1/28(木)、シネ・ウインドで「本気のしるし」を観てきました。
予告編はこちら。
真面目な性格だが優柔不断で人の頼みを断れず二股をかけているサラリーマンの辻が、踏切で死にかけていた浮世を助けた日から、彼女に翻弄され続ける日々が始まる…
二人の運命が激しく絡み合う、4時間(!)の壮大なドラマなんですが、長い上映時間を忘れるほどの面白さでした。
辻は困っている人が放っておけない真面目な性格なんだけど、人の頼みを断れない、求愛されたら二股でも付き合うという主体性のない性格でもある。
そんな辻の前に現れた浮世は、仕事もなく借金まみれでほっといたらどこかで野垂れ死にそうな女で、心配すぎてついつい手を焼いているうちに惹かれていってしまう。
途中から辻の世話の焼き方がどんどんエスカレートしていくんだけど、同時に浮世の危なっかしさもどんどんエスカレートし、さらには出会った男の人生を狂わせるような危険な魅力故の過去の秘密もどんどん露呈していく…
辻の浮世に対する気持ちは同情なのか、愛情なのか、欲望なのか…その過程がスリリングに描かれていきます。
辻の浮世への感情はどこに向かうのか、浮世の過去の秘密とは、そして二人の人生の行く末は…静かな物語ながら一つ一つの場面が緻密に作りこまれサスペンス的な盛り上がりもあり、飽きることなく4時間という長い時間にもかかわらず引き込まれ続けてしまいました。
愛がテーマの4時間という意味でも「愛のむきだし」にも匹敵する傑作だと思います!
突飛な物語だけど、辻の同情がやがて愛情に変わり、それがもう戻れない運命を意味してるあの感じ、恋愛ってそもそもそういう危険なものだよね…と思わされたし、理解できるものでした。
そして浮世は一見男をダメにする地雷みたいな女に見えるけど、この社会でまともに生きて行くことができない背景にも、決して他人事とは思えない部分がありました。
激しく変動する運命と、そんな運命に翻弄され激しく変動する二人の感情を、緻密に作りこまれた脚本、感情表現にリンクするようなカメラワーク、そして森崎ウィンさん、土村芳さんの「本物」としか思えない繊細な演技で見事に表現していました。
二人以外にも、脇役の一人一人に至るまで感情の変化の一つ一つが作りこまれた存在感のあるキャラクターとして描かれ、そしてそんな脇役達も誰一人として物語上でまったく無駄がない脚本も本当に完成度が高かったです。
中でも、浮世を借金返済のために売り飛ばそうとするヤクザが、辻の感情に揺さぶりをかけて試してくる悪魔的な人物として描かれるんだけど、あの悪人ながら義理を通す絶妙な人物を演じた北村有起哉さん、本当に素晴らしかったですね。
「俺はバカが地獄に落ちるのを見るのが好きなんだ」という色んな解釈ができるような言葉も印象的で、その言葉故に二人の時に敵に味方にもなり物語を裏から動かしていくという狂言回し的な立ち位置は、もしかすると二人の物語の行く末から目が離せなくなっている観客の投影なのかも知れないな…なんてことも思いました。
そもそもこれ、星里もちるさんの漫画を連続ドラマ化したものを再編集して4時間の映画にしているんだけど、本当に脚本も演出も役者さん達も本当にすべてが素晴らしすぎる傑作になったと思います。
「淵に立つ」「よこがお」など人間の繊細な感情表現の変化に定評のある深田晃司監督の最高傑作なのではないでしょうか!