水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

残月剣 -秘抄- 《剣聖②》第四回

2009年12月06日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖②》第四回
「蟹谷さんが昨日、先生に会われたとか…」
「えっ! 先生に…。それは誠(まこと)ですか? ど、どこでです?」
 一馬と鴨下が話す声が廊下を歩いていた左馬介の耳に偶然、こえた。丁度、葛西の権十(ごんじゅう)という百姓が、畑で採れた作物を持って道場へやって来たので、その応対をして小部屋へと戻る矢先であった。だから、左馬介としては聞こうとして聞いた話なのではない。ただ、偶然に聞いた話としては、余りにも左馬介の心を乱す内容であった。蟹谷は客人身分だから、外出中にどこで幻妙斎に出会おうと、決して不思議ではない。だが、鴨下がどのようにしてそのことを知り得たのか? 謎が謎を呼んで、左馬介の心を掻
き乱した。
 その日の夜、十三夜の朧月が見られた。それも、晩春の薄雲が霞み棚引
く程度で、煌々とした光が地上を照らしていた。
「いい月ですねえ…。つかぬことをお訊きしますが、昼、一馬さんと話されていた蟹谷さんが先生と会われた、という一件なんですが…」と、単刀直入に左馬介は鴨下へ投げ掛けた。すると鴨下は、朧
月を眺めながら、
「ああ…その話でしたか。いやあ、私も偶然、と云えば偶然なんですがね…」と云って笑い始めた。


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シナリオ  夏の風景(第七話) カラス

2009年12月05日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      夏の風景
      
(第七話)カラス

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

   N      ・・湧水正也
   その他   ・・猫のタマ、犬のポチ

.(回想) 玄関 外 早朝
   タイトルバック
   ラジオ体操から帰ってきた正也。玄関戸を開け、
内へ入る正也。玄関戸からゴミ袋を提げ、外へ出る未知子。
  未知子「気をつけてね(機嫌よく)」
  正也  「うん!(可愛く)」
   玄関内にある犬小屋のポチがクゥーンと鳴く。
玄関戸を閉め、家を出ていく未知子。
   
玄関の外景。
   O.L

2.もとの玄関 外 早朝

   O.L
   玄関の外景。
   帰ってきた未知子。出た時とは違い、かなり機嫌が悪い未知子。
  N   「今朝は母さんの機嫌が悪かった。その原因を簡単に云うと、全てはカラスに、その原因が由来する」

3.台所 朝
   食卓テーブルの椅子に座り、新聞を読む正也。玄関から炊事場に入り、朝食準備を始める未知子、何
やら呟いて愚痴っている。耳を欹
   (そばだ)てる正也。
  N   「入口で擦れ違った時の母さんは、普段と別に変わらなかった。でも、戻って以降の母さ
んは、様相が一変していた」
  [未知子] 「ほんと、嫌になっちゃう!…(小声で)」
   読むのを止め、さらに耳を欹てる正也。
  [未知子] 「誰があんなに散らかすのかしら!(小声で)」
  正也  「母さん、どうしたの?(心配そうに)」
   格好の獲物が見つかったという目つきで正也を見据える未知子。
  未知子「正也、ちょっと聞いてよっ!」
  N   「僕は、『いったいなんだよぉ…』と、不安になった。長くなるから簡略化すると、要はゴミの散乱
が原因らしい」
   離れから現れる恭之介。正也の隣の椅子に座る恭之介。
  恭之介「未知子さん、飯はまだかな…(炊事場の未知子を見遣り)」
   鼻息を弱め、俄かに平静を装う未知子。
  未知子「はい、今すぐ…」
  N   「母さんの鼻息は弱くなった。いや、それは納まったというのではなく、内に籠ったと表現した
方がいいだろう」
   小忙しくネクタイを締めながら食卓へ現れる恭一。正也の対面の椅子へ座る恭一。トースト、ハム
エッグ、サラダ、卵焼き、味噌汁、焼
   き魚などを次々に運ぶ未知子。それを次々に手際よく並べる正也。
無言で両手を合わせ、誰からとなく食べ始める三人。
  未知子「あなた、いったい誰なのかしら?(運びながら、少し怒りっぽく)」
  恭一 「ん? 何のことだ?(新聞を読みながら、トーストを齧って)」
   箸を止める恭之介。
  未知子「いえね…、ゴミ出しに行ったら散らかし放題でさぁ、アレ、なんとかならないの?(ようやく椅
子に座り)」
  恭一  「ああ…ゴミか。ありゃ、カラスの仕業さ。今のところは、どうしようもない。その内、行政の方で
なんとかするだろう…」
  未知子「それまで我慢しろって云うの?(不満げに)」
  恭一  「仕方ないだろ、相手がカラスなんだから」
   見かねて声をかけ、割って入る恭之介。
  恭之介「おふた方、まあまあ。…なあ、未知子さん。カラスだって生活があるんだ。悪さをしようと、やっ
てるんじゃないぞ。熊野辺りでは、
       カラスを神の使いとして崇めると聞く。まあ、見なかったこ
とにしなさい。それが一番!」
   恭之介を見遣る三人。タマが、仰せの通りと云わんばかりにタイミングよく、ニャ~と鳴く。
  N   「じいちゃんにしては上手いこと云うなぁ、と思った。でも、散らかる夏の生ゴミは臭い」
  恭一  「父さんの云う通りです。蚊に刺されて痒い思いをするのに比べりゃ、増しさ(笑って)」
  恭之介「あっ、恭一、いいこと云った。殺虫剤、忘れるなよ」
  恭一  「分かってますよ、父さん…(小声になり)」
  N   「薮蛇になってしまったと、父さんは萎縮してテンションを下げた」
   F.O
   タイトル「夏の風景(第七話) カラス 終」

