シネ・ウインドで開催されていた恐怖映画祭、3作品観てきたので感想を書いていきます。
「地獄の警備員」
大企業に就職した女性が、1990年代の今よりも露骨なセクハラパワハラが普通に存在する嫌な社風の中で仕事をしていると、社内で少しずつ異変が起こり、やがて一人の警備員が社員を一人また一人と殺害していき、自分も命を狙われる恐怖に巻き込まれていく…
高級絵画の売買の仕事をする主人公や人事部などに対し、地下のガードマンの部屋では借金の催促があるなど、一つの大企業の中で経済格差を描いたり、誰にも理解できない殺人鬼の気持ちなど、人間の分断を随所で強調していて、黒沢清監督らしい人間の奥深くにある闇を描いたホラー、見応えがありました。
20年前のまだ若い松重豊さんが何を考えているのか分からない不気味さを漂わせたまま殺人を次々と行っていく「地獄の警備員」を怪演していて、これが映画デビューとは思えない存在感。
殺人行為の一つ一つも直接的なグロ描写はないけれど、人間の肉体を破壊して命を奪っていく行為を生々しく描いていて不気味でした。
「屋敷女」
出産間近の妊婦の女性が一人で家にいると、謎の女が家に侵入して命を狙ってくるという、一番起こってほしくないことが一番起こってほしくない時に起こるスラッシャー映画。
最初は普通のドラマみたいに始まるのに、終盤では目をを背けたくなるほどのグロ描写に…
最初はちょっと不気味で怖いな…と思った程度のところで警察を呼ぶも、特に異変はなくて帰っていき、一安心…と思ったら家の中に殺人女が!という予想できないタイミングで襲い掛かる恐怖。
途中で家族や知り合い、警察などが助けに来るかと思いきや、毎回毎回殺されていくという絶望感も凄まじい。
かなり直接的なバイオレンス描写の痛々しさはもちろん、女の正体や目的が分からないまま執拗に妊婦の主人公の命を狙ってくるのが不気味すぎる。
そんな女の正体を知った時は恐怖以外に悲しみすら感じて、肉体以上に心も痛かった。
その直後に、見ているだけで痛覚を刺激されていまうような痛々しい直接的な暴力が怒ってしまう悲劇が…
どこまでも人の心を破壊する映画!怖すぎる!
「悪魔の墓場」
ロンドン郊外、バイクで移動中の男と車の運転中の女が事故を起こし、なりゆきで車で行動を共にしていると死者が蘇り襲い掛かってくる事態に巻き込まれるゾンビ映画。
ゾンビ騒動の意外な原因が少しずつ明かされていくミステリー要素もあり面白かった。
事態がどんどん悪化してエスカレートしていくパニック展開も脚本が上手くて引き込まれる。
最悪の出会い方をした男女が命の危機の中で行動を共にし絆のようなものが芽生えていく一方、事態の重さを理解しない警察に疑われるなど、極限状況で人間の強さも弱さも本質を描くあたりもまさにゾンビ映画の魅力。
必死に生き延びようとした人間があっさり命を奪われていく無常さを感じつつも、エスカレートしていくゾンビパニック。
最後は一応解決したか…と思わせてまさかのラストも、後味が悪いけれど脚本が上手いからどんでん返し的な感動もあり、ゾンビ映画らしいむきだしの人間の醜さに復讐している感じがしました。
以上、邦画1作と洋画2作で、殺人鬼2作とゾンビ1作を描いた恐怖映画祭、なかなか怖かったけれど楽しみました。
個人的にホラー映画は心霊や妖怪の登場する映画が好きで、何故なら恐怖の中にもワクワクを感じるのですが、この3作は「人間の恐怖」を突きつけられる、いい意味で後味が悪い恐怖を描いていて、容赦なかったですね。