≪脚色≫
夏の風景
(第十話)昆虫採集
登場人物
湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
湧水恭一 ・・父 (会社員)[38]
湧水未知子・・母 (主 婦)[32]
湧水正也 ・・長男(小学生)[8]
N ・・湧水正也
その他 ・・猫のタマ、犬のポチ
1.子供部屋 朝
タイトルバック
机に向かい、夏休みの宿題をしている正也。蝉の声。手を止め、窓向こうの庭を見遣る正也。
N 「まだ当分は残暑が続きそうだ。でも、僕はめげずに頑張っている。夏休みも残り少ない」
畑から恭之介が帰ってくる。手に西瓜を持つ恭之介、麦わら帽子を頭から取り、木の枝に吊るす。笑顔で西瓜を撫でる恭之介。出来の
いい西瓜と恭之介の頭。双方ともに、太陽光線を受けて、眩しく光る。思わず噴き出す正也。子供部屋に響く正也の大笑いの声。そう
とは知らずに西瓜の出来に満足そうな笑みを湛える恭之介。T 「0」→「09」→「09:」→「09:0」→「09:00」(SE[タイプライター
で打ち込む音])
テーマ音楽
タイトル「夏の風景(第十話) 昆虫採集」
キャスト、スタッフなど
2.洗い場 昼
水浴びを終え、離れに向かう正也。
3.離れ 昼
洗い場から離れに入る正也。
N 「昼過ぎ、いつもの昼寝の時間がきた。この時間は決して両親や、じいちゃんに強制されたものではない。自然と僕の習慣とな
り、小さい頃から慣れのように続いてきた。だが、この夏に限って、じいちゃんの部屋だから、我慢大会の様相を呈している(◎
に続けて読む)」
恭之介の部屋へ入る正也。いつもの場所で眠り始める正也。T「1」→「14」→「14:」→「14:1」→「14:10」(SE[タイプライター
で打ち込む音])
O.L
4.離れ 昼
O.L
いつもの場所で熟睡する正也。少し離れた所で熟睡する恭之介。T「1」→「15」→「15:」→「15:0」→「15:00」(SE[タイプライタ
ーで打ち込む音])
N 「今日は、どういう訳か、じいちゃんの小言ブツブツや団扇バタバタ、がなかったから、割合、よく眠れた」
O.L
5.離れ 昼
O.L
目覚めて半身を起こす正也。両腕を伸ばし欠伸をする正也。少し離れた所で熟睡する恭之介。T「1」→「15」→「15:」→「15:4」→
「15:40」(SE[タイプライターで打ち込む音])
6.玄関 外 昼
麦わら帽、水筒、長靴姿の正也。昆虫採集網を持って走り出る正也。聞こえてくる未知子の注意を喚起する声。 T 「1」→「16」→
「16:」→「16:1」→「16:10」(SE[タイプライターで打ち込む音])
[未知子] 「帽子かぶったぁ~! 熱中症に気をつけなさい!」
正也 「はぁ~~い!(戸を閉めながら、可愛く)」
やや離れた日陰の洗い場に見えるミケとポチが涼む姿。心地よく眠るミケ。身を伏せた姿勢で目だけ開け、『このクソ暑い中を、どこ
へ行かれる…』という目つきで、出かける正也を見守る少しバテぎみのポチ。
N 「四時前に目覚めた僕は、朝から計画していたクワガタ採集をしようと外へ出た」
7.雑木林 昼
慣れたように雑木林に分け入る正也。数本のクルミの木。半ば朽ちたクルミの木の前で立ち止まり、木を見上げる正也。 T 「1」→
「16」→「16:」→「16:3」→「16:30」 (SE[タイプライターで打ち込む音])
N 「虫の居場所は数年前から大よそ分かっていた。夜に懐中電灯を照らして採集するのが最も効率がいいのだが、日中も薄暗い
雑木林だから、昼の今頃でも大丈夫だろうと判断していた」
木を眺めながら、クワガタを探す正也。草むらがザワザワと動く。ギクッ! と驚いて草むらを見遣る正也。姿を現す恭之介。
正也 「じいちゃんか…。びっくりしたよぉ(安心して)」
恭之介「ハハハ…驚いたか。いや、悪い悪い。母さんが虫除け忘れたからとな、云ったんで、後(あと)を追って持ってきてやった。ホ
レ、これ(虫除けを示し)」
正也の首に外出用の虫除けを掛けてやる恭之介。
恭之介「どうだ…、いそうか?」
正也 「ほら、あそこに二匹いるだろ(木を指し示し)」
恭之介「いるいる…。わしも小さい頃は、よく採ったもんだ」
恭之介の話を無視して動き出す正也。
N 「じいちゃんには悪いが、昔話に付き合っている訳にもいかないから、僕は行動した」
静かに木へ近づき、やんわりと虫を掴む正也。その虫を籠の中へポイッと入れる正也。
恭之介「正也、その朽ちた木端(こっぱ)も取って入れな。そうそう…その蜜が出てるとこだ」
恭之介の云う通り、樹液で半ば朽ちた木端を取り、虫籠へ入れる正也。雑木林に響く蝉しぐれ。
8.とある畔道 昼
とある田園が広がる中の畔道を歩く帰宅途中の恭之介と正也。T「1」→「17」→「17:」→「17:0」→「17:00」(SE[タイプライター
で打ち込む音])
恭之介「なあ正也、虫にも生活はある。お前だって、全く知らん所へポイッと遣られたらどうする。嫌だろ? だからな、採ったら大事に飼
ってやれ。飼う気がなくなったら、元へ戻してな…」
N 「じいちゃんの云うことは的(まと)を得ている」
9.台所 夜
食卓のテーブルを囲む四人。夕食中。T「1」→「19」→「19:」→「19:0」→「19:00」(SE[タイプライターで打ち込む音])
恭之介「ははは…、正也も、なかなかやるぞぉ~」
恭一 「そうでしたか…(小笑いし)」
恭之介「お前の子供の頃より増しだ」
しまった! と、口を噤(つぐ)んで下を向く恭一。
N 「じいちゃんは手厳しい。父さんは返せず、口を噤んで下を向いた。今年の夏が終わろうとしていた」
SE[タイプライター音のチーン!という音])
F.O
タイトル「夏の風景(第十話) 昆虫採集 終」
※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「短編小説 夏の風景☆第十話」 をお読み下さい。