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「短編小説 夏の風景☆第七話」 をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《剣聖②》第三回

2009年12月05日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖②》第三回
知識よりも実際の技でしか腕の向上はないのである。そういうことで、左馬介にとって、幻妙斎の出現を期待した自らが情けなかったのである。この時から、左馬介の剣に対する捉え方が著しく変
化していった。
 端午の節句が過ぎると、下駄履きの足裏がいつの間にか汗ばむようになる。雪駄に足袋でも冷えた冬の足元も、春先には足袋も取れ、そして今頃からは下駄履きである。その下駄履きの足も風呂の湯温が徐々に上がっていくように、季節とともに快適か蒸れへと変化する。そして秋には、ふたたび快適となり、やがては冷えを伴って足袋を欲するようになる…といった按排(あんばい)だ。この足元の感覚は、勿論、手先だってそうなのだが、剣をえたときの運びと微妙に関連を持っているのである。一年をして考えれば、厳寒の冬以外は生理的に辛さを感じるといっことはないが、それでも夏場は汗ばんで臭ったりして、不快感覚えることはあった。今年に入って初めて、左馬介はその感触覚えていた。梅雨入りには未だ少し早かったが、それでも初夏思わせる暖気が流れる暑い一日であった。昼の賄いの片付も終わり、午後の形稽古が始まる迄の僅かな休息の時が流ていた。


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シナリオ 夏の風景(第六話) 肩叩き

2009年12月04日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      夏の風景
      
(第六話)肩叩き

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

   N      ・・湧水正也
   その他   ・・猫のタマ、犬のポチ

.庭 夕方
   タイトルバック
   庭に打ち水をしている正也。縁台に座って肩を摩(さす)る恭之介。縁側の床板
の上で心地よく寝ているタマ。その横で二人を見つ

   るポチ。ひと息、入れる正也。
  N   「じいちゃんが珍しく肩を摩っている。じっと見ていると、今度は首を右や左に振り始
めた。縁台に座るじいちゃんと庭の風情が、
       実によくマッチしていて、どこか、哀愁を感
じさせる」
   西山へ帰っていく鴉の鳴き声。オレンジと朱色に染まった空。白色に近い煌めきの光線を放ち、西山へ近づく夕陽。
   テーマ音楽
   タイトル「夏の風景(第六話) 肩叩き」
   キャスト、スタッフなど

