写真=渡辺美樹氏の参院選立候補にあたって自民党本部に抗議行動を行ったワタミ過労死遺族(2013年6月)
ワタミ過労死遺族が自民党と渡辺美樹参院議員に抗議文
自民党の渡辺美樹参院議員が「働くことは悪いことか。週休7日が幸せなのか」という発言を国会で行ったことについて、渡辺議員が経営していた居酒屋チェーンのワタミで過労死した社員の遺族が3月29日、自民党と渡辺議員への抗議文を送りました。
渡辺議員は3月13日にあった「働き方改革」をめぐる公聴会で、公述人の東京過労死家族の会の中原のり子さんらに対し、自民党を代表して質問に立ち、その場で「国会の議論を聞いていますと働くことが悪いかのような議論に聞こえてきます。お話を聞いていますと、週休7日が人間にとって幸せなのかと聞こえてきます」などと発言しました。
渡辺議員は自らが経営しているワタミで2008年に社員だった森美菜さんを過労死に追い込んでいます。森さんのご両親が遺族として全国一般東京東部労組に加入し、様々な闘いを通してワタミと渡辺氏の責任を追及した結果、2015年12月に裁判上の「和解」を行いました。
「和解」の協定書には次のように記載されています。「被告渡邉美樹は、被告会社らの創業者で長らく代表取締役を務め、同人が形成した理念に基づき被告会社らを経営し、従業員に過重な業務を強いたことなどから、会社法429条1項に基づく注意義務及び条理に基づく注意義務を懈怠し、森美菜の本件死亡について、会社法同条及び不法行為により、最も重大な損害賠償責任を負うことを認める。」
また、謝罪の条項の中には、「被告渡邉美樹は、森美菜が死亡した後に、ツイッターにおける発言などが不適切な内容を含むものであり、不相当な対応をしたことにより、原告らに一層の精神的苦痛を負わせたことを、衷心より謝罪する。」との記載も盛り込まれました。
「365日24時間死ぬまで働け」などという理念を掲げてきた経営者の渡辺氏自身の法的責任を明確にし、断罪する内容が「和解」の根幹でした。
しかし、今回の渡辺議員の国会での発言は、これら遺族との「和解」の精神を踏みにじるもので、その無神経な暴論は到底許されるものではありません。また、ワタミ過労死問題を百も承知のうえで渡辺議員をあえて代表として質問に立たせた自民党の責任も重大です。恥を知るべきです。
遺族とともに私たち東部労組も渡辺議員と自民党に強く抗議するとともに、渡辺議員が先頭で推奨している労働時間規制をなくす高度プロフェッショナル制度(残業代ゼロ制度)の導入に反対します。
(遺族の抗議文は以下の通り。渡辺議員への抗議文も宛先を変えただけで同じです)
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内閣総理大臣
自由民主党総裁 安倍晋三 殿
渡邉美樹参議院議員および政府・自民党への抗議
自民党参議院議員の渡邉美樹氏が、3月13日、国会で「私も10年前に愛する社員を亡くしている経営者。過労死のない社会を何としても実現したい」と述べ、「国会の議論を聞いていますと働くことが悪いかのような議論に聞こえてきます。お話を聞いていますと、週休7日が人間にとって幸せなのかと聞こえてきます」と述べたことに抗議をします。
「週休7日が幸せなのか」という言葉を聞いて、渡邉氏は過労死社員を生み出しても何も変わっていないという印象を受けました。渡邉氏の言葉を受けた中原さんは「週休7日がいいと言ったことはない」と言っておられますが、「週休7日がいい」とはだれも考えない、頭にさえ浮かばないことだと思われます。「ワークライフバランス」という言葉を大切にして、「働くこと」をいかにして人生や生活全般のなかに調和させていくかを議論している最中に、まるでワタミの理念だった「24時間365日死ぬまで働け」という言葉を裏返しにした言葉「週休7日」を言うなど、まったく不真面目な態度と言うほかありません。
私たちの娘の過労死を忘れてしまっていると思われます。また娘について「愛する社員」と軽々しく言ってほしくありません。渡辺氏が社員を愛していなかったから、過酷な勤務を強いて娘を殺したのです。
渡邉氏がこのような発言をするのであれば、改めて、私たちと私たちの支援者に、ワタミの労働環境がどのように変わったのか、実態を見させていただきたい。裁判終了後、ひとつ頭から離れないのは、第三者を含めた、私たちと私たちの支援者による第三者的なチェック委員会の設立をワタミが拒否したために、諦めたことです。やはり要求し続け、ワタミで働く人たちが、良い労働環境で働いているのか、チェックし続けるべきではなかったかと思っています。
私たちの娘は永遠に帰ってこず、私たちの過労死は終わりません。渡邉氏にとって、私たちの娘の過労死事件が終わるのは、ワタミの労働環境が良いものになって初めて終わるのであって、今回のような発言が出ること自体、ワタミ社員の働く環境が良くなっていないことを示しているのではないでしょうか。
今回のことで、政府・自民党は、過労死家族をはじめ長時間労働をなくそうとい社会的な訴えを「週休7日が幸せなのか」というふうに捻じ曲げ、働く人の思いを踏みにじるような渡邉氏に「働き方改革」の一翼を担わせていることを明らかにしました。これは該当発言を国会の議事録から単に削除すれば済む話ではありません。「週休7日が幸せなのか」という渡邉氏の言葉は、政府・自民党の「働き方改革」の実態を示しています。政府・自民党に抗議の意を表するとともに私たちへの謝罪と渡邉氏が推奨した高度プロフェッショナル制度導入の撤回を求めます。
平成30年3月29日
森 豪、森 祐子