アーバンギャルド 藤谷千明「水玉自伝 アーバンギャルドクロニクル」
アーバンギャルドの現メンバーである松永天馬さん、おおくぼけいさん、浜崎容子さんの自伝。
もともと好きなバンドというのもあるけど、3人の通ってきた1990~2000年代のサブカルチャーやバンドとして駆け抜けてきた2010年代の日本の音楽シーンの話が満載ですごく面白かったです。
ところで、一つ前の記事に、TVOD「ポスト・サブカル焼け跡派」の感想を書いたわけですが…
「TVOD「ポスト・サブカル焼け跡派」、読みました。」
この本と、アーバンギャルドの「水玉自伝」をセットで読むと、日本の音楽やサブカルチャーの歴史が分かって面白いという評判をネットで見て、どうしてもセットで読みたいと思い、2冊合わせて5000円くらいしたけど、ちょっと頑張って6月に北書店さんで取り寄せていただきました。
というわけで、この本も感想を書いていきます。
まず、最初に登場するのがアーバンギャルドのリーダーである松永天馬さん。
冒頭から「自分語りは苦手」と言っているのにまあ饒舌に語る語る…笑。
典型的なサブカル少年だった思春期にハマった自分より上の世代のアングラ文化やテクノポップなどの話や、バンドを初めてからの2000~2010年代の音楽シーンの話も満載で、自伝であると同時に、日本のサブカル史としても面白い。
しかも、本編でも語り足りなかったのか、脚注が異様に長いという、ここでも松永ワールドが全開に。
あと、松永天馬さんは東京生まれなので、地方に住んでる自分からすると自分の知らないサブカルをたくさん知っていたのも、読んでてすごく面白かった。
そんな中で、とにかくアーバンギャルドというバンドは挫折やメンバーとの衝突を繰り返しながら活動してきたバンドである遍歴が語られていくわけですが、それでも自分の表現と真摯に向き合い続ける生き方は素直にカッコいいと思いました。
続いて、途中加入のキーボーディストのおおくぼけいさんが登場。
おおくぼさんの章だけがインタビュー形式ではなくご本人が書いているのですが、松永さん以上に言葉遊びも多用した、まるで歌詞のような独特の文体が印象的でした。
色々あるけど、一番感動したのは途中加入の下り。
ザ・キャプテンズという元いたバンドの活動中にアーバンギャルドのサポートとして関わる中で、自分の音楽と向き合い、自分はミュージシャンとしてどう生きて行くべきか?を真剣に考えた上で、キャプテンズ脱退、アーバンギャルド加入を決意。
両方のバンドとちゃんと話し合った上で、自分の生きる道を自分で決めて歩いていくという生き方、そしてそれがちゃんと今のアーバンギャルドに繋がっている。
そこらへんの経緯をちゃんと知らなかったので読めて良かったです。
途中加入であるが故に、アーバンギャルドに足りないものが何なのかを客観的に考えて自分が実践することができたという、すごくバンドに必要な存在なんだなあと実感しました。
他にも舞台をやってた話や、とにかく多才な方で、GOING UNDER GROUNDから戸川純まで色んなアーティストが登場するので面白いです。
最後がよこたんこと浜崎容子さん。
個人的にお嬢様な人かと思っていたのですが(そういう部分はあると思うけど)、読んでみるとすごく普通の女の子って感じで、ある意味一番親しみやすかったし読みやすかったです。
兵庫県のご出身ということで、小学生で阪神淡路大震災を経験して、その体験が東日本大震災の時の気持ちに繋がるあたりとか、読んでいてすごく興味深かったです。
あと、思春期にいじめられた体験や音楽で出会った友達に救われた体験があるからこそ、バンドの中で誰よりもファンを大事にする今の生き方にも繋がっているという話に感動したし、本当にいい人だなあと思いました。
ただ、浜崎さんの章を読むと、バンドの中で一番、精神的にも肉体的にも繊細な方なんだなというのが伝わってきて、そんな彼女がメンバー同士の衝突や望まない形でのメンバーの脱退、未だに喧嘩の絶えない松永さんの無茶振りによるMV撮影、無理して行ったライブやツアー、その中でプロ意識の高さ故の後悔など、どんどん彼女がボロボロに傷付いている感じがして読んでいて結構つらい部分もありました。
でも同時に、こういう浜崎さんの繊細さや優しさがなければ間違いなくアーバンギャルドに必要なものなんだと思うし、何より最後まで読むと、松永さんが挫折しかけた時に浜崎さんに出会って救われたと言っているように、同時に希死念慮やパニック障害のあった浜崎さんも松永さんやアーバンギャルドに出会えて救われたんだなということが伝わり、本当にこの人達が出会えて良かったと思ったし、そんな感じで過去には色々あったバンドだけど今ではお互いにリスペクトし合いながら何だかんだと10年以上も続いてるのは本当に素敵なことだなと思いました。
というわけで、ただのバンドのファン向けのマニアックな自伝ではなく、めちゃくちゃ感動してしまう一冊でした。
個人的にアーバンギャルドは好きだけどそこまで熱心なファンというわけでは全然ない僕ですが、ちゃんと曲を聴かないとなとあらためて思いました。