁を持ったまま御機嫌が斜めだ。弾みでスッパリ切られては困るが、その危
険性も孕む」
   炊事場から未知子が近づく。
  未知子「お父さま、塩とお皿、ここへ置きますよ(遠慮ぎみに)」
  恭之介「未知子さん、あんたも、たんと食べなさい」
   笑って首を縦に振る未知子。

7.台所 昼
   食卓テーブルで西瓜を食べる四人。上品に頬張る恭一。わずか四、五口で一切れ食べ尽くす恭之
介。普通に食べる未知子と正也。
   恭之介の食いっぷりに見とれる三人。
  恭之介「恭一、お前が買ってきた殺虫器な。アレは実にいい、よく眠れる…(五切れ目を手にしなが
ら)」
  恭一 「お父さんは電気モノがお嫌いでしたよね? 確か…(暗に殺虫器は電気式だと強調して)」
  恭之介「お前は…また、そういうことを云う。いいモノは、いいんだ!(怒り口調で)」
   顔を赤らめて怒る恭之介。恭之介を見遣る正也。
  N   「じいちゃんも現金なもんだ…と、僕は思った。猛暑日は、今日で四日も続いている」
   F.O
   タイトル「夏の風景(第八話) 西瓜(すいか) 終」

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「短編小説 夏の風景☆第八話」 をお読み下さい。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする