阿部ブログ

日々思うこと

米海軍大学のトシ・ヨシハラ教授の論文が面白い

2015年12月30日 | 雑感
米国陸軍大学戦略問題研究所(US Army War College, Strategic Studies Institute)の『A Hard Look at Hard Power: Assessing the Defense Capabilities of Key』を入手したので早速読み始める。勿論、目玉は米海軍大学教授のトシ・ヨシハラ氏の論文『Japanese Hard Power: Rising to the Challenge』。訳すと「日本の国防力:変革の兆し」とでもなるのか。この論文を読んで感ずる事は・・・・・日本は戦後、個別自衛権を発動した事は無いが、集団自衛権は発動しまくってきた事実をきちんと国民に伝える必要があると感じた。今回の安保法制の議論で若年層が政治的に目覚めた。これには警察も敏感。国会前でデモがあると警察ヘリが3機出動し都内上空を監視する動きが見られたが、外国勢力が支援する無秩序なデモが分散的に発生したら警察は対応しきれないだろう。米海軍の特殊部隊と同じ発音の団体の背後には中国がいて盛んに煽っているし金を出している。沖縄も同様だ。

さて、中国のA2ADは対艦弾道ミサイルなどを用いた遠距離からの攻撃を重視した戦略だ。ミサイルは中国本土から発射できるほど長距離を飛翔するので第七艦隊や海上自衛隊などの艦船の侵入を阻止できると考えているのだ。でも、同じ事は日本も出来るはず。自衛隊も宮古島に地対艦ミサイルの部隊を展開しているが、射程距離は150km。この対艦ミサイルは元々は北方脅威に備える為に開発された。北海道の第一特科団に対艦ミサイル連隊が2個配備されているが、これは日産の防衛事業部が開発した30型ロケットを装備し、第125特科大隊、126特科大隊を編成した。
(※:日産は、防衛部門をIHI(石川島播磨重工業)に売却した。IHIの横浜事業所にお邪魔した際、日産出身の方にお会いでき、30型ロケットの話をすると知っていたのには嬉しいかった~)
125特科大隊と126特科大隊は、石狩湾に上陸しようとする対抗部隊「甲」を撃破するのが主目的。しかしこれは距離が短いし、陸上部隊だけでは見通し線を把握できないので、無人偵察機などでの敵情把握が必要。何れにせよ冷戦の遺物。中国のような弾道ミサイル級の長距離ミサイルの開発と実戦配備が必要だろう。

日本として中国封じ込める最高の戦略は、対潜水艦戦へ引きずり込む事と、海外との貿易を阻害する為に、中国沿岸の港湾に対して機雷&無人魚雷戦を仕掛けること。
中国が生存する為には今や港湾が最大の重要インフラで、沿海部の主要な港湾が使用できない、若しくは機雷や魚雷攻撃を懸念して使用出来なくなると、忽ち経済に影響する。既にマイナス成長に陥っている中国には致命傷になる。これを可能とする積極的防衛システムの開発が必要。つまり中国のシーレーンを破壊する事が最大効果を生む。これには台湾、ベトナム、フィリピン、それと南洋諸国との軍事的連携が欠かせない。米国が邪魔するだろうが、台湾の国防力強化に日本は強力に支援するべきだと思量する。
しかし、最大の問題は海上自衛隊だろう。太平洋戦争で負けた要因の最たるものは「日本海軍」にある。日本海軍の間抜けさと無能さは、徐々に世間に知られるようになっているが、海上自衛隊はこの日本海軍の全てを継承している。陸上自衛隊が、日本陸軍のレガシーを一切受け継がなかった事とは対照的。実際、東京裁判では、日本の敗戦に寄与した日本海軍軍人が刑死する事はなかった。今では、米海軍の一部として嬉々として活動しているが、海上自衛隊は、悲しい哉、日本の安全保障を預かる海軍部隊ではない。所謂、妾の子でしかも戦力構成もカタワだ。米海軍の一部隊である海上自衛隊を今後どうするか。
そろそろ、昭和天皇が決めた、米日軍事一体化と言う「HIROHITOドクトリン」から脱却する方向で動くべき時期だと感ずる。

ヨシハラ教授の論文から離れたしまったが、話を戻す。
色々な中国軍関連の文書を拝見すると、人民解放軍も馬鹿ではないので、米軍との実力差を極めて正確に認識しており、海上ゲリラ戦ともいうべき戦術を駆使する事で米海軍や自衛隊に出血を強いる作戦で、これは有効だろう。イラクやアフガニスタンみたいにする。強力な武装を持つ海軍艦船に正面から対抗するのではなく、多数の海上民兵組織で、機動力を活かしたミサイル攻撃や機雷&魚雷攻撃を仕掛けるなど、将に海上ゲリラ戦を想定している。無人航空機や無人潜水艦も幅広く利用するだろう。これらは古い作戦のように感ずるかもしれないが、北東アジアで稼働している中国版GPS「北斗」や衛星通信ネットワークを最大限利用するので、彼らの表現によれば「蜂のような数的圧倒戦術」や「雀のような集散離合戦術」を展開される。
海上自衛隊の主要な艦船には、一体何人の隊員が乗船しているのか? 海上民兵の不意打ち攻撃で、何隻かの護衛艦が撃沈される事になると犠牲の規模は? 今の海上自衛隊員の予備は希少なので、海上ゲリラ戦が有効に推移すると護衛艦はあれど隊員がいないと言う事態も想定される。明確に軍事的脅威とは映らない艦船による組織的な不意打ちは、限定的な防衛力しかない、特に海上部隊には効果があるだろう。中国としては横須賀と呉を何とか機能不全にすれば、対日戦においては成功と言える。

中国が本格的な戦争状態に至った時、直ちに米国のGPS衛星と通信衛星システムを破壊するべく攻撃を行うだろう。米軍はGPSと通信衛星に依存しているので、これはこうか絶大。まあ、米軍もGPSなしので軍事作戦が行えるようにDARPAがプロジェクトを進めているが、間に合うか? 極めて微小なジャイロコンパスも開発されており、意外と民間ビジネスでの展開可能性があるかも知れない。古くて新しい航法・・・。
それと、中国のA2AD戦略は、数百発の巡航ミサイルや戦術弾道ミサイルの一斉攻撃で、在日米軍と航空自衛隊や海上自衛隊の基地を破壊して制空権&制海権を奪うことを目指すだろう。勿論、沖縄の嘉手納は最大のターゲットだ。

中国の戦術に対するには、航空自衛隊基地の防護力強化しか手はない。戦闘機や輸送機などを完全に防護可能な地上&地下格納庫を作り、滑走路の修復を迅速に行える装備と体制が必要だ。小松のような軍民共用の基地は、攻撃に脆弱なので、早期に新たな基地開発が必要。佐渡ヶ島などに代替基地を作るものよいだろう。
海上自衛隊の基地も分散化が必要。特に潜水艦基地の新設が必要。基地建設には様々な要素はあるだろうが、小笠原や石垣などへの基地建設を行うべき。石垣は、作戦行動に柔軟性を与えるだろうし、小笠原においては、A2AD戦略への生存性を向上させるだろう。財政的には厳しいと言われるが、国防力の整備と経済・金融政策は同期しなくてはならない。

いずれにせよトシ・ヨシハラ教授の論文の指摘は傾聴に値する。