はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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赤壁に龍は踊る・改 二章 その6 陸口に向かったものの

2025年01月08日 10時05分08秒 | 赤壁に龍は踊る・改 二章
思わぬ成り行きになったのに、劉備も関羽も、そして趙雲も、孔明に合わせて、まったく不平不満を言わなかった。
そのことに感謝しつつ、劉備と別れるさい、孔明は素早く指示を出した。
「周都督がわれらに戦わなくて良いと言ったのです。
無理に兵を減らす必要はありませぬ。
陸口《りくこう》で決戦となったのち、そちらに流れてくる曹操の敗残兵を討つにとどめ、なるべく兵は温存してください。
われらが最優先にすべきは、荊州の実効支配です。
曹操が北へ退き返せば、荊州の、とくに南部は空白地帯となりましょう。
その隙を突き、われらが南部を奪取するのです」
「それが許されるであろうか」
「もちろん。われらには新しい劉州牧たる劉琦《りゅうき》どのがいるではありませぬか。
もし曹操が負けた場合は、すぐに劉琦どのを荊州牧に推挙なさってください。
われらに大義名分があると、天下に示すのです」
「取り返すのだな、荊州を」
「そうです。取り返すのです」
孔明が力強く言うと、劉備はうれしそうに大きくうなずいた。





ふたたび、柴桑《さいそう》を出たときとおなじ船に乗り込む。
水夫たちは、また来たのか、という顔をしたが、孔明たちは頓着しない。
樊口《はんこう》の岸には、劉備と関羽となつかしい兵士たちがずらっと並んで、孔明たちの乗る船が遠くなるまで、いつまでも見送ってくれた。
かれらに手を振りながら、孔明はとなりの趙雲に言った。
「すまないな、わが君とまた離れることになってしまった」
「なに、問題ない。おれはわが君の主騎であり、おまえの主騎でもある。
とことんまでおまえに付き合うさ」
「あなたは優しいな」
「また、いつもの言うべき時に言っておく、か」
難しい顔をしているが、照れているだろう趙雲に、孔明は満足して微笑んで見せた。


陸口へ船は急ぐ。
徐々に対岸が見えてくるのと同時に、船団の緊張感も高まっていった。
将兵たちばかりではなく、孔明や趙雲までもが鎧姿に身を包み、来るべき決戦に備えていた。


ところが、である。


陸口は平穏そのものだった。
陸口の城市には揚州の民以外によそ者の姿はなく、また河のうえにも、船団のほかは、曹操の船は一艘もない。
どういうことかと動揺すら走る船団に、まさかの知らせが飛び込んできたのが、それから間もなくだった。
あの戦上手の曹操が、江陵《こうりょう》を出撃したまではよかったものの、霧のなかの長江を慣れない船で渡るという愚を犯したのだ。
そのため、曹操の船団は洞庭湖《どうていこ》に迷い込み、いたずらに数日を費やした。
要するに、後れを取って、陸口を押えられなくなってしまったのだ。


さらに日数が経ち、曹操が対岸の烏林《うりん》に要塞を建てて、そこから揚州をうかがう作戦に転じたようだという知らせが入って来た。
「曹操は持久戦に持ち込むつもりかもしれぬな」
さすがにそうなると、なついていないはずの兵も曹操になつき、水軍の調練も曹操の思うようになってくるだろう。
周瑜はどう出るつもりか。
鎧姿から、平素の漢服に戻った孔明は、戦の見届け人として、これからの動向を見定める覚悟を決めた。


つづく

※ 前作では、ここで二章が終わりでしたが、今回はまだちょっと続きます。
どうぞ次回もおたのしみにー!


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