はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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臥龍的陣 涙の章 その31 闇の思惑

2022年10月20日 10時32分52秒 | 英華伝 臥龍的陣 涙の章
お家騒動に明け暮れる襄陽城の様子を見て、『壷中』は、いや、『壷中』の一部は決断をする。
襄陽城の主の指揮をはなれ、独自に動くことを。
この時期に、麋竺がだれに相談することもできずに新野を動かざるを得なかったのも、おそらく『壷中』内で争いが発生したのに勘づいたからだ。
麋竺は急がねばならなかった。
『壺中』の分裂を利用するために、麋竺は新野から襄陽城へと向かい、程子文《ていしぶん》とともに、一か八かの勝負に出た。

麋竺が『仇讐《きゅうしゅう》は壷中にあり』という言葉をのこしたのは、斐仁とともに新野の秘密を守っていた麋竺が、おのれが戻らぬとき、孔明がその言葉をたどり、『壷中』の存在に行き当たれるようにと考えたからだろう。

麋竺がどうなったかはわからない。
そして、崔州平も同じ言葉を残した理由も、孔明にはまだわからない。
崔州平もどうなったのだろう。
気になるが、いまは目の前の危機をかわすことに専念するしかない。

ともかく、襄陽城の主から叛《そむ》くことを選んだ『壷中』は、曹操と対立するよりも、その傘下に組み込まれるか、あるいは他勢力に組み込まれることを選んだのではないか。
そこで、自分たちの仲間を増やすべく、混乱に乗じて、子供たちを攫った。

もし忠実に荊州を守るためならば、いまさら仲間を増やし、教育したところで、とうてい曹操の南下に対抗するは間に合わない。
むしろ子供をいまから育てる労力を、曹操側の内情を知るための力に使うべきだ。

そうしなかったのは、分裂した『壷中』にとって、曹操は目下の敵ではなくなったことを意味しないか。
そして、子供たちを攫ったはいいが、それを迂闊《うかつ》にも、斐仁に見られてしまう。

斐仁は、『壷中』の外に七年間いた男だ。
まだ『壷中』のなかで分裂がおきたということを知らない。
斐仁がそれを知り、襄陽城の『壷中』、豪族たちに報告すると厄介だ。
そこで、斐仁を『狗屠《くと》』に暗殺させることにした。
さらに斐仁の抱える秘密を暴露し、世間の目を襄陽城の『壷中』にむけさせ、そのあいだに、自分たちは独立をする。
その予定であったのだろう。

『狗屠』は、子供たちを攫った片腕の利かない男の意向を受けて、斐仁を襲う。
しかし、『狗屠』を捕縛せんと追って来た許都の役人、夏侯蘭に邪魔され、果たせなった。

ここで、いちばんの大番狂わせが発生するのだ。

その現場に、趙雲があらわれた。
分裂した『壷中』の中枢を為す『片腕の利かない男』は、久方ぶりに見た趙子龍の、以前とかわらぬ勇姿をどう見ただろう。

おなじ荊州にいたのだ。
噂くらいは耳にしていただろうが、実物を目の前にするその衝撃というのは、噂程度で感じたものを、はるかに上回るものだったのではないか。

孔明には想像がつく。
おそらく、かれは胸をかきむしりたくなるような、はげしい苛立ちと嫉妬をおぼえたのだ。
かつての趙雲と、まるでかわらぬ颯爽《さっそう》とした姿を前にして、『その男』は動揺し、冷静さを失った。
そして、大きく道を踏み外す。

さらに悪いことに、夏侯蘭までが新野にあらわれた。
男の脳裏に浮かんだのは、なんであっただろうか。
そして、斐仁が『狗屠』に襲われたときに、趙雲が聞いたという、民謡。
おぞましいことに、趙雲があらわれるまで、『その男』は斐仁の暗殺を楽しんでさえいたのだ。
だから、唄った。

趙雲が民謡を聞いたのは、けして空耳などではなかった。
男は、新野にいたのだ。

斐仁が、おのれを襲ってきた『狗屠』の顔を見ていないことをよいことに、『その男』は夏侯蘭こそが『壷中』の刺客であると嘘をおしえ、夏侯蘭にはこっそりと五石散《ごせきさん》を盛る。
斐仁が夏侯蘭を片づけようとしているあいだ、『その男』は斐仁の家族を無残にも惨殺する。
そして、斐仁が逆上し、襄陽城へやってくることを読み越して、襄陽に先回りをし、『狗屠』とともに、裏切り者の程子文を始末したのだ。

そして、あらわれた斐仁に、程子文の殺害の罪をなすりつける。
最初に発見者となって、花安英《かあんえい》に騒がせ、そして捕らえさせた。

劉琦の側近となっていた程子文が、趙雲の部下に殺されたとなっては、新野の劉備も黙っていられない。
筋を通すために、趙雲を襄陽城に差し出すだろうというのが、『その男』の計算だった。
そうして、罪人としてあらわれた趙雲を、堂々と殺すつもりであったのだろう。

つづく

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でもって、臥龍的陣、じわじわとクライマックスへ向かっています。
今後とも継続してお読みいただけるとさいわいです(^^♪


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