写真=和解成立後に厚生労働省で記者会見するワタミ過労死遺族(2015年12月8日)
動画・ワタミ過労死裁判解決 記者会見(全編版)
ワタミ過労死裁判が和解成立!ワタミと渡辺美樹参院議員らが法的責任認める!
ご支援いただいた皆さんに心から感謝申し上げます!
居酒屋チェーン大手のワタミで正社員だった森美菜さん(当時26歳)が入社2カ月後に過労死した問題で、全国一般東京東部労組の組合員である遺族のご両親が、ワタミと当時社長だった渡辺美樹・自民党参院議員ら役員個人らを相手取って損害賠償を請求した裁判は12月8日、ワタミ側が過労死の責任を全面的に認めて謝罪する旨の和解が成立しました。この日の裁判(東京地裁民事36部)には渡辺氏自らが出席し、和解を確認するとともに遺族に対して謝罪しました。
この裁判は2013年12月に遺族が提訴。美菜さんの死がワタミでの過重な業務が原因であったか否か、ワタミ側に安全配慮義務違反などの法的責任があったか否かが争われてきました。とりわけ会社法人だけではなく渡辺氏ら役員個人にも責任があると遺族側が訴えていました。これらの争点ですべて遺族側の求めにワタミ側が応じる旨が確認できたため和解に至りました。その他、争点以外にも再発防止策などを約束させることができたことも遺族側が和解を選択した理由です。
そういう意味では、美菜さんの命が戻るわけでは決してありませんが、2008年6月の過労死以降、遺族と支援者らが闘ってきたワタミ過労死問題は勝利解決したと考えています。ご支援いただいた皆さんには心から感謝を申し上げます。
和解成立後、遺族と弁護団、東部労組役員は厚生労働省で記者会見しました。会見室には森美菜さんの遺影が置かれました。
父親の豪さんは「今までともに闘ってくれた皆さんに厚く御礼を申し上げたい。これまで渡辺美樹は今回の過労死をきっかけとする社会的批判を『風評被害』と発言していた。まるで根拠のないでっち上げを私たちが言っているかのような態度で、これに私たちは一番腹が立った。だからワタミの言うことは簡単に信じない。本当に和解条項を実行してもらいたい。労働組合に入って活動することでお金だけではない解決ができて良かった。今回の和解が今後、過労死の撲滅や過重労働に苦しんでいる人たちに良い影響があることを望んでいる」と話しました。
母親の祐子さんは「娘が亡くなる8年前に時を戻してほしい。ワタミに入社するのを止めるべきだったと後悔している。娘を生きているうちに助けてやれなかった後悔は死ぬまで続く。今日の裁判所で渡辺美樹が娘の墓参りを希望していたが、絶対に来てほしくない。謝罪の気持ちがあるなら、今後そういう生き方をしていってもらいたい」と話しました。
また、東部労組は執行委員会名の声明を発表しました(別記事に掲載)。
和解条項(別紙の再発防止策を含む)の全文は以下の通りです。
和解条項
1 (被告会社らの業務が原因により死亡したことの確認)
(1) 原告らの子である森美菜は、平成20年4月1日当時のワタミフードサービス株式会社(以下、「ワタミフードサービス」という。)に雇用され、同社及び当時の被告ワタミ株式会社(以下、「被告ワタミ」という。同社を総称して「被告会社ら」という。)の指揮命令を受け業務に従事していたところ、平成20年6月12日に、横須賀市所在のマンションから墜落死(以下「本件死亡」という。)した。
(2) 被告らは、横須賀労働基準監督署長が本件死亡を「業務上の死亡」であると認定したことを真摯に受け止め、本件死亡は、森美菜が連日深夜・未明に及ぶ残業や、不適当な社宅を指定されたため終業後の店内に拘束され恒常的な長時間労働を強いられたうえに、不慣れで過重な調理業務、終業後や休日に研修会への出席、課題作成に従事した心理的及び身体的負荷を受けた結果であり、被告会社らの業務が原因であることを認める。
2 (法的責任の確認)