2.庭 夕方
   バケツを片づけ、恭之介に近づく正也。
  正也  「じいちゃん、肩を叩いてやろうか?」
  恭之介「ん? ああ…正也か。ひとつ頼むとするかな。ハハハ…わしも歳だな(少し気弱に云
い、小笑いして)」
  N   「気丈なじいちゃんの声が、幾らか小さかった」
   恭之介の後ろに回り、肩を叩き始める正也。
  恭之介「ん…よく効く…効く(気持よさそう)」
   暫(しばら)く叩く正也。
  恭之介「すまんが今度は軽く揉んでくれ(優しい声で)」
   素直に、叩きから揉みへと動作を移行する正也。
  恭之介「ああ…、うぅ…。お前、上手いなぁ…」
  正也  「へへっ…(照れて、可愛く)」
   揉み続ける正也。心地よさそうな表情の恭之介。
  N   「僕の下心を既に見抜いているなら、じいちゃんは大物に違いない。案の定、ひと通り
終えた頃、じいちゃんの方から仕掛けてき
       た。これには参った」
  恭之介「え~正也、何か欲しい物でもあるのか?」
   ギクッ! として、動作を止める正也。
  正也  「うん、まあ…(可愛く、暈し口調で)」
  恭之介「男らしくはっきり云え。買ってやるから…」
  N   「僕は遂に本心を露(あらわ)にして、玩具が欲しいと云った」
  恭之介「では、明日にでも一緒に店へ行ってみるか…」
  正也  「ほんと?(可愛く)」
  恭之介「武士に二言はない!(厳しく)」
   廊下のガラス戸を開け、呼ぶ未知子。
  未知子「夕飯ですよ~、お父さま。正也も早く手を洗いなさい」
   すぐに窓を閉め、引っ込む未知子。
  恭之介「さあ飯だ、飯だ」
   縁台を勢いよく立つ恭之介。恭之介の頭に止まる一匹の蚊。
  恭之介「コイツ!」
   自分の頭をピシャリと叩く恭之介。スゥ~っと飛び去る蚊。
  恭之介「殺虫剤を撒かないと、このザマだ、ハハハ…(声高に笑い)」
   山へ沈む夕陽と、夕陽を受けて輝く恭之介の頭。
  N   「僕は光る蛸の頭をじっと見ていた。夕陽とじいちゃんの頭が、輝いて眩(まぶ)しかっ
た」
   F.O
   タイトル「夏の風景(第六話) 肩叩き 終」

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「短編小説 夏の風景☆第六話」 をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《剣聖②》第二回

2009年12月04日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖②》第二回
「随分と、いろいろ入ってますねえ…」
 鴨下が素直に心情を吐露する。左馬介にもその訳は分からないから、誤魔化して「ええ…」とだけ答えた。一馬にもそこ迄は訊いていない。後に分かったことだが、この納戸に収納されている衣類や調度品の数々は、堀江家伝来の品だそうで、堀江家は由緒正しい家柄のようであった。なんでも、堀江妙兼(幻妙斎)で十数代続いていると一馬は云った。左馬介には、そのようなことはどうでもよったが、堀江幻妙斎という人物の人となりについて、もう少し知
い…とは思った。
 納戸のことは兎も角として、幻妙斎のことを一馬から訊きだすことは出来そうにない。自分だけではなく全ての者がそうなのだから、それはそれで致し方ないのだろう。今迄の自分が恵まれていて、幻妙斎に度々、あえたのだ。今日直ぐにでも会って指南を仰ぎたいのは山々だが、そうすることは左馬介の方から出来ない。左馬介は自らを叱責した。師に頼っている自分が情けなかったのである。よく考えれば、師の幻妙斎に会えたとして、どのようになるというのか…。剣を手にして、振るのは自分なのである。師が振る訳ではないのだ。師から、もしも『…とせよ』と指南を受けたとしても、体が覚えなければ、身には、つかないのだ。


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シナリオ 夏の風景(第五話) アイス・キャンデー事件

2009年12月03日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      夏の風景
      
(第五話)アイス・キャンデー事件

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

   N      ・・湧水正也
   その他   ・・猫のタマ、犬のポチ

.洗い場 昼
   タイトルバック
   ポチが、水が湧く洗い場から流れ落ちる水を利用して水浴びしている。タマも日
陰で涼んでいる。うだるような炎天下。五月蠅いほど
   
