「米国もそう簡単には武力行使はしないが、米国は核には厳しい」
安倍晋三首相はかねてこう指摘してきた。北朝鮮が核兵器を完全に実用化すれば、中東地域などへの核拡散につながりかねないからだ。3日の核実験強行は、北朝鮮が完全にその一線を越えたことを示している。
しかも朝鮮中央通信はこの日の朝、金正恩・朝鮮労働党委員長が大陸間弾道ミサイル(ICBM)開発関連の研究所を視察した際の様子を報じていた。金委員長が見入っていたのは、白銀色に輝くひょうたん形の物体だった。
「あれは水爆だ」
核兵器に関する知識がある政府関係者にとっては、一目瞭然のことだった。その通り核実験後、北朝鮮はICBM搭載用の水爆実験に「完全に成功」と発表する。日本政府も非公式に核実験を水爆と断定した。
憲法上も装備上も軍事的選択肢を持たない日本は、どれだけ事態が緊迫しても、日米同盟を深化させつつ外交で国際社会を味方につけ、北朝鮮に圧力を加えていくしかない。
安倍首相は3日夜、米国のトランプ、ロシアのプーチン両大統領と相次いで電話会談した。日本の首相が米露首脳と立て続けに電話会談したことはかつてない。外務省幹部は「両首脳と対等に電話できる首相は初めてだ」と舌を巻く。
特にトランプ氏との会談は、この日だけでも2度目だった。2人は14時間前にも北朝鮮情勢をめぐって電話会談したが、核実験という新たな展開を受けて異例の再会談の運びとなった。
トランプ氏「これはどうか。こうだと思わないか」
安倍首相「その通り、これこれこういうことだ」
トランプ氏「やっぱりそうか…」
トランプ氏はさまざまな問題について、安倍首相に確かめるように尋ね、相談してくるのだという。首相は周囲に「中身よりも頻繁に電話で話すことが抑止力となる」と語る。
米政府はこの電話会談後に緊急会議を招集、終了後にマティス国防長官は記者団に対し、電話会談でのトランプ氏の発言を読み上げた。
「トランプ大統領は、米国が外交、通常・核戦力のすべてを動員して米本土、米領、そして同盟国を防衛する責任を果たす」
「核戦力」への言及は、「軍事オプション実施の可能性が上がってきたということだ」(防衛省幹部)と受け止められている。
4年前に成立した特定秘密保護法と、2年前成立の集団的自衛権行使を限定容認する安全保障関連法も、日米同盟を強固にした。菅義偉官房長官は8月31日のBS番組で「法律が成立してから機微な情報が入ってくるようになった」と語った。
菅氏は北朝鮮が8月、米領グアム周辺への中距離弾道ミサイル発射計画を明らかにした際には、周囲にこう話していた。
「安保関連法がなかったらと思うとぞっとする。米国はきっと、『日本はどうしてくれるんだ?』と言ってきただろう」
3日夜(日本時間)のトランプ米大統領との電話会談の20分後、安倍晋三首相は今度は、中国福建省アモイに滞在中のロシアのプーチン大統領と電話で意見交換した。プーチン氏は4日開幕の新興5カ国(BRICS)首脳会議を控え、アモイ入りしていた。
安倍首相「ウラジーミル、BRICS首脳会議で大変忙しいときに電話を受けてくれてありがとう」
プーチン氏「シンゾー、こうしてまた電話で話せることをうれしく思う」
2人はファーストネームで呼び合い、北朝鮮の核実験への対応を協議した。約15分の会談だったが、安倍首相は会談後、記者団に「プーチン大統領とは、北朝鮮による暴挙は深刻な脅威であるとの現状認識を完全に共有した」と語った。
電話会談は日本側の要請を受けて実現した。外国訪問中のプーチン氏が、外国首脳との電話会談に応じることは極めてまれだ。
「中国にいるプーチン氏と話すことで、中露だけではなく日本の存在感を見せた。北朝鮮に日露がそういう(電話で話し合える)関係だと示す意味があった」
