外部から遮断された環境の中で温度が異なる二つの物体を接触させると
(1)温度の高い物体から低い物体へ熱(運動エネルギー)が一方的に流れていき
(2)最終的には二つの物体の温度が同じ熱平衡状態になります。
(1)同じ温度の二つ物体を接触させた場合
(2)どちらかの物体に一方的に熱が流れることは決してありません。
分子集団における個々の分子が激しく運動すればするほど温度も高くなります。
「外部から遮断された系のエントロピーは時間の経過と共に増加する」
という有名なエントロピー増大則を証明しました。
このエントロピーは、測定できる物理量です。
ボルツマンのエントロピーにはもう一つの性格があります:
分子集団の無秩序の度合いを表す統計量であることです。
(1)集団の状態が無秩序になるに従って増加し
(2)集団の状態が秩序化されるに従って減少します。
水が入ったコップに一滴の青インクを入れると
(1)一箇所にあった青インク(エントロピー最小)が時間の経過と共に水中に拡散し
(2)最終的には水全体が薄い青色になります(エントロピー最大)。
(2)最終的に同じ温度になった状態のエントロピーが最大です。
(1)インクを入れた初期状態
(2)異なる温度の物体を接触させた初期状態
の秩序の度合いは最大(無秩序の度合いは最小)です。
(1)コップの水全体が薄い青色に染まった最終状態
(2)二つの物体の温度が同じになった最終状態
の秩序の度合いは最小(無秩序の度合いは最大)です。
(1)分子集団における個々の分子もニュートンの運動方程式を満たすので、
(2)エントロピー増大則は運動方程式の時間対称性と矛盾します。
(1)エントロピーが統計的概念であることを考慮すれば
(2)エントロピーの増加は運動方程式の時間対称性と矛盾しない
という解釈に落ち着きました。
「一方向に流れる時間=時間の矢」
という概念が生まれました。
しかし、時間は物質的実在ではありません。
「エントロピーが増大する方向に現象が変化する」
と言うべきです。
(1)振り子のように現象が周期的に変化するだけなら
(2)それに対応して時間も進んだり戻ったりすると考えるのが合理的です。
(2)熱平衡にある気体のように完全にランダムな現象に対しては
時間の概念を適用すること自体無意味になります。
(1)統計的量である点では情報理論のものと同じですが
(2)測定できる物理量であるという点で情報理論のものと違います。
更に、両者は符号が異なる点を除けば同じ形式で定義されます。
両者は、同じものだと主張する人が居る一方、違うものだと主張する人も居ます。
この事実から、観測問題を新しい視点で決着することができます。
→情報概念を用いた観測問題の決着のブログ
「時間の矢」という言葉は、天体物理学者エディントンによります。
一般相対論で予言される重力による光の湾曲を確かめるため日食観測隊を指揮し、
アインシュタインの予言を実証しました。
アーサー・I・ミラー(阪本芳久訳)
『ブラックホールを見つけた男』、草思社(2009)
文章(訳)が巧みで読者がその場にいるような印象を与える好著です。
宇宙論に関する研究は、相対論、量子論、トポロジー等に関する超難解な
しかし、近年になって重力波やブラックホールに関する研究が盛んになっています。
同誌にはアインシュタインの経歴にも触れた記事もあります。
彼は、天才中の天才という呼ばれ方をされています。
そのような苦境の中、数学の巨峰ヒルベルトと一刻を争いながら一般相対論を仕上げたというのは正に超人です。