の蝉の集き。快晴の蒼い空。湧き立つ雲。

2.離れ 昼
   団扇をバタバタやるが、咽返る暑気に、おっつかず、萎え気味の恭之介。その傍で昼寝する
正也。外戸は開け放たれているが、風が
   全くない。
 N   「今日は朝から気温がグングン昇り、昼過ぎには、なんと、36度を突破した。いつもは気
丈なじいちゃんでさえ、流石に萎えてい
      る」
   灼熱の太陽。湧き上る入道雲。
   テーマ音楽
   タイトル「夏の風景(第五話) アイス・キャンデー事件」
   キャスト、スタッフなど
   外戸のある廊下側へ移動して座る恭之介。
 恭之介「地球温暖化だなぁ…。わしらの子供の頃にゃ考えられん暑さだ。ふぅ~、暑い暑い…」
   声で目覚め、恭之介の方へ寝返りをうって薄目を開ける正也。
 N   「隣で昼寝をしていた僕は、じいちゃんのひとり言に、安眠を妨害され目覚めた。声がし
た方へ首を振ると、じいちゃんは団扇をパ
      タパタやっている。じいちゃんが電気モノが
嫌いなので、僕はいい迷惑を蒙っている」
 恭之介「こりゃかなわん。水を浴びるか…。真夏日、いや、猛暑日だとかテレビが云っとったな
(呟いて)」
   ヨッコラショと立ち上がる恭之介。一瞬、足元の正也を見る恭之介。二人の目と目が偶然、
合う。
 恭之介「なんだぁ正也、寝てなかったのか?」
 正也  「…でもないけど(小声で可愛く)」
 N   「そんなことを云われても、暑さに加えて団扇パタパタ小言ブツブツでは、眠れる方が怪
しい」
   一瞬の無言の間合い。
 正也  「じいちゃん、冷蔵庫にアイス・キャンデーがあるよ。朝、二本買っといたから、一本やる
よ」
 恭之介「ほう…気前がいいな。正也は金持ちだ…。じゃあ、浴びてから戴くとするかな(笑っ
て)」
   母屋の方へ遠ざかる、廊下を歩く恭之介。
   O.L

3.離れ 昼
   O.L
   母屋の方から近づく、廊下を歩く恭之介。
 N   「しばらくして、僕がまた眠りかけた頃、シャワーを終えたじいちゃんが、また戻ってきた」
   寝ている正也を覗き込む恭之介。
 恭之介「おい、正也。キャンデー一本しかなかったぞ」
 正也  「えぇーっ! そんなことないよ。ちゃんと二本、買っておいたんだからっ(少し驚いて)」
 恭之介「いや、確かになかった…」
   跳ね起きる正也。冷蔵庫のある母屋へと廊下を走り去る正也。
   O.L

4.離れ 昼
   O.L
   冷蔵庫のある母屋から、廊下を走って近づく正也。手にキャンデーを持つ正也。    
 正也  「じいちゃんの云う通りだった…」
 恭之介「だろ?」
   無言で首を縦に振り、頷く正也。しぶしぶ手に持つキャンデーを恭之介に手渡す正也。受け取る恭之介。
 恭之介「いいのか? 悪いなぁ…(小笑いして)」
 N   「僕は云った手前、仕方ないな…と諦めて、残りの一本をじいちゃんにやった。消えたア
イス・キャンデー。犯人は誰なのか…、僕
      は刑事として捜査を開始した」

5.台所 夕方
   食事時の団欒。食卓のテーブルを囲む四人。
  恭一「なんだぁ、食っちゃいけなかったのか? つい、手が出たんだが…。すまんな」
   談笑する四人。
  N   「夕方、呆気なく犯人が判明した。犯人は父さんだった。今日は日曜で、一日中、書斎
へ籠りパソコンと格闘していたのだ。僕
       は、まず母さんを疑っていた。あとは母さんだ
けと思い、父さんを忘れていたのだから、まあ、父さんもその程度のものだ」
  恭一  「ハハハ…、今回は父さんが悪かったな。しかし正也、買った食い物は早く食べんと
な」
  恭之介「そうだ、それは父さんの云う通りだぞ、正也」
   機嫌よく笑う恭之介。唐突に話しだす未知子。
  未知子「今日はゴキブリ出ないわねぇ(恭一を見て)」
  恭一  「そりゃそうさ。昨日、仕掛けといたからなぁ(自慢げに)」
   得意そうに解説する恭一。仕方なく聞く三人。
  N   「罠にかかったゴキブリが、『馬鹿馬鹿しい…』と云った。…これは飽く迄も想像だが…」
   F.O
   タイトル「夏の風景(第五話) アイス・キャンデー事件 終」

