という訳で、1月から順番に思い出を振り返って行ってみようと思います。
このブログに書いていなくて、1月にあった大きな思い出というと、Edge Bronx Theater「売春捜査官」を観に行ったことがあります。
1月12、13日に、会場は万代市民会館で行われた公演でした。
新潟演劇界でかなり話題になった公演で、1月の新潟はまさに空前の売春ブームでした。
この時僕は、劇団@nDANTE「お勝手の姫」の稽古に出ていた時で、1月12日、稽古の合間にお勝手の姫メンバーと見に行ったのでした。
僕はこの公演を観劇前から非常に楽しみにしていて、1月に稽古見学に行ってしまったほど。
詳しくはこちら。「新春☆売春☆初脱がされ!」
という訳で、今更ですが感想でも書いてみましょうか。
物語の中心となるのは、警視庁の女性捜査官・木村伝兵衛。
木村伝兵衛は美人の敏腕刑事でありながら「売春は私の趣味」「警察の仕事は立派な犯罪者を育てること」などかなり強烈な台詞を連発するエキセントリックな人物。
その日、木村のもとにやってきた若手刑事、熊田留吉は、自分の妻を電話越しに「豚!」と罵るような、これまた一筋縄ではいかない人物。
更に、長年、木村の補佐官を務めてきたのはチャオ万平という人物で、彼はゲイです。
そんなアクの強い人物ばかりの警視庁に、殺人犯として連れてこられたのは、大山金太郎という人物。
登場人物たちの激しい感情がぶつかり合う中で、大山の捜査は進んで行く。
まあ、こんな感じの四人芝居です。
あ、実際チョイ役で客演してる役者さんがいましたけどね(俺の見た時はへんみさんでしたが、回によっては島村さんでした)
結論から言うと、非常に面白かったです。
何が良かったって、やっぱり、演出、役者ともに、表現にブレーキをかけず、常に全力で舞台を作っていたことだと思います。
舞台の初っ端から、木村役の枝並さんが、へんみさんを大声で罵ったり、熊田役の高田さんに殴る蹴るの暴行を加えるなど、インパクトあり過ぎのシーンが続く。
そして、オープニングテーマ、斉藤和義の「優しくなりたい」が流れるのですが…
なんと、その曲が始まった途端、犯人の大山役の羽田さんが客席の後ろの方から歌いながら登場したではないか!
因みに、大山の初登場はここで、物語の鍵となる人物をこんなコントみたいに登場させちゃっていいのかよ!
そして大山役の羽田さんと一緒に、歌いだす、木村役の枝並さん。
更にその後ろでは、チャオ万平役の荒井さんと、熊田役の高田さんがギターとベースを弾き…ってこれ完全悪ふざけでしょ!
と言いつつも、そこは“全力の悪ふざけ”なわけです。
(因みに、このインパクトあり過ぎなオープニングのナレーションに、ちゃっかりこの舞台の制作をしていたさっきーが出てきて笑いました)
本編は、まず大山の捜査が始まるわけですが、このシーンもさっき言った“全力の悪ふざけ”の連続です。
捜査そっちのけで全力で悪ふざけする警視庁の三人に、ひたすら大山が翻弄され続ける、コントのようなシーンが延々続く。
ここのシーン、本当に下らないんですけど、役者が本気で舞台の上で遊んでるんだなあ、ってのが伝わってきました。
実際、アドリブもかなりあったみたいですね。
そんな馬鹿馬鹿しさ全開の物語ですが、大山が過去を自白するシーンから、大山の回想シーンに。
ここでは大山以外の役者は大山の記憶の中の登場人物を演じ、更に雰囲気も一気にシリアスなものになっていく。
大山の犯した殺人の、あまりにもエグく、悲しい真実が語られる。
こうして、大山の自白シーンが終わると再び舞台は警視庁に戻り…という構成の舞台でした。
えっと、この売春捜査官はつかこうへいさんの戯曲なんですが、戯曲に登場するテーマの一つ一つが、とにかくエグい!
