赤峰和彦の 『 日本と国際社会の真相 』

すでに生起して戻ることのできない変化、重大な影響力をもつ変化でありながら一般には認識されていない変化について分析します。

「米中貿易摩擦」から考えるべきこと コラム(306)

2019-09-04 00:00:00 | 政治見解



コラム(306):「米中貿易摩擦」から考えるべきこと

9月1日、トランプ政権は1100億ドル(約12兆円)分の中国製品を対象に制裁関税第4弾を発動しました。すると、即座に中国も米製品に追加関税を課し米中の貿易摩擦はエスカレートしています。これら一連の問題について、国際経済に詳しい友人から新たな視点での問題提起がありました。


論点がずれているメディア報道

NHKはじめメディア各社はまことしやかに「米中貿易摩擦が世界経済に悪影響を及ぼす」との決まり文句を繰り返し報じています。つまり、中国で生産している製品に高い関税がかけられると高い物につくから困ると言うことらしいのですが、中国に製造工場を設置している企業は、中国の人件費などの製造コストが安いからわざわざ中国で作っていたわけです。これは、アメリカの企業だけでなく日本の多くの企業も同様です。

中国の労働環境は人件費や労働時間などで日本やアメリカと比較して決して良いわけではなく、いまだに劣悪な環境下で働く人たちが大勢います。そうした犠牲の上に成り立っている企業も多く、特定の企業が独占的に利益を得ているケースが少なくありません。それらの企業が、関税が高くなることで困っているわけです。

企業はもともと目先の利益のために決して良い国家体制でもない中国に進出したわけですし、これは企業の責任において新しい地域での生産に切り替えるべき問題であるはずです。それにもかかわらず、メディアは「国民にしわ寄せが来る」とか、いかにももっともらしいこと言っているのですが、本当は企業が努力すればいいだけの問題で「国民に負担を押し付ける」との報道は言語道断です。



ものが必要だという幻想からの脱却

友人の問題提起で重要なことは、米中貿易摩擦は両国ともに国内の大手の企業を守るためのもので、決して国民の利益がどうのという次元のものではないという点です。したがって、「国民生活に悪影響が出る」との論理は、考え方を変えれば、物が高くなれば売れなくなるだけだし、国民は買わなければいいという本質から目を背けているということになります。

すでに先進国では「大量生産、大量消費」の時代から「多品種少量生産」(数量的には大量生産と同じ)に移行し物が溢れかえっているなかで、人びとの購買意欲は減退しています。日本では、不要な物を減らし生活に調和をもたらそうとする断捨離の考え方を唱える人さえ存在します。

実際、今まで手に入っていたものがなくなっても、個人のレベルでは本当はさほど困る問題になる時代ではなくなっています。物が必要だという幻想とサヨナラする丁度いい機会なのかもしれません。


企業のあり方を変えるべきとき

また、米中貿易摩擦で株価が大きく下がるから問題だとの指摘があっても、日本では株式を八割も超えて保有している機関投資家(投資ファンド、投資銀行、保険会社、年金機構など)の利益が減るだけで、株を持たない一般の国民の生活には何の関係もありません。株価は景況感の一つの指標に過ぎず、個人の生活レベルにおいて、輸入品の値段に影響する為替相場の変動の方が重要です。

結局、メディアの報道は、「アメリカの利益を守るためだけに貿易戦争を仕掛けるトランプ大統領」との印象操作をするだけでしかなく、大袈裟に騒ぐ問題ではありません。

それよりも、目先の利益のために、中国の豊富な労働力、比較的安価な賃金、優遇政策という耳障りのいい話ばかりに興味を示し、言語・文化の違いから発生するリスクや金銭感覚の相違点を見極めようとしなかった中国進出の企業こそが考えを改めるべき時が来たのではないかと思うのです。


「企業の目的は顧客創造である」という名言があります。これを実践する企業は生き残り、かつ発展するが、実践できない企業はそう遠くない将来淘汰される運命をたどるとの意味が込められています。要は、企業が存続するために利益が必要であっても利益を得るために事業を行っているわけではなく、商品を提供する一つ一つの企業が、喜んでくれる人を増やしていけばどんどん良い社会になっていくということだと思います。

この考え方をあらゆる企業が実践したとき、自分の利益のみに汲々とする企業は存在意義を失いますし、企業間の争いや国家間の貿易戦争も意味がなくなると考えます。そして、何よりも、相違点ばかりをあげつらって争いごとを煽るメディアの存在も不要になると思います。



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