「わたしは、こうして相談できる相手がいるだけしあわせだな。
徐兄がいなくなってしまったら、いったいどうなってしまうだろう。
想像もつかない」
「どうもならんさ。なんとかなっているだろう」
「そうは思えないよ。いつまでも間違いに気づけない、いま以上に嫌な人間になってしまうと思う。
なにもかも世の中のせいにして、いじけて、そのくせ、心の中では、人が怖いと怯えている人間だ。
けれど徐兄がわたしの間違いを教えてくれるから、わたしもすこしは、まともでいられる。
ほんとうに感謝している。ありがとう、吹っ切れた。
徐兄の言うとおりにしてみるよ」
「ま、おまえの考えもところどころ入れて、自分なりにがんばれ」
「うん、がんばろう。わたしたちの将来を、きっといいものにするように、がんばらなければならないな」
孔明の声が眠気まじりのものになる。
しかし、徐庶はかえって目が冴えて、言った。
「わたしたち、ではない、わたし、だろう」
孔明は答えなかった。
安心して、眠りについてしまったようである。
『いつだったか、二人でこのまま田舎で暮らせばいいと言っていたことは、本気なのか』
たしかに、二人でいれば、これほど心強いものはない。
孔明はいままでも、自分のことばならば、素直になんでも言うことを聞いた。
隠棲をするのではないにしても、二人でどこかに仕官をし、いまのように語り合って、切磋琢磨することも可能だろう。
『いや、切磋琢磨ではないな。俺は、孔明にとっては、砥石ですらない。
俺のほうが世間を知っているとタカをくくってきたが、孔明のほうが、世の中のなにが問題なのかを、的確に掴んでいるじゃないか。
人の弱さを直してやろう、などと考えるのが不遜なのかもしれないが、だれかが真剣になって、荒んだ人の心を矯正しなくてはいけないのは、たしかに事実だ。
そこに必要なのは、俺の勉強してきた書物のなかの細かい文字のひとつひとつじゃない。
文字で残された知恵のほうこそ、世の中には必要なのだ。
こいつはまだまだ人との接し方が拙いから、だれもこいつに同調しない。
が、こいつがしっかり現実を見るようになって、理想を果たすためにどうしたらよいか、その方法を見つけ出したときには、どうなるのだろう』
徐庶は、眠る孔明に気づかれないように、ちいさくため息をついた。
『こいつの内気さが、こいつの真価を世間の目から覆い隠しているだけだ。
やはり、こいつは、なにかが常人とちがう。
言葉だけではなくて、人を根本から変えられる、影響力のようなものを持っている。
俺はどうだ。孔明は間違いを見つけてくれる、などと言っていたが、俺が指摘できたことは、ほかの奴だって出来たことだろう。
このままでは、だめだ。いつか孔明は俺を追い越す。
孔明が俺といつまでも一緒にいようと、俺にばかり頼って、甘えて、世間を避けているかぎりは、だめなのだ。
いまの俺が孔明に勝っているところといえば、ただ年長で、多少、世間を知っているというところだけだ。
そんなもの、あと数年もしたら、意味のないものになるだろう。
俺が孔明に勝るものをもっていない以上、俺では孔明の矯正はできても、成長させることはできない。
このままでは、お互いがお互いを惰性の中に閉じこめて、可能性をつぶし合ってしまう』
徐庶には、はっきりと二手に分かれた道が、その脳裏に見えはじめていた。
つづく
徐兄がいなくなってしまったら、いったいどうなってしまうだろう。
想像もつかない」
「どうもならんさ。なんとかなっているだろう」
「そうは思えないよ。いつまでも間違いに気づけない、いま以上に嫌な人間になってしまうと思う。
なにもかも世の中のせいにして、いじけて、そのくせ、心の中では、人が怖いと怯えている人間だ。
けれど徐兄がわたしの間違いを教えてくれるから、わたしもすこしは、まともでいられる。
ほんとうに感謝している。ありがとう、吹っ切れた。
徐兄の言うとおりにしてみるよ」
「ま、おまえの考えもところどころ入れて、自分なりにがんばれ」
「うん、がんばろう。わたしたちの将来を、きっといいものにするように、がんばらなければならないな」
孔明の声が眠気まじりのものになる。
しかし、徐庶はかえって目が冴えて、言った。
「わたしたち、ではない、わたし、だろう」
孔明は答えなかった。
安心して、眠りについてしまったようである。
『いつだったか、二人でこのまま田舎で暮らせばいいと言っていたことは、本気なのか』
たしかに、二人でいれば、これほど心強いものはない。
孔明はいままでも、自分のことばならば、素直になんでも言うことを聞いた。
隠棲をするのではないにしても、二人でどこかに仕官をし、いまのように語り合って、切磋琢磨することも可能だろう。
『いや、切磋琢磨ではないな。俺は、孔明にとっては、砥石ですらない。
俺のほうが世間を知っているとタカをくくってきたが、孔明のほうが、世の中のなにが問題なのかを、的確に掴んでいるじゃないか。
人の弱さを直してやろう、などと考えるのが不遜なのかもしれないが、だれかが真剣になって、荒んだ人の心を矯正しなくてはいけないのは、たしかに事実だ。
そこに必要なのは、俺の勉強してきた書物のなかの細かい文字のひとつひとつじゃない。
文字で残された知恵のほうこそ、世の中には必要なのだ。
こいつはまだまだ人との接し方が拙いから、だれもこいつに同調しない。
が、こいつがしっかり現実を見るようになって、理想を果たすためにどうしたらよいか、その方法を見つけ出したときには、どうなるのだろう』
徐庶は、眠る孔明に気づかれないように、ちいさくため息をついた。
『こいつの内気さが、こいつの真価を世間の目から覆い隠しているだけだ。
やはり、こいつは、なにかが常人とちがう。
言葉だけではなくて、人を根本から変えられる、影響力のようなものを持っている。
俺はどうだ。孔明は間違いを見つけてくれる、などと言っていたが、俺が指摘できたことは、ほかの奴だって出来たことだろう。
このままでは、だめだ。いつか孔明は俺を追い越す。
孔明が俺といつまでも一緒にいようと、俺にばかり頼って、甘えて、世間を避けているかぎりは、だめなのだ。
いまの俺が孔明に勝っているところといえば、ただ年長で、多少、世間を知っているというところだけだ。
そんなもの、あと数年もしたら、意味のないものになるだろう。
俺が孔明に勝るものをもっていない以上、俺では孔明の矯正はできても、成長させることはできない。
このままでは、お互いがお互いを惰性の中に閉じこめて、可能性をつぶし合ってしまう』
徐庶には、はっきりと二手に分かれた道が、その脳裏に見えはじめていた。
つづく
※ いつも当ブログに遊びに来てくださっているみなさま、ありがとうございます(^^♪
そして、ブログ村およびブログランキングに投票してくださっているみなさまも、感謝です、うれしいです!(^^)!
「空が高すぎる」は、ほんとうに大きなことの起こらない話ですが、それでも閲覧してくださっているみなさまには感謝です(*^-^*)
来週で終わります、たぶん。
それと、「奇想三国志 英華伝 序」も、何も起こらない話ばかりで、こちらは余裕ができてきたら大改造したほうがいいのかなあ、と思っています。
なろうとかのアクセスを見ると、「序」は途中で読むのをやめてしまう方のほうが多いようなので…
「三顧の礼は?」とか思いますよねー、そりゃそうか…反省。
あ、それと、近況報告を近々いたしますので、更新したら読んでやってくださいませ。
ではでは、今日もみなさまがよい一日を過ごせますよう祈っております(*^▽^*)