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「短編小説 夏の風景☆第五話」 をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《剣聖②》第一回

2009年12月03日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖②》第一回
 道場の門弟達にとっての楽しみと云えば、そう幾つもあるものではない。日々の修練を積み重ねる剣の道なのだから、それはそれで仕方がない…と思えるが、そこは
それ、やはり人間なのである。
 皐月に入れば、行事的に宴席へ招かれるといったこともなく、早や端午の節句である。この時期だけ道場の中央神前に飾られる兜(かぶと)が、左馬介と鴨下の手によってふたたび収納されようとしていた。千鳥屋で蟹谷が四度目の五十文を手にした頃のこと
である。
「あとは私がやっておきますから、鴨下さんは、もう部屋へ戻って
下さい」
「いいえ、私も覚えておきたいですから…」
「左様ですか? じゃあ、この手燭台を持って照らして下さい」
 蝋燭の灯りで、かろうじて辺りに納められた調度品などが見えるといった程に暗くて気味悪い納戸の中である。鴨下が先導する形で奥へと進んでいく。左馬介は一馬に教えを乞うていたから収納場所を知ってはいたが、実のところ、去年の梅雨時に入門したのだから、この兜を収納するのは初めてなのである。だから、余り先輩面(づら)を出来るほど周知はしていなかった。それでも一応は古参として振る舞うのだった。


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シナリオ 夏の風景(第四話) 花火大会

2009年12月02日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      夏の風景
      
(第四話)花火大会

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

   N      ・・湧水正也
   その他   ・・猫のタマ、犬のポチ

1.台所 朝
   タイトルバック
   朝食後。食卓テーブルの椅子に座り、テレビを観る恭之介と正也。沈黙が続くテーブル。テ
レビの音と炊事場で未知子が片づけをす
   る音のみが響く。
  N   「僕の家では毎年、恒例の小さな花火大会が催される。とは云っても、これは、どこの
家でも出来る程度の小規模なものなのだ
       が…」
   急須の茶を湯呑みに注ぎ、一気に飲み干す恭之介。
  恭之介「正也、今日は例の大会だなぁ、ハハハ…」
  正也  「じいちゃん、花火は買ってくれたの?」
  恭之介「ん? いやぁ…。未知子さんが買うと云ってたからな…(表情を少し曇らせて)」
   急に温和(おとな)しくなる恭之介。ふたたび、沈黙が続くテーブル。テレビの音のみが響
く。タマが急に、ニャ~と美声で鳴く。椅子
   を立って、子供部屋へ向かう正也。
   テーマ音楽
   タイトル「夏の風景(第四話) 花火大会」
   キャスト、スタッフなど

2.玄関 朝
   出勤しようと、框(かまち)に腰を下ろし、靴を履いている恭一。
  N   「花火を買ってくるのは父さんの場合もあり、母さんになるときもあった。じいちゃんも
買ってくれたとは思うが、僕の記憶では一
       度こっきりだった。僕も主催者の手前、な
けなしの小遣いをはたいて買い足し、花火大会を楽しむのが常だった」
   子供部屋へ行く途中、恭一に気づき、立ち止まる正也。
 正也  「今日は、花火大会だからね(可愛く)」
 恭一  「そうだったな…。じゃあ、早く帰る(無愛想に)」

