■先住民は現代の植物学者を、ときにはしのぐほどの精密さと正確さで自然観察を行い、その観察と実験は彼らの知る世界の全域に及んでいる。その情熱は自然学者と同じだ
科学者も、役にたつからという理由だけで新しい種の発見のために困難な研究の旅をしているわけではない。この地球上にありとあらゆる植物の多様な姿を知りたいだけだ
植物学者も先住民と同じように、第一の目的は実用性ではなく、物的欲求を充足させるものでもなく、【自己の知的欲求に答えよう】としているのだ
先住民思考と科学的思考を対比させ、前者を【呪術的思考】と呼ぶ。対立ではなく、呪術と科学が用いている知的操作は本来同一のもので、新石器時代の呪術によって蓄積された知識が、近代科学を生み出すおおもとになった
■プリコラージュ
ありあわせの道具材料を用いて、自分の手でものを作ること
★科学的思考
概念を組み立てることからはじめる。概念は抽象的なもので、ある特定の用途にぴったり合うように作り出された知的道具。科学者はそれを用いて実験や研究を行ったり、新しい製品を作ったりして、整合性のある世界をつくる
★先住民思考
記号を用いる。記号は概念と違ってはじめから「ゆらぎ」「ずれ」が含まれる
言語という記号では
メタファーとメトニミーが基礎になる。あるものを似ているもので表現するのがメタファー(女性を花に喩える)。似ていなくてもいいから、近くにある別のものを持ってきたり、部分で全体を表現するのがメトニミー(帆でヨットを表現する)
記号は対象とぴったり合致することなく、たえず「ゆれ」「動き」をはらんでいる
意味するものは、意味されるものから絶え間なくずれていく。【ありあわせの道具材料】を【記号】として用いるプリコラージュでは【出来上がったとき、計画は当初の意図とは不可避的にずれる】
■呪術、神話、儀礼といった新石器時代に生み出されたものの多くは、ブリコラージュの仕組みでできている。別の時代に別のところで考え出されたものを、今考えていることのために再利用する。うまくいくかは【構造の感覚】による。プリコラージュによる表現には、これで完成ということがない。記号は絶えず「ゆらぎ」や「ずれ」をはらんでいるからだ。また次のものを作らなければならない。そしてまた作る。。このような形でどんどん変形を重ねていって豊かな文化の世界が形成される
■呪術と科学の違いは大きくない。
天文学者ケプラーは占星術師でもあり、占星術による思考方法から「惑星の公転周期の2乗は、楕円軌道の長半径の3乗に比例する」という法則の発見が導かれ、ニュートンは「自然哲学の数学的諸原理」を書き上げたあとの興味の対象は【錬金術と占星術】にあった
占星術と錬金術のような呪術的思考は、科学の母体となったというのが今の科学の考え。新石器時代に呪術的思考が組織的に体系化されていたからこそ、のちの時代に科学が生まれたのであって、呪術と科学は別物ではない
■後期旧石器時代に人類の脳構造に飛躍的な進化が起こって以来、その構造は変化していない。旧石器時代人が呪術を行っていたのとまったく同じ脳が、現代では量子論や宇宙物理を思考している。呪術を行っていた人類と科学を行っている人間は、同じ心の構造を持っているのだ。
のち呪術と科学という2つの方向に分岐して、現在では科学的思考は正しくて、呪術的思考は間違った思考だと思われているが、【野生の思考】はそのような考えを真っ向いから否定した。現代の科学が用いている道具と手法のすべては、呪術的思考の中に準備されていた