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バンコラン問答 その1

2019年09月11日 | JDカー
■最近、バンコラン4部作を読みかえしてみたんだ。
旧訳は大昔に読んだきりのうえ、新訳は出たときに身をいれずに読んでいたので、
プロットをはっきり覚えてなかったからね。
このさいだから、ミステリと思わないで読むとどうなるか、試してみたかったんだ。

★それは、どういう意味ですか、カーは本格探偵小説作家じゃないんですか。
ほら、ちゃんとハテナオジサンのマークが。

■じつは結果的に本格探偵小説作家として認められただけで、
デビューしたときは本人も本格探偵小説を書き続けるとは思っていなかったんじゃないか。

★パリ遊学中に歴史ものを書いたけど燃やしてしまったとか、ありましたね。

■それで「蝋人形舘の殺人」は先入観無しで読んでみると、ほとんど冒険小説なんだよ。

★殺人事件があって、意外な犯人だったじゃないですか。

■意外すぎてというより、読者を幻惑するために秘密クラブの筋を執拗に書いている、と思える。
「髑髏城」もそうだけど、肝心の殺人事件の謎はとても貧弱だし、犯人はなんのトリックも弄していない。

★たしかに、「髑髏城」では真犯人の犯行後にある人物が引き継いでって、これは「犬神家の一族」そっくりです。
「蝋人形館の殺人」では、あからさまに手がかりを見せつけています。

■カーの本質はロマンだなんだって言われているけれど、殺人とその動機に対しては現実主義者だったのではないかと思う。
しかし、そんな単純な殺人事件では作品にならないので、
「髑髏城」ではドイツ貴族の探偵と推理合戦、「蝋人形館の殺人」では秘密クラブの悪役と対決、
それらを本筋を読ませないための目くらましとして描いていたのではないか。

★「髑髏城」の推理合戦はお粗末でしたよね。ライバルの探偵が、最初に自分で推理した事実をすっかり忘れて、
最後はトンデモ犯人を挙げちゃうんですから。

■完全にバンコランのかませ犬だったね。
それにたいして「蝋人形館の殺人」に登場するギャランは、もう少し見せ場のあるキャラクターだった。
ギャランの屋敷へ強引に踏み込むところで、どこかで見たような場面があった。

★スペクターのブロフェルド!

■猫を抱いた強面の悪役を、ボンド映画がカーの本からいただいた、
なんてことはないだろうけれど、奇妙な符合だね。
「蝋人形館の殺人」の後半がマールの冒険譚になっているのは、
薄っぺらい殺人事件の謎を読者の目からそらす効果を狙った、とも言えるが、
そのパートではカーがノリノリで書いているのが伝わってくる。

★酒かクスリでもやって書いていたんじゃないかと……
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