(1) 被告ワタミは、森美菜の本件死亡について、労働契約に基づく安全配慮義務及び条理に基づく注意義務を懈怠し、本件死亡について、債務不履行及び不法行為による損害賠償責任を負うことを認める。
(2) 被告渡邉美樹は、被告会社らの創業者で長らく代表取締役を務め、同人が形成した理念に基づき被告会社らを経営し、従業員に過重な業務を強いたことなどから、会社法429条1項に基づく注意義務及び条理に基づく注意義務を懈怠し、森美菜の本件死亡について、会社法同条及び不法行為により、最も重大な損害賠償責任を負うことを認める。
(3) 被告栗原聡は、森美菜の本件死亡について、会社法429条1項に基づく注意義務及び条理に基づく注意義務を懈怠し、会社法同条及び不法行為により損害賠償責任を負うことを認める。
(4) 被告小林典史は、森美菜が被告会社らに入社した当時、被告ワタミの人材開発本部人事部統括本部長として、森美菜が被告会社らに入社する前に、実態とは異なる就労状況や就労条件等を説明し、不適切な社宅を指定するなどして、森美菜の本件死亡について、条理に基づく注意義務を懈怠し、不法行為により損害賠償責任を負うことを認める。
3 (被告らの謝罪)
被告らは、原告らに対し、前項の各義務を尽くせなかったことにより、過重な業務に従事させたことが原因で、森美菜を死に至らせ、原告らに深い悲しみと重大な精神的苦痛を負わせたことについて、衷心より謝罪する。
また、被告渡邉美樹は、森美菜が死亡した後に、ツイッターにおける発言などが不適切な内容を含むものであり、不相当な対応をしたことにより、原告らに一層の精神的苦痛を負わせたことを、衷心より謝罪する。
4 (再発の防止等)
被告らは、被告ワタミの従業員に対し、本件事件の和解の趣旨を十分に説明するとともに、労働基準法及び労働安全衛生法を遵守し、従業員が長時間労働や過重な心理的負荷を負わせる過重な業務に従事することを防止するとともに、別紙記載の再発防止策を行い、従業員の労働環境、健康状態に配慮し、精神疾患発生の予防に努める。
5 (本和解条項のホームページへの掲載)
被告ワタミ及び被告渡邉美樹は、インターネット上のホームページ冒頭に、本和解条項第1項乃至第4項全文(別紙過重労働再発防止策を含む)を、本和解成立の日から10日間が経過した日から3か月間掲示し、その後9か月間は被告ワタミはホームページの「お知らせ」欄の冒頭に、被告渡邉美樹は、ホームページの「新着情報」欄の冒頭に掲示して周知する。
6 (未払い賃金等の支払)
(1) 被告ワタミは、原告らに対し、森美菜の未払い残業手当39万2137円及び控除金2万4675円として、金41万6812円の支払義務があることを認める(連帯債権)。
(2) 被告ワタミは、原告らに対し、平成28年1月15日限り、前項の金員を、原告ら指定の銀行口座に振り込む方法で支払う。
但し、振込みに要する費用は被告ワタミの負担とする。
(3) 被告ワタミが前項の金員の支払を遅滞した場合には、被告ワタミは、原告らに対し、前項の金員から既払金を除いた残金及びこれに対する平成28年1月16日から支払済みまで年14.6パーセントの割合による遅延損害金を付加して支払う。
7 (損害賠償金の支払義務)
(1) 被告らは連帯して、原告らに対し、原告らが労働者災害補償保険法に基づき受領した遺族補償給付及び葬祭料を除き、第2項記載の損害賠償責任に基づく損害賠償金として、金1億3365万円の支払義務があることを認める(連帯債権)。
(2) 被告らは連帯して、原告らに対し、平成28年1月15日限り、前項の金員を、原告ら指定の銀行口座に振り込む方法で支払う。
但し、振込みに要する費用は被告らの負担とする。
(3) 被告らが前項の金員の支払を遅滞した場合には、被告らは、原告らに対し、前項の金員から既払金を除いた残金及びこれに対する平成28年1月16日から支払済みまで年5パーセントの割合による遅延損害金を付加して支払う。
8 原告らは、その余の請求を放棄する。