3.台所 夜
   食後の団欒。恭之介、正也、未知子が食卓テーブルを囲む。テレビが賑やかに鳴っている。
 N   「毎年、開始は夕飯後の八時頃だった。僕は昼間に近くの玩具屋でお気に入りの花火
を少し買っておいた。そして何事もなく、い
      よいよ八時近くになった」
 正也  「花火はどこ? 母さん(可愛く)」
 未知子 「えっ! 今日だった? 明日だと思ってたから買ってないの」
 正也  「云ってたのに !(怨みっぽく云った後、グスンと少し涙して)}
   涙目の正也を見遣る恭之介。
 恭之介「正也! 男が、これくらいのことでメソメソするんじゃない!(顔を赤くして立って叱り」
   涙ぐんだ目を擦る正也。恭之介を見上げる正也。
 N   「僕の前には怒った茹で蛸が立っていた。でも、その蛸はすぐにグデンと柔らかくなった」
 恭之介「まあ、いいじゃないか、今日でなくても…(優しく笑って)」
   蕭々と現れる風呂上がりの恭一。
 恭一  「フフフ…。正也も、まだ子供だな(ニヤリとし)」
   黙って恭一を見遣る正也。
 N   「云われなくたって僕は子供さ、と思った」
   片隅に置いた袋を手に取る恭一。
 恭一  「お父さん。こういうこともあろうかと、ほら、今年は私が買っておきましたよ(少し自慢げ  
に)」
 恭之介「おぉ…珍しく気が利くな、お前(笑顔で)」
 恭一「ついでにコレも買っときました(さも自慢げに)」
   殺虫剤を袋から取り出し、恭之介に見せる恭一。
 恭之介「ああ…コレなぁ。切れたとこだったんだ(喜んで)」

4.庭 夜
   水の入った防火バケツ。縁台と庭先に座り花火を観賞する四人。闇に綺麗な火花を落とす
花火。浮き上がる四人の姿。小さな歓声
   と談笑。時折り、ウトウトする恭之介。少し離れた芝
生で、四人の様子と花火を鑑賞するタマとポチ。
 N   「しばらく経つと、暗闇の庭には綺麗な花火の乱舞が広がり、四人の心を癒していっ
た。でも、じいちゃんは半分、ウトウトしてい
      た」
   F.O
   タイトル「夏の風景(第四話) 花火大会 終」

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「短編小説 夏の風景☆第四話」 をお読み下さい。


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残月剣 -秘抄- 《剣聖①》第二十九回

2009年12月02日 00時00分00秒 | #小説

         残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《剣聖①》第二十九回
 余程、五郎蔵一家の嫌がらせには困っていたように思える喜平の道場に対する肩の入れようだった。五郎蔵一家が道場の蟹谷、樋口、山上の三人によって始末されてからというもの、商売敵(がたき)の三洲屋も廃墟と化し、今は泊り客にも事欠かない千鳥屋である。喜平が堀川一門を崇(あが)め奉(たてまつ)るのも、当然といえば当然
だと云えた。
 蟹谷は鱧の骨きりを酢味噌に付け、口へと運びつつ酒を飲む。やがて、頃合いに身体が火照れば、道場への帰途につく。客人身分とはいえ、門限だけは別で、刻限迄に戻らないと、場内へは入れない。外の行動に関しては無礼講で、勝手気儘(きまま)が許されている
はいえ、これのみ、どうしようもなかった。
 帰路の約十町は足取りが軽くなる。懐(ふところ)に入った手間賃の五十文も、ずしりと重く感じられる。蟹谷にとって、薪割りの小仕は今月に入りこれで三度目で、あと二度もやれば、これでこの月一朱は道場へ納められる手筈なのだ。それに、月一度、千鳥屋用心棒まがいで喜平の供に付き合えば、また別の一朱は包んでえるといった御の字の収入源もあった。懐具合は、そういうことで苦にする必要もなかったが、剣の修練の道は、また別である。左馬介と同様、蟹谷もまた剣聖への道を模索していた。
                                

                                                      剣聖① 完


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シナリオ 夏の風景(第三話) 疑惑

2009年12月01日 00時00分01秒 | #小説

 ≪脚色≫

      夏の風景
      
(第三話)疑惑

    登場人物
   湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
   湧水恭一  ・・父 (会社員)[38]
   湧水未知子・・母 (主  婦)[32]
   湧水正也  ・・長男(小学生)[8]

   N      ・・湧水正也

1.子供部屋 夕方
   タイトルバック
   椅子に座り、机上で絵日記を書く正也。蝉が集く声。開けられた窓から入る夕映えの陽射し。
目を細める正也。
  N   「夏休みは僕たち子供に与えられた長期の休暇である。ただ、多くの宿題を熟(こな)
さねばならないから、大人のバカンスとは
       異質のものだ、と解釈している」
   一通り、書き終え、両腕を上へ広げて背伸びする正也。
  N   「今日の絵日記には、父さんと母さんの他愛もない喧嘩の様子を描いた。まあ、個人情
報保護の観点から、詳細な内容は書か
       なかったのだが、先生に知られたくなかっ
た…ということもある」
   絵日記を閉じる正也。遠くで道子が呼ぶ声。
 [未知子] 「正也~! 御飯よぉ~!」
 正也  「はぁ~い!(可愛く)」
   席を立ち、部屋を出ようとする正也。ふと、窓を閉め忘れたことに気づき、戻って閉め、溜息
をつくと、また椅子に座る正也。
   テーマ音楽
   タイトル「夏の風景(第三話) 疑惑」
   キャスト、スタッフなど   
  N   「二人の他愛もない喧嘩の経緯を辿れば、既に三日ほど前に前兆らしき異変は起きて
いた」

