過去の短編集にも登場した取扱説明書の略語が取説(トリセツ)であることは、現代の世相なら明々白々な時代となっている。ただ、この取説は、かなり複雑化している点を見逃してはならない。フツゥ~程度の頭の良さの方でも分かり辛くなってきているのである。^^
山毛は、とある電気製品を購入し、さっそく使おうと付属の取説を読み始めた。
『なになに…? AをBに設定したのち、CをDに接続し、しばらく点滅状態を確認して下さい、だとっ!?』
ここで、山毛は分からなくなってしまった。点滅状態を確認する時間が説明されていなかったのである。
『どれくらい確認すんだっ!!』
山毛は半分切れかけていた。切れたとしても誰に鬱憤を投げていいのか? も分からなかったのだが…。
『まあ、いいか…』
怒っても仕方ないか…と心を静め、山毛は、とにかく取説通りに動作を進めた。ところがそのとき、小学生の長男が山毛の書斎に飛び込んできた。
「パパ、夕飯だって…」
「ああ、今行くってママに言いなさい…」
「今って、どれくらい?」
今は今だっ! と怒鳴ろうとしても、子供に怒鳴るのも大人げないか…と、山毛は思うにとどめた。
『クソッ! 取説の奴めっ!』
ああ、取説をもう少し簡単にしろっ! 今の世相にプッツンした山毛は取説を読むのをやめ、キッチンへ向かった。
山毛さん、取説は、ゆったりした気分で読みましょう。^^
完