世相が明るいと人々は生きやすいし、暗ければ当然、生きにくくなるのは明々白々だ。最近の世相は? と観望すれば、…と言わざるを得ない。敢(あ)えて言わないが、…まあそういうことである。人の場合だってそうだ。心理の明暗は自ずと現れる。心理を表さない人は神様仏様か達人だろう。^^
とある囲碁の本戦が幽霊の間(ま)で行われている。幽玄の間ではなく幽霊の間である。^^ 猫野柴丸名人×万力強棋聖の一局である。部屋の空調は効いて暖かいのだが、日射しが遮(さえぎ)られているからどことなく暗く、ゾクッ! と背筋が冷えるような不気味だ。だが、碁を打つ対局者の二人棋士はそんな不満を言っている場合ではない。一局集中、碁盤をジィ~~っと見つめるだけである。
猫野名人が三々へ碁石をスゥ~っと、か細く置いた。黒番だから暗く、白番だから明るいという訳ではない。^^
「黒、17の三…」
記録係の女性がヤンワリと、いい声で告げる。AI好みの一手である。^^ 万力棋聖は、そうきたか…と、ニンマリした心の眼差(まなざ)しで熟考する。
「万力棋聖、残り7回です…」
時計係が渋い声で呟(つぶや)くように告げる。万力棋聖が放った次の一手は本局を左右する分水嶺となった。しばらくすると、両棋士の心理に明暗が現れ始めた。だが外見上には、まったく現れない。静まり返った幽霊の間の棋戦は、世相の明暗とは関係なく打ち進められていく。
贔屓(ひいき)になりますから、敢えて結果の明暗は言わないことに致します。^^
完