2.玄関 夕方
   誰もいない玄関。
   O.L

.(回想) 玄関 夕方
   O.L
   誰もいない玄関。T 「三日前」
   玄関戸を開け、バットにグラブを通して肩に担いだ正也が帰ってくる。正也が戸を閉めた途端、ふたた
び戸が開き、恭一がハンカチで
   汗を拭きながら入ってくる。
  恭一  「ふぅ~、今日も暑かったな…」
  正也  「うん!(可愛く)」
   靴を乱雑に脱いで上がる恭一。バットにグラブを通して肩に担いだまま、恭一に続いて上がる野球服姿の正
也。一瞬、立ち止まり、

   也の顔を見る恭一。
  恭一  「ほぉ~、正也も随分、焼けたなぁ! (ニコリと笑い)」
  正也  「まあね…(可愛く)」
  恭一  「今月は俺が一番だったな、助かる助かる…(ネクタイを緩めながら)」
   ふたたび慌ただしく歩きだし、正也に目もくれず、足早に奥へと消える恭一。

4.(回想)
 居間 夕方
   居間へ入った途端、乱雑に衣類を脱ぎ捨てる恭一。浴室へと消える恭一。
  N   「帰ったのは僕の方が早かったのに、逆転された格好だ。父さんは乱雑に衣類を脱ぎ
散らかして浴室へと消えていた」
   居間へ入る正也。台所から居間へ入る未知子。
  未知子「あらまあ、こんなに散らかして…。ほんとに困った人ねぇ(衣類を片づけながら)」
   
片づけ中、ふと、ズボン横に落ちた一枚の名刺らしきものに気づく未知子。クーラーで涼みながら、その様子を見ている正也。
  N   「落ちていた紙片がどういうものなのかは子供の僕には分からないが、どうも二人の
関係を阻害する、よからぬもののようだっ
       た」
   浴室から出て居間へ入ってくる恭一。クーラーで涼む正也。恭一に詰め寄る未知子。
  未知子「あなた、コレ、なによ!(膨れ面で)」
  恭一  「ん?  いやぁ…(正也に気づいて、曖昧に濁し)」
   正也の顔を垣間見る恭一。道子もチラッ! と、正也を見る。押し黙る二人。よからぬ雰囲気
を察して、居間から退去し、子供部屋へ
   向かう正也。

.(回想) 子供部屋 夕方
   子供部屋へ入る正也。机椅子に座った正也。
   O.L

6.もとの子供部屋 夕方
   O.L
   机椅子に座った正也。
  N   「その後、夫婦の間にどういう会話の遣り取りがあったか迄は定かでない。三日が経
った今も、二人の会話は途絶えている。
       息子の僕を心配させるんだから、余りいい親
じゃないように思う」
   突然、子供部屋へ入ってきた恭之介。
  恭之介「正也~、すまんがな…わしの部屋へコレをセットしといてくれ」
   蚊取り線香を正也に手渡す恭之介。
  正也  「じいちゃん、電気式の方がいいよ(蚊取り線香を受け取り)」
  恭之介「それは、わしも知っとる。だが、こいつの方がいいんだ(小笑いして)」
  正也  「ふぅ~ん…(何故かが、よく、分からず)」
   話題を変え、徐に(おもむろ)に訊く恭之介。
  恭之介「父さんと母さん、その後はどうなんだ?」
  正也  「えっ? …(恭之介の顔を見上げて)」
   沈黙する正也。それ以上は訊かない恭之介。   
  N   「僕はスパイじゃないぞ…と思った」
   F.O
   タイトル「夏の風景(第三話) 疑惑 終」

※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「短編小説 夏の風景☆第三話」 をお読み下さい。


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