女優、満島ひかりの表現力への評価が高まっている。
ドラマ「Woman」で2人の子供を育てるシングルマザーを演じる満島だが、まるで自身の等身大のドキュメンタリーかと思わせるほど、自然体の演技を見せる。
ドラマには視聴率の他にドラマの満足度調査(オリコン)がある。「Woman」は、「半沢直樹」「DOCTORS2 最強の名医」に次ぐ第3位に選ばれた。
「毎回、涙が止まらない」「迫真の演技に引き込まれる」など、女性からの支持の声が多い。
ドラマは、このところ高視聴率をたたき出す人気小説などの原作ものではなく、脚本家・坂元裕二氏の書き下ろし。坂元氏は「Mother」「最高の離婚」などで人間の奥深いところにある感情の機微を丁寧に描き、視聴者の共感を得てきた。また「それでも、生きてゆく」は満島が大竹しのぶと熱い女優バトルを繰り広げた作品でもある。
そんな坂元氏の脚本で、次から次へと襲ってくる痛ましすぎる不幸ぶりに視聴者がぐいぐい引き込まれていくのも、満島の演技力と存在感によるところが大きい。
そもそも満島は、沖縄アクターズスクール主催の「安室奈美恵with SUPER MONKEY’S」のオーディションで優勝。1年間、アクターズスクールに無料で通える権利を得、共に体育教師という両親の反対を説得して入校した。
1997年、小・中学生7人構成のユニットFolderのメンバーとして、シングル「パラシューター」でデビュー。10万枚を売り上げた。
Folderの解散後、女の子だけのユニット、Folder5に参加。3枚目のシングル「Believe」はアニメ「ONE PIECE」のオープニングテーマに起用され、大ヒットするものの、グループはいつの間にか消滅。
満島はバラエティー番組などのアシスタントやグラビアタレントなどで経験を積みながら、ドラマ「ウルトラマンマックス」で女優としてやっていこうと決意を固める。
彼女の大きな転機になったのが園子温監督の映画「愛のむきだし」。当時まだ無名だった満島が、監督の「もはや狂気とも呼べる領域に達した満島の芝居に全てが圧倒された」のひと言で俄然注目を浴び、その演技力は高く評価された。報知映画賞、ヨコハマ映画祭、毎日映画コンクールを始め数多くの映画祭で新人賞などを受賞。
私生活では2010年にヨコハマ映画祭主演女優賞とエランドール賞新人賞を受賞した主演作「川の底からこんにちは」の石井裕也監督と結婚している。
絵本や詩集が好きで声に出して読む満島。声に出したときの“音”で心理を突いているタイプの本に心が動かされるという。
また、人気アニメの論評本『ジブリの教科書1 風の谷のナウシカ』にナウシカへの思いを寄稿しているのだが、この文書には彼女の独特の感性がそこここに溢れていて、女優としての大器を思わせる。
アイドルスタートで決して順調にここまできたわけではない満島だが、その経験は透明感を曇らせるものではなく、むしろ光のプリズムを放つかのようだ。
寄稿文に、10代の頃にナウシカやジャンヌ・ダルクのように聡明で強く逞しいヒロインを演じてみたいと思っていたことがあると書いているが、その実現に大いに期待したい。
■酒井政利(さかい・まさとし) 和歌山県生まれ。立教大学卒業後、日本コロムビアを経てCBS・ソニーレコード(現、ソニー・ミュージックエンタテインメント)へ。プロデューサー生活50年で、ジャニーズ系・南沙織・郷ひろみ・山口百恵・キャンディーズ・矢沢永吉ら300人余をプロデュースし、売上累計約3500億円。「愛と死をみつめて」、「魅せられて」で2度の日本レコード大賞を受賞した。2005年度、音楽業界初の文化庁長官表彰受賞。