安倍首相は周囲にこう振り返る。
ただ、露大統領府が3日に発表したプーチン氏の発言は、安倍首相との会談のトーンとは異なっていた。
「朝鮮半島における核とほかの問題に対する包括的な解決策は政治的、外交的手法によってのみ到達できることを強調した」
プーチン氏は、北朝鮮による8月29日の中距離弾道ミサイル発射の後の9月1日にも、露大統領府のサイトで「北朝鮮の核・ミサイル開発計画を、圧力のみで中止させられるとの見方は間違いで無益だ」との見解を示している。
首相との電話会談に先立ち、対北圧力の強化に消極的な中国の習近平国家主席とアモイで会談した。中国外務省によると、両首脳は引き続き北朝鮮の非核化を目指す方針を確認し、「新たな状況」に対応していくことで一致したが、北朝鮮の核北朝鮮の核実験を「脅威」ととらえた形跡はない。
「ロシアは、北朝鮮についてはあまり協力的ではない。プーチン氏も安倍首相にはサービスするが、北朝鮮が米国を困らせているのを喜んでいるフシがある」
複数の政府高官は同趣旨の分析を語る。安倍首相は関係が悪化し、北朝鮮への立場も異なる米露両国の間に立ち、両者を仲裁しながら綱渡りするような外交を強いられている。
現在、北朝鮮の命脈を握るのは、同国の貿易量の9割を占める中国だ。だが、中朝関係が悪化すれば、ロシアが中国にとって代わろうとするだろう。ロシアにとり、北朝鮮は貴重な対米カードになりうるのだ。
「北朝鮮カード」を重視するロシアの姿勢は今年5月、北朝鮮北東部の羅先とロシア極東ウラジオストクを結ぶ北朝鮮の貨客船「万景峰号」の航路が開設されたことからも読み取れる。
安倍首相は4月27日、モスクワで開かれたプーチン氏との会談で、万景峰号の航路開設についてクギを刺した。だが、プーチン氏の答えはにべもなかった。
「経済制裁と航行の自由は別問題だ」
外務省幹部は「ロシアに協力を求めるのは『あり』だが、信用してはならない」と話す。北朝鮮はロシアにとって、安全保障上の脅威だとは映っていない。
そのロシアに対して今、経済権益を求めて韓国が近づきつつある。ただ、北朝鮮に対して融和的な韓国の文在寅大統領が、ロシアにもすり寄る構えを見せていることについて、米国は冷たい視線を向けている。
「(韓国の)連中に言った通り、北朝鮮との融和的な対話は役に立たない」
トランプ氏は3日、自身のツイッターにこう書き込んだ。トランプ氏は安倍首相との電話会談でも度々韓国の対応を批判しているほか、首相もプーチン氏や文氏と話した内容をトランプ氏と確認し合っているとされる。
「軍事オプションがないと、経済オプションも効かない…」
北朝鮮が日本上空を飛び越す弾道ミサイルを発射した8月29日の国家安全保障会議(NSC)関係閣僚会合で、安倍首相はこう率直に語った。日本にできることは限られているからこそ、周囲にはこう語る。
「北朝鮮に対しては、米国の攻撃が実施されるかもしれないと思わせることが最も大切だ」
各国の利害が入り乱れ、権謀渦巻く国際社会にあって、日本はどう北朝鮮問題で主導権を握っていくか。安倍首相が「地球儀を俯瞰する外交」の真骨頂を発揮できるかが問われる。(阿比留瑠比、田北真樹子、杉本康士)
以上、産経新聞
安倍首相が日本の首相だからいいが、他の議員には務まらないと思われる。
また、集団的自衛権の法律もプラスに働いて情報が日本側に伝わっているようです。
ロシアともアメリカとも話せる首相だから良かった。
ただ、国民が覚醒して改憲し、敵国攻撃できる日本、愛国心を持った国民の構図ができなければ、将来的に日本防衛はできない。特に中国からの侵略には現状の日本では止められない。