タイトルにもある売春から、在日朝鮮人問題、村八分、同性愛、男女差別、人間の美醜などなど、とにかく普段の生活をしていたら目を背けたくなるようなエッセンスがてんこ盛りな訳です。
個人的には、こういう「イっちゃってる」戯曲って好きです。
表現に制限をかけずに汚いものをぶちまけてしまう作品は、きれいに見せようとして表現を抑えている作品よりもよっぽど清々しいと思います。
そんな感じで、普段の生活の中では目を背けたくなるようなエグい出来事が満載の作品。
しかし、それでも舞台から目が離せなくなってしまったのは、役者の力が本当に大きい。
観客が見ていて心をえぐられるような作品だった訳ですから、それを演じる役者さんたちもそれ以上に心をえぐられながら稽古したんじゃないかと思い売ます。
そう、この舞台は四人の役者さん達がとにかく良かった!
木村役の枝並さんは、まず美人である!
こういう新潟とかの地方演劇でルックスってあんまり話題にならない気がするけど、美人であるっていうのは単純に大事だと思う!
すごい美人で色気の溢れる女優さんがエキセントリックなことするから、この舞台は面白い。
で、そんな美人の枝並さんの演技も、一つ一つがぶっ飛んでて素晴らしかった!
売春が趣味というエロ全開の女を、舞台のど真ん中でM字開脚して見せたかと思えば、本当は男性に愛されたいという女性の弱さや、格好悪さ、醜さ、最終的には母性までも見せつける。
一つの舞台の中で「女性」というものをここまで幅広く表現する枝並さんの表現力の広さを見せつけられました。。
高田さんの演じた熊田という人物は、実はかつて木村の恋人で、木村にどこまでも翻弄される人物の一人なんですが、その度に起こる感情の衝突を、全力で演技していました。
何度殴られても立ち続ける強さから、無様に土下座し続ける弱さまで、今までの舞台では見たことのない高田さんをたくさん見られて嬉しかったですね。
そして犯人大山役の羽田さんですが、羽田さんは恐らく四人の中で最も、激しい感情がダイレクトに演技に出てしまう人物。
これがですね、見事にハマり役でしたね。
今までに羽田さんの出演した舞台は見たことがあったんですけど、一番輝いていたなあって思います。
大山という人物もまた、自分の恋愛と、欲望と、正義と、そういう色んなものに翻弄された人物で、そこで次々に感情が激しく動く役が、羽田さんにすごく合ってたんだと思います。
で、最後にチャオ万平役の荒井さんですが、いやー、格好良かった!
荒井さんは、他の役者さんたちに比べて、静かな演技が多かったんですが、激しい感情を見せてくるんですよね。
ただ立っているだけなのに尋常じゃない迫力を持ったり、静かにしゃべっているだけなのに言葉から激しい怒りの感情が伝わったりする。
これは、本当に誰でも出来ることではなくて、荒井さんが本当に実力のある役者さんなんだなあって納得しました。
特にそれが見えたのが、物語の後半、大山の回想シーン。
荒井さんは大山の地元の先輩を演じるんですが、ここでその先輩が飛び降り自殺をするシーンがあるんですよ。
そこで荒井さんが飛び降りる直前に「怖かぁ。この崖40メートルはあるな…」と言うんですが、このシーン、本当に人が死んでいく直前を目撃してしまったようなリアリティがものすごい。
死の恐怖というものが、荒井さんの後ろ姿から観客にもすごく伝わってきて、本当に「怖かあ」なんですよ。
あれは、この公演の名シーンの一つだったと思います。
公演が終わった今でも日常的に「怖かあ」を使いたくなる(実際使ってる人を未だに見るし、俺も使う)ほどのインパクトを、見る者に残して行きました。
とにかく、全員がハマり役だったなあと思います。
それぞれの個性がぶつかり合っていた、ナイスなキャスティングでした。
という訳で、このキャスティングをして、ここまで自由で大胆な演技を役者ができる舞台を演出した岡田くんの演劇愛には本当に拍手ですね。
プロデューサーと演出という二つの大役をこなした岡田くんは、パンフレットの中で「これは僕のわがままです。僕が見たい舞台を僕が見たい役者を集めてやった」って書いてたんですけど、本当大正解だったと思います。
