本日8月28日は、西ローマ帝国の将軍オレステスが皇帝ネポスを追放して政府の全権を掌握した日で、第2次主教戦争のニューバーンの戦いがあった日で、土佐藩の中岡慎太郎が京都で倒幕浪士軍・陸援隊を組織した日で、ズールー戦争に敗れたズールー王国の国王セテワヨ・カムパンデがイギリス軍に拘束された日で、独ソ不可侵条約締結を受けて平沼騏一郎首相が「欧州情勢は複雑怪奇」と声明し内閣総辞職した日で、デンマークでナチス・ドイツによる占領に反対するゼネラル・ストライキが始まった日で、占領軍の先遣隊が厚木基地に上陸して横浜市に連合国軍最高司令官総司令部の本部を設置した日で、アメリカワシントンで行われた人種差別撤廃を求める市民集会でキング牧師が有名な「I have a dream」の演説を行った日で、全身に大やけどを負ったソ連サハリン州の3歳のコンスタンティン・スコロプイシュヌイが超法規的措置により札幌市に緊急搬送された日で、ゴトゥーザ様のお誕生日です。
本日の倉敷は晴れていましたよ。
最高気温は三十二度。最低気温は二十三度でありました。
明日も予報では倉敷は晴れとなっております。
枕に就いたのは黄昏の頃。
之を逢魔時、雀色時などといふ一日の内で人間の影法師が一番ぼんやりとする時に起つた事。
狐が十の夏の終わり。
部屋は四疊敷けた。
薄暗い縱に長い一室、兩方が襖で他の座敷へ出入が出來る。
詰り奧の方から一方の襖を開けて、一方の襖から玄關へ通拔けられるのであつた。
一方は明窓の障子がはまつて、其外は疊二疊ばかりの漆喰叩きの池で金魚が居る。
其日から數へて丁度一週間前の夜。
夕飯が濟んで私の部屋の卓子の上で燈下に美少年録を讀んで居た。
前後も辨へず讀んで居ると、私の卓子を横に附着けてある件の明取りの障子へ、ぱら/\と音がした。
忍んで小説を讀む内は木にも萱にも心を置いたので、吃驚して振返へると又ぱら/\ぱら/\といつた。
雨かしら?
時しも夏の終わり。
洋燈に油を注す折りに覗いた夕暮れの空の模樣では、今夜は眞晝の樣な月夜でなければならないがと思ふ内も猶其音は絶えず聞こえる。
おや/\裏庭の榎の大木の彼の葉が散込こむにしては風もないがと、然う思ふと、はじめは臆病で障子を開けなかつたのが、今は薄氣味惡くなつて手を拱ぬいて思はず暗い天井を仰いで耳を澄ました。
一分、二分、間を措いては聞こえる霰のやうな音は次第に烈しくなつて一時は呼吸もつかれずものも言はれなかつた。
しばらくして少し靜まると、再びなまけた連續した調子でぱら/\。
思ひ切つて障子を開けた。
池はひつくりかへつても居らず、羽目板も落ちず、月は形は見えないが光は眞白にさして居る。
とばかりで、何事も無く手早く又障子を閉めた。
音はかはらず聞こえて留まぬ。
何だか屋根のあたりで頻りに礫を打つやうな音がした。ぐる/\渦を卷いちやあ屋根の上を何十ともない礫がひよい/\駈けて歩行く樣だつた。
一週間經つた。
黄昏は少し風の心持ち、私は熱が出て惡寒けがしたから掻卷にくるまつて寢てゐた。
眠くはないのでぱちくり/\目を明いてゐても物は幻に見える樣になつて天井も壁も卓子の脚も段々消えて行く心細さ。
枕頭へ……ばたばたといふ跫音。
ものの近寄る氣勢ひがする。
枕をかへして頭を上げた。
が、誰れも來たのではなかつた。
ちうちう鳴く奴等かしらん?
怖ひ。
しばらくすると再び、しと/\しと/\と摺足の輕い譬えば身體の無いものが踵ばかり疊を踏んで來るかと思ひ取られた。
また顏を上げると何にも居らない。
其時は前より天窓からの景色が重く見えた。
顏を上げるが物憂かつた。
繰返へして三度、また跫音がしたが、其時は枕が上がらなかつた。
室内の空氣は唯彌が上に蔽重つて、おのづと重量が出來きて壓へつけるやうな重さ。
鼻も口も切なさに堪へられず、手をもがいて空を拂ひながら呼吸も絶え/″\に身を起こした。
足が立つと思はずよろめいて向うの襖へぶつかつたのである。
其のまゝ押開けると、襖は開いたが何となくたてつけに粘氣りけがあるやうに思つた。
此處では風が涼しからうと、其れを頼みに恁うして次の室へ出たのだが矢張り蒸暑い。
押覆つたやうで呼吸苦い。
最う一つ向うの廣室へ行かうと、あへぎ/\六疊敷を縱に切つて行くのだが瞬く内に凡そ五百里も歩行いたやうに感じて、疲勞して堪へられぬ。
取縋るものはないのだから、部屋の中央に胸を抱いて、立ちながら吻と呼吸をついた。
かの恐しい所から何の位ゐ離れたらうと思つて怖々と振返へると、ものの五尺とは隔たらぬ私の居室から不気味な気配がする。
ちうちう鳴く奴等ぢゃない! 大きな昏い不気味な何か! 薄ぼんやりと揺ら揺らふらふらとゆつくり近づいてくる!
思はず駈け出した私の身體は疊の上をぐる/\まはつたと思つた。
其のも一つの廣室を夢中で突切つたが、暗がりで三尺の壁の處へ突當つて行處はない。
此處で恐しいものに出遭うのかと思つて、あはれ神にも佛にも聞こえよと泣き叫んだ。
恐しいものに出遭つた時に唱えるやうに教えられていた呪文を叫んだ。
そして熱に魘されながら叫んでいた私は其の儘気絶した。
其の時、何が現れたのか知らない。
熱に魘されていたので幻を見たのかもしれない。
禍々しき昏いぼんやりとした黒い何か。
気絶していた狐は家の者に起こされた。
其処にはもう禍々しき昏い黒い何かはいなかつた。
其の時以来、禍々しき昏い黒いものを見ていない。
呪文が効いたのかしらん?
でも時々、暗闇の中に奇妙な気配を感じる時がある。
闇の中で息を殺し此方をぢつと見る何か。
そんな時は其処から直ぐに離れるやうにしている。