はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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臥龍的陣 番外編 空が高すぎる その22

2023年05月24日 10時00分42秒 | 臥龍的陣番外編 空が高すぎる



劉表は謁見のあと、徐庶に後日、返事をする、といった。
だが、徐庶にはわかっている。
劉表の徐庶を見る目は冴えないもので、表情も退屈そうであった。
のちほど返事をするとは言ったものの、色よい返事は期待できないであろう。
直接、本人に言わないところは気遣いの人なのか、それとも優柔不断なのか…あるいは、とても悪くとれば、善人ぶっているのかもしれない。
どちらにしろ、実際に顔を合わせてみた劉表という人物は、思った以上に、緩慢な印象を与える人物であった。
これほど襄陽城の風俗をきっちり取り締まって、儒を尊ぶ気風を励行しているわけだから、風采が立派で凛とした聖人君子があらわれるのではなかろうかと徐庶は期待していたのだ。


たしかに礼装をしてあらわれた劉表は、血筋のよさゆえか、それなりに貫禄はあった。
しかし、かれを主君としてあおぎ、また尊敬できるかと尋ねられたら、徐庶の答えは否である。
衣裳で誤魔化そうとしていたが、ともかく、肉体の崩れ方がひどい。
ふだんから運動をしていない、というだけではあるまい。
よほど怠惰に暮らしていないと、あれほど崩れない。
筋肉の全体がたるんでしまっており、そのため、表情にもだらしなさが出ていた。
それは、老いによるものばかりではなさそうである。


そして、なにより目つき。
仕官したいという意志を先に伝えてあったうえで会っているのだから、値踏みした目で見られるのは当然である。
だが、意外なことに、劉表は温雅な風貌をしているわりには、目の表情が、ときおり、ぎくりとするほど冷たいものに転じる。
その奥底に、劉表の自己中心的な人格が透けて見えた。
温厚篤実な男、という評判があったのだが…世評もあてにならないものだ。


『評判どおりの人物ではない』
というのが、徐庶のくだした劉表への印象であった。
猜疑心の強そうなその冷たいまなざしを、一瞬の表情の移り変わりの中に見つけたとき、徐庶は、たとえ是非にとすすめられても、劉表のもとで働くことは考えないようにしようと決めた。
互いに信頼しあえる相手と組まないと、この乱世では、いつ運命が暗転するかわからない。
『いつ背中を襲ってくるかわからない者に仕えるなど、蛇の巣にわざわざ足を踏み入れるようなものだ』


というわけで、劉表に仕えることをやめた。
とはいえ、そこですっぱりと安定した未来を諦められるかというと、またちがってくる。
母を迎えて安心した暮らしをさせてやりたいという夢があるからだ。
劉表のもとに仕えれば、確実に安定した生活を得ることができる。
仕送りをしてくれている母に、楽をさせてやることができる。
多少のことは目をつむり、司馬徽のつてを頼れば、仕官への希望は残っているかもしれない。


気持ちが揺れるなかで、こんな疑問も浮かんでくる。
期待する『安定』は、ずっと長くつづくものなのだろうか。
劉表はすでに老いつつある。
その跡を継ぐであろう二人の息子は、次男坊のほうは出来がいいと聞いているが、はたして、長男をさしおいて円満に跡継ぎなれるものなのか。
第一、次男坊のほうは蔡瑁の甥。
蔡瑁の力が強くなりすぎて、だれに仕えているのかわからない状態にならないか。


もし安定だけを求めるのなら、飛ぶ鳥を落とす勢いの曹操の傘下に入ったほうがよほどいい。
しかし曹操の周辺は、すでに古参の家臣や豪族たちによって固められており、身分の低い人間が要職にくい込める可能性は、もうほとんどなくなっている。
曹操は才能を愛する男だとは聞いているが、相性というものもあるだろう。
孔明からどれほど曹操が冷酷で残酷な男か聞き知っていたので、徐庶はまたそこで二の足を踏んでしまう。


『おふくろだって、俺と暮らしたがっている。派手に出世をすることがそれほど大事か? 
それより、どんな小さな地位でも、役人となって地道に働いていたほうがいいのではないか。
おふくろも、そうしたほうが喜ぶだろう。
けれど、ほんとうにそれでいいのか。低い地位に甘んじることに耐えられるのか。
そのために、俺は何年もみなに莫迦にされても耐えて、勉学に打ち込んできたのか? 
いや、そもそも俺に、要職に就ける才覚はあるのか?』


俺はなにがしたい?
なにを望んでいる?


徐庶はますます悩むのだった。




つづく


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むかしは蜀漢関係の資料ばかり偏って読んでいたようで、いまになって曹操軍のことを書くときに、知識不足に悩んでおります;
まんべんなくいろんな知識を吸収するというのは大事なんですねえ…反省。
でもって、今日は創作はちょっぴりお休み。
明日からがっつり書けるよう、環境をととのえてまいります。
ではでは、みなさまの一日が素敵な一日になりますようにー('ω')ノ


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