米 石油備蓄 市場放出を決定 原油価格の上昇を抑えるねらい
原油価格が高騰する中、アメリカのホワイトハウスは、23日、石油の備蓄の一部を市場に放出すると発表しました。
供給量を増やして原油価格の上昇を抑えるねらいで、日本や中国などと協調した取り組みだとしています。
アメリカのホワイトハウスは、23日、声明を発表し、石油の備蓄の一部を市場に放出することを明らかにしました。
供給量を増やして原油価格の上昇を抑えるねらいで他の主要な石油の消費国である、日本、インド、韓国、イギリス、それに中国と協調した取り組みだとしています。
また、アメリカとしては、向こう数か月で、合わせて5000万バレルを放出するということです。
これについてバイデン政権の高官は、アメリカ政府が主導して主要な石油の消費国と足並みをそろえる形で備蓄を放出するのは初めてだとしたうえで「バイデン大統領は必要ならばさらなる行動をおこし、各国と連携して権限を最大限活用する用意がある」としています。
原油価格をめぐっては、サウジアラビアが主導するOPEC=石油輸出国機構とロシアなどの主な産油国が来月の追加増産を見送ったことで、今後も価格の高止まりが続くという見方があります。
アメリカではガソリン価格が7年ぶりの高い水準に値上がりし、記録的な物価の上昇につながっていて、支持率が就任以来、最低の水準に落ち込むバイデン大統領としては、協調での備蓄放出を主導して国民の暮らしへの影響を抑える姿勢をアピールするねらいとみられます。
一方、市場関係者からは、備蓄の放出が原油価格を抑えたとしても、効果は長続きしないのではないかという声も出ていて、今後は産油国の対応も焦点になりそうです。
インド政府も500万バレル放出
インド政府も23日、備蓄から500万バレルを市場に放出すると発表しました。
発表では「原油価格は、合理的に、市場原理によって決まるべきだと強く信じている。産油国が需要よりも低く人為的に供給量を調整し、価格の上昇とそれに伴う悪影響が生じていることに繰り返し懸念を示してきた」として、追加の増産に応じない産油国の対応を批判しています。
ニューヨーク原油市場 値上がり
アメリカ政府が日本などと協調して石油の備蓄を放出すると発表したことについて、23日のニューヨーク原油市場では、アメリカが放出する量は想定の範囲内だという受け止めが出て、国際的な原油の先物価格は値上がりしました。
23日のニューヨーク原油市場は、アメリカのホワイトハウスが石油の備蓄を放出すると発表したあと、原油価格の国際的な指標となるWTIの先物価格は値上がりしました。
発表前、1バレル=75ドル台だった先物価格は、78ドル台を中心とした取り引きになりました。
WTIの先物価格は先月25日におよそ7年ぶりの高値となる1バレル=85ドル台前半まで上昇し、その後は、アメリカなどが備蓄の放出を検討していると伝えられたこともあって値を下げていました。
市場関係者は「アメリカが向こう数か月で合わせて5000万バレルを放出するという発表は、ひとまず想定の範囲内だと受け止められた。放出によって価格の上昇がいったん抑えられたとしても、その効果は長続きしないのではないかとの見方もあり、産油国の反応も含めて今後の各国の対応が焦点となる」と話しています。
バイデン大統領「やがて価格下落」
バイデン大統領はホワイトハウスで演説し「新型コロナウイルスの感染拡大からの回復に必要な石油の供給を支援するため、アメリカの石油の備蓄から過去最大の放出を行う。各国と協調したこの動きが供給の不足を好転させ、価格が是正されることになる」と述べました。
そのうえで「ガソリンの高値という問題が一夜にして解決するわけではないが、事態は改善されるだろう。時間はかかるだろうが、やがて、皆さんが車にガソリンを入れる際に価格の下落を感じることができるはずだ」と述べ、放出の意義を強調しました。
各国の石油消費量と放出のインパクト
イギリスの大手石油会社「BP」のまとめによりますと、去年(2020年)世界で消費された石油の量は、1日当たり8847万バレルでした。
国別では、
▽アメリカが最も多く、1717万バレルと全体の2割近くを占めていて、
▽次いで中国が1422万バレル、
▽インドが466万バレルとなっています。
また、
▽日本は5番目で326万バレル、
▽韓国は7番目で256万バレルでした。
去年の消費量は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で多くの国で前年より大幅に落ち込みましたが、それに対しても今回の備蓄の放出は限りがあります。
例えば、アメリカが打ち出した5000万バレルという放出量は、アメリカ国内ではおよそ3日で消費される計算になります。
また、インドが放出する500万バレルは、インド国内で一日で消費される量です。
こうしたことから、効果がどこまであるかは不透明との見方もあります。
中国 みずからの判断で備蓄の放出検討へ
中国政府はすでにことし9月、初めて国家備蓄から原油を放出すると発表し、その後、およそ738万バレルを入札にかけました。
中国では企業が製品を出荷する際の値動きを示す「生産者物価指数」が先月まで2か月連続で過去最大の上昇幅を更新し、経済の減速につながっていることから、原材料価格の上昇による製造業への圧力を和らげるためとしています。
中国外務省の趙立堅報道官は、24日の記者会見で「中国はみずからの実情と需要に応じて国家備蓄の放出や、そのほかの市場を安定させるための必要な措置をとる。中国は、消費国と産油国を含む関係者と緊密に連絡を取っており、コミュニケーションと協力を通じて、石油市場の長期的で安定した運営が確保されることを願う」と述べて、今後もみずからの判断で追加で備蓄の放出を検討する考えを示しました。
イギリス 民間企業の自発的放出150万バレルまで認める方針
イギリス政府はアメリカや日本などと歩調を合わせて、民間企業による自発的な石油の備蓄の放出を150万バレルまで認める方針を明らかにしました。
イギリス政府は「これまで述べてきたように、われわれは国際的なパートナーと緊密に協力し、パンデミック後の世界経済を支えるためにできることをしていく」とコメントしています。