泊 瀬
門前町で買った木綿(ゆう)の髪飾りをつけて
合わせ鏡で見ている
明日の吉野はもっと寒いわね
あんたは窓辺に寄り
み寺の
闇に列なる燈明を数えて
フッと
手すりにもたれたまま
何も言わなくなった
蛾が翅を畳んでいる
山間に濃くおりた霧の
しめやかな埋葬地の樹々の梢に
鳥たちはチチと睦み合う
あけぼのの初瀬川の瀬音
み寺から流れてくる声明
無垢への祈りを現の闇に聞いていたのか
と・・・・
いつ起きて行ったのか
あんたが天空への長い回廊をのぼっている
* 泊瀬女(はつせめ)の造る木綿花(ゆうばな)
み吉野の瀧の水沫(みなわ)にさきにけらずや
(万・巻六・九一二)
阿騎の大野
泊瀬(長谷)から電車で一駅そこからバスで二〇分位
で行けるからと 吉野行きを変更した
<かぎろひ>を見るには季節外れ、しかも真昼だ
「アタシの名がついてるから」
言いだしっぺのあんたは道中は食うかゐ眠るか
着けば着いたで「何にも無いね」
と言ったあんたの姿は見えぬ
阿騎の大野は平安時代お狩場だった
何も無いからその面影が残っている
狩の一行は十一月(陰暦)の朝 藤原宮を発ち泊瀬を通った
雪の舞う狛(こま)峠を越えて 一日掛けて宇陀(阿騎野)に着いた
とどこかで読んだことがある
真っ白い冬の狩場での旅寝
東の野のかぎろひ
西の空の月
夢でも見ることができない絵を
人麻呂さんは本当に見たんだろうか
「万葉集ってサ いつの話?」
いつのまにか戻っていたアキは
臍を出して 胸を立てて
草の上に寝転んで空を見つめている
月も
かぎろひも……
そうか ぜいたくな歌だな
ぼくはうなずいて
アキの脱いだパンプスを空に放り上げたのだ
* 東の野にかぎろひの立つ見へてかへり見すれば月かたぶきぬ
(万・巻一・四八)
しとしと雨が降っている。今日はこのまま降り続きそうだ。僕には恵みの雨だ。明太ポテトをつまんでいた指を洗って、< O HOlÿ Night >でも弾いてみよう。
門前町で買った木綿(ゆう)の髪飾りをつけて
合わせ鏡で見ている
明日の吉野はもっと寒いわね
あんたは窓辺に寄り
み寺の
闇に列なる燈明を数えて
フッと
手すりにもたれたまま
何も言わなくなった
蛾が翅を畳んでいる
山間に濃くおりた霧の
しめやかな埋葬地の樹々の梢に
鳥たちはチチと睦み合う
あけぼのの初瀬川の瀬音
み寺から流れてくる声明
無垢への祈りを現の闇に聞いていたのか
と・・・・
いつ起きて行ったのか
あんたが天空への長い回廊をのぼっている
* 泊瀬女(はつせめ)の造る木綿花(ゆうばな)
み吉野の瀧の水沫(みなわ)にさきにけらずや
(万・巻六・九一二)
阿騎の大野
泊瀬(長谷)から電車で一駅そこからバスで二〇分位
で行けるからと 吉野行きを変更した
<かぎろひ>を見るには季節外れ、しかも真昼だ
「アタシの名がついてるから」
言いだしっぺのあんたは道中は食うかゐ眠るか
着けば着いたで「何にも無いね」
と言ったあんたの姿は見えぬ
阿騎の大野は平安時代お狩場だった
何も無いからその面影が残っている
狩の一行は十一月(陰暦)の朝 藤原宮を発ち泊瀬を通った
雪の舞う狛(こま)峠を越えて 一日掛けて宇陀(阿騎野)に着いた
とどこかで読んだことがある
真っ白い冬の狩場での旅寝
東の野のかぎろひ
西の空の月
夢でも見ることができない絵を
人麻呂さんは本当に見たんだろうか
「万葉集ってサ いつの話?」
いつのまにか戻っていたアキは
臍を出して 胸を立てて
草の上に寝転んで空を見つめている
月も
かぎろひも……
そうか ぜいたくな歌だな
ぼくはうなずいて
アキの脱いだパンプスを空に放り上げたのだ
* 東の野にかぎろひの立つ見へてかへり見すれば月かたぶきぬ
(万・巻一・四八)
しとしと雨が降っている。今日はこのまま降り続きそうだ。僕には恵みの雨だ。明太ポテトをつまんでいた指を洗って、< O HOlÿ Night >でも弾いてみよう。