實演 狂戀のサロメ 一幕 アンナ・スラヴィナ作 太郎冠者譯
役割
サロメ ‥‥‥‥ キチイ・スラヴィナ嬢
ヘロドイアス(サロメ姫の母、猶太國王妃) ‥‥‥‥ アンナ・スラヴィナ夫人
ニイラ(姫の侍女) ‥‥‥‥ ニイナ・スラヴィナ嬢
奴隷ラメッド ‥‥‥‥ イゴリセーニン氏
侍女 ‥‥‥‥ オリガペトロガ嬢
同 ‥‥‥‥ イラ・ジミナ嬢
立竝ぶ埃及模樣の柱一高き階段ー松明の灯影ゆらぐ宮殿の夜は靜やかに、香爐の煙、ほのかに立昇る。
侍女ニ一ラとアーザを始め男女の奴隷は、やがて舞を終えて出御する姫を迎ふる暫く間にも其噂を咡き合ってゐた。
最早此の世に足らぬものなき筈の姫サロメが舞の引出物として何を父君に望まれるであらふかは彼等の噂を高めさせた。そして必ず何事か無理難題を云ひ出して、獨り喜ばれることを恐れた。
妖艶たぐいなき其姿ーその人の心を魅る樣な舞の力は、姫の爲めには強い武器であった。過ぐる日の宴の折にも若き羅馬の客人は、姫の舞に心も狂ふた樣に立ち上り、花咲く美しい國も、幾百萬の寶石も、情を知らぬ姫の兩手に捧げやうとしたが、姫は其寶石を芥の如く事もなげに蹴り去って「目下の戀は妾を辱めるものぢや」と云った。
そうした姫にも大きな戀の悶えがあった。然かも人もあらふにそれは己を淫亂の女と呼び、母を亂倫の者、夫殺しと芥の如く罵った乞食にも等しい先驅者ヨカナーンであった。
薔薇の花のやうに赤い唇ー燃ゆる樣な眼ー、それは姫の心を狂ほしいまでかき亂した。然しサロメは母の奸計の爲めに、己の戀する者と知らずして舞の引出物として彼の首を望むのであった。
淺間敷き己の戀に怒った母から、父に首を求めた其人が戀する男ヨカナーンであった事を始めて知った姫は驚愕の余り色を失った。
ヨカナーン‥‥‥ヨカナーン、サロメが授くる報いは死ではない、ヨカナーンよ!妾が戀の勝利者よ、妾は其方を接吻で燃やして見せる、兩の腕で絡まいて其方が今日まで見た事もない夢を見せて遣るー。狂亂の如く悶え狂ふサロメの前に銀盆の上に載せられたヨカナーンの首が運ばれた。戀する者の變り果てた姿に流石のサロメも今は狂亂の姿にてヨカナーンの首をひしと抱きしめ、その冷たき口に接吻して打倒れ遂に階段より轉落して悶絶する。
〔蔵書目録注〕
上の写真と文は、『SHOCHIKUZA NEWS Ⅲ・Ⅲ』にあるもの。
奥付には、「自大正十五年一月十五日至大正十五年一月二十一日 新京極 松竹座」とある。