昨日の夜は、木村元彦著『オシムの言葉』と雑誌Numberの『完全保存版イビチャ・オシム』を読んでおりました。
オシムのサッカーは、選手の走る量と質と判断のスピードを極限まで上げさせて、相手チームの選手の技術の高さや身体的な強さを無効化しようとするサッカーであったと思う。
守備の時だけでなく攻撃の時こそ献身的に走り回ってチームが一つの生き物のように動く美しくて楽しいムービングサッカー。
センターバックが相手ペナルティーエリアに進出してボランチがフォワードを追い越してゴール前に飛び込んでいっても、守備となった時に破綻しないサッカー。
そんな攻撃的なサッカーを日本で見る事が出来たのは幸運だったと思う。
サッカーの型はいろんな型があって何が正解かなんてものは多分無く、趣味の問題ではあると思う。
でも、オシムがJリーグのジェフ千葉で指揮を執る以前は、トータルフットボールの変型とも言えるムービングサッカーをしているチームは無かった、と思う。
そして今も無い、と思う。
我々は、稀有なものを見ることが出来た幸運に恵まれていたのだ、って今にして思う。
木村元彦著の『オシムの言葉』は、まだオシムが日本代表の監督になる前のジェフ千葉の監督時代に木村元彦によって書かれたノンフィクション。
オシムの、ジェフ千葉での逸話だけでなく、旧ユーゴスラビアやギリシアやオーストリアでの話も豊富に載っている。
当時、世界最強のチーム(の一つ)と言われたユーゴスラビア代表が、チーム内は結束が高かったにも関わらず、ユーゴスラビア内戦で引き裂かれていく過程も描かれている。
オシムがジェフ千葉の監督をしていた時にオシムの通訳をしていた間瀬秀一という人のお話もある。
彼は、オシムの通訳をしていて、将来Jリーグの監督になりたい、と思ったそうだ。
今、彼は、我等がファジアーノ岡山でコーチをしている。
雑誌Numberの『完全保存版イビチャ・オシム』は、オシムが病気で倒れた後、南アフリカWカップアジア予選時から南アフリカWカップ本戦までの期間の日本代表や日本サッカーについて語ったインタビュー集が中心となっている。
所々慎重な言い回しが目立つのは、日本代表のスタッフや選手達に気をつかっている為か。
変な言い方をすると、メディアに利用されてしまうかもしれないことを恐れているのかもしんない。
でも、お手盛りの発言はしていない。
ジョークを交えながらも、辛辣な言い方をする時もある。
その辺の匙加減は難しいだろうになあ……と思ったりする。
日本代表監督時代のインタビューの中で、オシムは「私は正しくないと侮辱されても怒らない。もっと議論しよう」とインタビュアーに(ならびに記事を読んでいる全ての人に)述べている。
インタビュアーも取材後記で書いているけど、凄い台詞だなぁ、って思う。
外国の情報戦に痛めつけられた旧ユーゴスラビア出身で、内戦前・内戦中にサッカーさえも民族対立に利用しようとして暴れまわったメディアと代表監督として対峙していた人が、メディアに対して真摯であろうとするのは如何なるメンタリティーによるものなのだろう?
サッカーへの情熱が全てを上回っているのだろうか?
二冊ともとても面白かったです。