舞台の作り手が、本気でやりたいと思ってない舞台なんて、魅力を感じないし、見たいと思えませんからね。
で、そのやりたいことをただやるだけのオナニーにしないで、しっかりと完成度の高い一つの作品を作り上げたというのが、本当素晴らしかったです
という訳で、この舞台を今年の初めに見られて良かったなあ、って思います。
売春捜査官の皆さん、今さらですがありがとうございました。
このブログに書いていなくて、1月にあった大きな思い出というと、Edge Bronx Theater「売春捜査官」を観に行ったことがあります。
1月12、13日に、会場は万代市民会館で行われた公演でした。
新潟演劇界でかなり話題になった公演で、1月の新潟はまさに空前の売春ブームでした。
この時僕は、劇団@nDANTE「お勝手の姫」の稽古に出ていた時で、1月12日、稽古の合間にお勝手の姫メンバーと見に行ったのでした。
僕はこの公演を観劇前から非常に楽しみにしていて、1月に稽古見学に行ってしまったほど。
詳しくはこちら。「新春☆売春☆初脱がされ!」
という訳で、今更ですが感想でも書いてみましょうか。
物語の中心となるのは、警視庁の女性捜査官・木村伝兵衛。
木村伝兵衛は美人の敏腕刑事でありながら「売春は私の趣味」「警察の仕事は立派な犯罪者を育てること」などかなり強烈な台詞を連発するエキセントリックな人物。
その日、木村のもとにやってきた若手刑事、熊田留吉は、自分の妻を電話越しに「豚!」と罵るような、これまた一筋縄ではいかない人物。
更に、長年、木村の補佐官を務めてきたのはチャオ万平という人物で、彼はゲイです。
そんなアクの強い人物ばかりの警視庁に、殺人犯として連れてこられたのは、大山金太郎という人物。
登場人物たちの激しい感情がぶつかり合う中で、大山の捜査は進んで行く。
まあ、こんな感じの四人芝居です。
あ、実際チョイ役で客演してる役者さんがいましたけどね(俺の見た時はへんみさんでしたが、回によっては島村さんでした)
結論から言うと、非常に面白かったです。
何が良かったって、やっぱり、演出、役者ともに、表現にブレーキをかけず、常に全力で舞台を作っていたことだと思います。
舞台の初っ端から、木村役の枝並さんが、へんみさんを大声で罵ったり、熊田役の高田さんに殴る蹴るの暴行を加えるなど、インパクトあり過ぎのシーンが続く。
そして、オープニングテーマ、斉藤和義の「優しくなりたい」が流れるのですが…
なんと、その曲が始まった途端、犯人の大山役の羽田さんが客席の後ろの方から歌いながら登場したではないか!
因みに、大山の初登場はここで、物語の鍵となる人物をこんなコントみたいに登場させちゃっていいのかよ!
そして大山役の羽田さんと一緒に、歌いだす、木村役の枝並さん。
更にその後ろでは、チャオ万平役の荒井さんと、熊田役の高田さんがギターとベースを弾き…ってこれ完全悪ふざけでしょ!
と言いつつも、そこは“全力の悪ふざけ”なわけです。
(因みに、このインパクトあり過ぎなオープニングのナレーションに、ちゃっかりこの舞台の制作をしていたさっきーが出てきて笑いました)
本編は、まず大山の捜査が始まるわけですが、このシーンもさっき言った“全力の悪ふざけ”の連続です。
捜査そっちのけで全力で悪ふざけする警視庁の三人に、ひたすら大山が翻弄され続ける、コントのようなシーンが延々続く。
ここのシーン、本当に下らないんですけど、役者が本気で舞台の上で遊んでるんだなあ、ってのが伝わってきました。
実際、アドリブもかなりあったみたいですね。
そんな馬鹿馬鹿しさ全開の物語ですが、大山が過去を自白するシーンから、大山の回想シーンに。
ここでは大山以外の役者は大山の記憶の中の登場人物を演じ、更に雰囲気も一気にシリアスなものになっていく。
大山の犯した殺人の、あまりにもエグく、悲しい真実が語られる。
こうして、大山の自白シーンが終わると再び舞台は警視庁に戻り…という構成の舞台でした。
えっと、この売春捜査官はつかこうへいさんの戯曲なんですが、戯曲に登場するテーマの一つ一つが、とにかくエグい!