9 原告ら及び被告らは、原告らと被告らとの間に、本和解条項に定めのあるもののほか、何ら債権債務がないことを相互に確認する。
10 訴訟費用及び和解費用は各自の負担とする。
別紙 過重労働再発防止策
1 従業員の実労働時間を、正確かつ適正に記録し、実労働時間と異なる時間が就業時間として記録されることを徹底して防止する。
実労働時間は、始業時刻、終業時刻、休憩時間をタイムカード等に正確かつ厳格に記録することにより、適正なものにするよう努める。
また、勤務地と居宅が離れていることにより、深夜帰宅が困難となる事態を防止するために、人事部門が定期的に実態を調査のうえ、不要な事業場在場時間を撲滅するように努める。
2 1か月の実労働時間について、36協定(労働基準法第36条に関する労使協定)の定めに従い、従業員が定められた上限時間を超えて労働することを防止する。また、36協定の内容については、過重労働を防止するため、更新時に、現行の時間外労働時間に関する規定(1か月45時間、特別延長は1か月75時間で6回、年間720時間)を低減するように努める。
3 労働基準監督署から、事業場に関して是正勧告があった場合には、是正勧告及び是正報告等の内容を全従業員に周知するとともに、その内容をコンプライアンス委員会に直ちに報告する。
4 研修会、新卒ボランティア活動及び会社が出席を実質的に指示するもの並びに課題作成等会社がその作成及び提出を指示するものに要した時間は、適正に業務時間として記録し、残業手当を適正に支払うとともに、長時間労働を防止する。
また、平成20年度から平成24年度までに、その当時のワタミフードサービス及び被告ワタミに入社した新卒社員全員に対し、過去分として一律金2万4714円を支払う。
なお、該当者のうち退職した社員の、所在のわかる者には書面で連絡したうえ、所在がわからない者への支払いを確保するために、被告ワタミは、被告ワタミのインターネットのホームページ上に、本和解条項本文第5項に記載される和解条項の記載と合わせて、上記条件に該当する社員であった者から申し出があったときには上記金員の支払いをする(但し、本和解条項をホームページに掲載する期間の最終日までに、受領の申し出のない者を除く)旨を掲示する。
5 平成20年度から平成27年度までの間にその当時の被告ワタミ及びワタミフードサービス(平成27年度はワタミフードシステムズ株式会社)に入社した新卒社員につき、賃金から控除した本購入代金等の返還として、該当する新卒社員全員に対し、それぞれ金2万4675円を支払う。
なお、該当者のうち退職した社員の、所在のわかる者には書面で連絡したうえ、所在がわからない者への支払いを確保するため、被告ワタミは、被告ワタミのインターネット上のホームページに、本和解条項本文第5項に記載される和解条項の記載と合わせて、上記条件に該当する社員であった者から申し出があったときには上記金員の支払いをする(但し、本和解条項をホームページに掲載する期間の最終日までに、受領の申し出のない者を除く)旨を掲示する。
また、社員が研修に使用する書籍や手帳を購入する際の代金収納方法については、社員の自由意思を阻害しないように、別途、検討を行う。
6 正社員を募集する際には、被告ワタミは、入社を希望する者らに対し、実労働時間等、休日・休暇の取得状況、退職等の離職率、費用負担の詳細、給与の当月分の支払いを翌月25日とする取扱い(新規に入社した社員の最初の給与の支払いが翌月25日となること)等の就労実態を正確に説明する。
また、正社員を募集する際には、基本給額と深夜手当金額を分けて提示する。
7 被告ワタミは、弁護士等の法律専門家、人事労務の専門家を半数以上含むコンプライアンス委員会を運営し、定期的に労働環境及び就労実態を調査・検証することにより、過重労働の再発防止に努める。コンプライアンス委員会は当該調査・検証の結果を文書とし、定期的に被告ワタミのホームページに掲載する。
以 上