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帯とけの枕草子〔三十八〕とりは その一
言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。
清少納言 枕草子〔三十八〕とりは その一
鳥は、異なる所のものだけれど、あふむ(鸚鵡)、ほんとに感心する。人の言うことを真似るらしいよ。
時鳥、くゐな、鴫、宮古どり、ひは、火たき(ほととぎす、くひな、しぎ、みやこ鳥、ひわ、ひたき……ほと伽す、食い汝、しき、宮この女、秘端、火焚き)。
言の戯れと言の心
「鳥…女」「時鳥…ほととぎす…ほと伽す…郭公…且つ恋う…且つ乞う」「ほと…陰」「とぎ…伽…そばで慰めること」「くゐな…水鳥…食い汝」「くふ…くわえる…くいつく」「しぎ…鴫…しき…(何々)した…色」「みやこ鳥…都鳥…宮ことり…山ばの頂上にいる女」「宮こ…感の極み」「ひわ…小鳥…ひは…秘端…女」「ひたき…小鳥…直気…いちずな気持…火焚き…ひたすら情熱の火焚くことよ」。
山どり、友を恋てなくに、鏡を見すればなぐさむらん、心わかう、いとあはれなり。谷隔てたる程など心ぐるし。
(山鳥、友を恋して鳴くので、鏡を見せれば慰められるらしい、心若くとってもあわれである。谷隔てて居るときなどは心ぐるしい……山ばの女、共を乞い泣くので、彼が身を見すれば慰められるらしい、心若く、とっても身につまされる感じである。谷隔てて山ば共に越えられないときなどつらい)。
言の戯れと言の心
「友…共…一緒」「恋…乞い」「鏡…かがみ…彼が身」「見…覯…媾…まぐあい」。
鶴は、いとこちたきさまなれど、なく声雲ゐまできこゆる、いとめでたし。
(鶴は、たいそう大仰な様子だけれど、鳴く声、雲居まで聞こえる。とっても愛でたい……一声かん高く泣く女は、とってもおおげさなさまだけれど、泣く声、心の雲のあるかぎり聞こえる、とっても愛でたい)。
言の戯れと言の心
「雲居…天高きところ…心に湧き立つ煩わしい思いのあるところ」「雲…心に煩わしくも湧き立つもの…情欲など…言わば、煩悩」。
かしらあかきすゞめ、いかるがのをどり、たくみどり。
(頭の赤い雀、斑鳩の雄鳥、たくみ鳥……かしら赤きすす女、井かる彼の夫取り、巧み取り)。
言の戯れと言の心
「かしら…頭…ものの先端…身の端」「赤…火の色…元気色」「雀…鳥…女」「す…女」「め…女」「いかるが…斑鳩…所の名は戯れる。怒るが、井かるか」。
鷺(さぎ…詐欺女)は、まったく見目も見苦しい、目付きもいやで、すべてに親しみがもてないけれど、「ゆるぎの森にひとりはねじ(…揺るぎの盛りで独り寝はしたくない)」と、おとり(雄鳥…男取り)争うらしい、おかし(おかしい)。
水鳥、鴛鴦(をし)、いと哀なり。かたみにいかはりて、はねの上の霜はらふらん程など。
(水鳥、おしどり、とっても感心する。お互い居替わって交互に羽の上の霜を払うらしい様子など……見ず、女、男も、とってもあわれである。片身に寝返りして、端寝のうえのしもを、独り払うらしいようすなどよ)。
千鳥(しば鳴く小鳥…しきりに泣く少女)、いとおかし(とってもかわいい)。
言の戯れと言の心
「鷺…さぎ…鳥…女…詐欺…だましあざむく」「そんな鷺ですら、独り寝はしないと、夫をとり争うものを・どうしてわたしは……歌・たかしまやゆるぎの森の鷺すらも独りは寝じとあらそふものを(古今六帖)」「見…覯」「鴛鴦…をし…夫婦仲の良い鳥…おし」「し…士…子」。「千鳥…小鳥…少女…女の幼友達」「人麻呂の歌・近江のみ夕波千鳥汝が鳴けば心もしのにいにしへおもほゆ、は少年の日の事を思っての歌でしょう」。
「鳥」という言葉の孕む色々な意味の変化と多様性を楽しむ。どこかで、少しでも「おかし」と微笑んでもらえれば、このあだな文芸にも価値がある。
伝授 清原のおうな
聞書 かき人しらず (2015・8月、改定しました)
枕草子の原文は、新 日本古典文学大系 岩波書店 枕草子による