タイトルにもある売春から、在日朝鮮人問題、村八分、同性愛、男女差別、人間の美醜などなど、とにかく普段の生活をしていたら目を背けたくなるようなエッセンスがてんこ盛りな訳です。
個人的には、こういう「イっちゃってる」戯曲って好きです。
表現に制限をかけずに汚いものをぶちまけてしまう作品は、きれいに見せようとして表現を抑えている作品よりもよっぽど清々しいと思います。
そんな感じで、普段の生活の中では目を背けたくなるようなエグい出来事が満載の作品。
しかし、それでも舞台から目が離せなくなってしまったのは、役者の力が本当に大きい。
観客が見ていて心をえぐられるような作品だった訳ですから、それを演じる役者さんたちもそれ以上に心をえぐられながら稽古したんじゃないかと思い売ます。
そう、この舞台は四人の役者さん達がとにかく良かった!
木村役の枝並さんは、まず美人である!
こういう新潟とかの地方演劇でルックスってあんまり話題にならない気がするけど、美人であるっていうのは単純に大事だと思う!
すごい美人で色気の溢れる女優さんがエキセントリックなことするから、この舞台は面白い。
で、そんな美人の枝並さんの演技も、一つ一つがぶっ飛んでて素晴らしかった!
売春が趣味というエロ全開の女を、舞台のど真ん中でM字開脚して見せたかと思えば、本当は男性に愛されたいという女性の弱さや、格好悪さ、醜さ、最終的には母性までも見せつける。
一つの舞台の中で「女性」というものをここまで幅広く表現する枝並さんの表現力の広さを見せつけられました。。
高田さんの演じた熊田という人物は、実はかつて木村の恋人で、木村にどこまでも翻弄される人物の一人なんですが、その度に起こる感情の衝突を、全力で演技していました。
何度殴られても立ち続ける強さから、無様に土下座し続ける弱さまで、今までの舞台では見たことのない高田さんをたくさん見られて嬉しかったですね。
そして犯人大山役の羽田さんですが、羽田さんは恐らく四人の中で最も、激しい感情がダイレクトに演技に出てしまう人物。
これがですね、見事にハマり役でしたね。
今までに羽田さんの出演した舞台は見たことがあったんですけど、一番輝いていたなあって思います。
大山という人物もまた、自分の恋愛と、欲望と、正義と、そういう色んなものに翻弄された人物で、そこで次々に感情が激しく動く役が、羽田さんにすごく合ってたんだと思います。
で、最後にチャオ万平役の荒井さんですが、いやー、格好良かった!
荒井さんは、他の役者さんたちに比べて、静かな演技が多かったんですが、激しい感情を見せてくるんですよね。
ただ立っているだけなのに尋常じゃない迫力を持ったり、静かにしゃべっているだけなのに言葉から激しい怒りの感情が伝わったりする。
これは、本当に誰でも出来ることではなくて、荒井さんが本当に実力のある役者さんなんだなあって納得しました。
特にそれが見えたのが、物語の後半、大山の回想シーン。
荒井さんは大山の地元の先輩を演じるんですが、ここでその先輩が飛び降り自殺をするシーンがあるんですよ。
そこで荒井さんが飛び降りる直前に「怖かぁ。この崖40メートルはあるな…」と言うんですが、このシーン、本当に人が死んでいく直前を目撃してしまったようなリアリティがものすごい。
死の恐怖というものが、荒井さんの後ろ姿から観客にもすごく伝わってきて、本当に「怖かあ」なんですよ。
あれは、この公演の名シーンの一つだったと思います。
公演が終わった今でも日常的に「怖かあ」を使いたくなる(実際使ってる人を未だに見るし、俺も使う)ほどのインパクトを、見る者に残して行きました。
とにかく、全員がハマり役だったなあと思います。
それぞれの個性がぶつかり合っていた、ナイスなキャスティングでした。
という訳で、このキャスティングをして、ここまで自由で大胆な演技を役者ができる舞台を演出した岡田くんの演劇愛には本当に拍手ですね。
プロデューサーと演出という二つの大役をこなした岡田くんは、パンフレットの中で「これは僕のわがままです。僕が見たい舞台を僕が見たい役者を集めてやった」って書いてたんですけど、本当大正解だったと思います。
舞台の作り手が、本気でやりたいと思ってない舞台なんて、魅力を感じないし、見たいと思えませんからね。
で、そのやりたいことをただやるだけのオナニーにしないで、しっかりと完成度の高い一つの作品を作り上げたというのが、本当素晴らしかったです
という訳で、この舞台を今年の初めに見られて良かったなあ、って思います。
売春捜査官の皆さん、今さらですがありがとうございました。