芥川竜之介が大正13年に書いた文。
『野人生計事』にある。
室生犀星が石川県に帰る年だった。
犀星は焼き物が好きだった。
竜之介に焼き物をくれたりもした。
しかも使い方まで指定して。
そんな犀星が竜之介の為に予約したそうだ。
良い焼き物があったからと。
その時、『買いに行きなさい!』と。
こんな表現をしたというのだ。
そして竜之介は言う。
普通なら『買いに生き給え』と表現すると。
犀星は少し変わっていたと言うのだ。
しかし、今はほとんど犀星流だ。
犀星のほうが表現が進んでいたのかも。
そんな事を思った。
ところで、何故犀星は金沢に帰ったのか。
『故郷は遠きにありて思うもの』
犀星の歌集の冒頭句だったろうか。
どうやら生活が苦しくなったのでは。
大正11年には東京大震災があった。
東京は数年間大変だったようだ。
これも竜之介の随筆に描かれている。
その後も竜之介は犀星を思っているのだ。
『いつ彼は帰ってくるのだろうか』と。
百年以上前の日本の姿。
まるで眼前に浮かぶよう感じられる。
これはこれで楽しいものだ。