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帯とけの枕草子〔四十二〕にげなき物
言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。
清少納言 枕草子〔四十二〕にげなき物
似つかわしくないもの、げすの家に雪のふりたる(げ衆の家に雪が降っている…下すの井へに白ゆきがふっている)。又月のさし入たるも(又、月光のさし入っているのも…股、つき人壮士のさし入っているのも)、くちおし(くやしいような感じ)。
月のあかきにやかたなき車のあひたる(月の明るいときに屋形のない車が出会っている…月人壮士の照っているときに女っ気のない車が出会っている)。また、さる車にあめ牛かけたる(そのような車に上等の牛掛けてある…去る者に吾女、憂し、言葉に出している)。
また、老いた女が腹おおきくして歩く、若い男を夫としているのさえ見苦しいのに、ほかの女のもとへ行ったと腹立てているよ。
老いた男が寝ぼけている。また、そのような髭がちな者が椎の実(堅い木の実)つまんでいる。
歯も無い女が、むめくひてすがりたる(梅食って酢っぱがっている…おとこ花の身くわえすがりついている)。
下衆が紅の袴を着ている。
この頃は、このような不似合いなことばかりあるでしょう。
靱負の佐の夜行姿(靱負の次官の、夜の巡回姿…夜のお遊び姿)、狩衣姿もまたひどく変な感じである。人に恐れられる上着(赤い袍)は、おどろおどろし(不気味な感じ)。たち彷徨うのを見つけて、あなづらはし(侮るでしょう…侮ってやろう)、「けんぎの物やある(嫌疑の者居るか!)」と、とがむ(咎めるのだ…咎めてやる)。部屋に入って居て、から薫物の香に染みた几帳にうち掛けてある袴など(空しき多気者に染み付いた氣長にかけている端下間のよう)、いみじうたづきなし(まったくどうしょうもない)。
格好いい君達が、弾正の弼(京内を取り締まる警察の次官)でいらっしゃる、ひどく見苦しい。宮の中将などが(それを兼任)されたのは、ほんとうに残念だった。
言の戯れと言の心
「げす…下衆…外衆…言語圏外の衆…言の心を心得ない衆」「いへ…家…井辺…女」「雪…白ゆき…おとこの逝き」「月…月人壮士…壮士…ささらえおとこ…いい男」「屋…女」「車…しゃ…者」「うし…牛…憂し…愛し」「かける…掛ける…懸ける…欠ける」「おい…老い…追い…極まった」「梅…男木の花の身」「木丁…几帳…氣長」「うちかけ…うち掛け…射ちかけ」「はかま袴…端下間…ほと」。
靱負(衛門府)や弾正(犯罪を取り締まる役所)の者どもの活躍する騒動があった。拘束、追放、逃亡者拘束などを掌る。彼らは権力(即ち道長の力)の象徴。世の中騒がしく女たちは曇り暮らしていた。この有様は、殿(道隆)亡き後、続いていた。
これは世情批判だけれども、女のしなやかさ(婀娜…あだ)があるでしょう。言い換えれば「したたかさ」のある嘯(うそぶき…ただ口笛吹いただけのこと)。
伝授 清原のおうな
聞書 かき人しらず (2015・8月、改定しました)
枕草子の原文は、新 日本古典文学大系 岩波書店 枕草子による