不埒な天国 ~Il paradiso irragionevole

道理だけでは進めない世界で、じたばたした生き様を晒すのも一興

Il Pavimento Svelato

2006-09-19 01:16:19 | アート・文化

それを見るためだけに
バスに揺られて一時間ちょっとかけて出かけるほど
私にとっては価値のあるもの。

シエナのドゥオーモの床面モザイク。
山ほどある床面装飾の中の何が見たかったのかといえば。
Mose_beccafumi
Domenico Beccafumiがデッサンから手がけた作品。
モーゼが杖で岩を砕き湧水させるシーン。
これ以外にもベッカフーミが手がけたとされる床面デコレーションは
何点かありますが、撮影するのに一苦労。
床面に描かれるものをちびっ子の目線から捉えたのでは
写真にしたときに意味不明のいたずら描きに見えてしまうのです。
鳥瞰図で撮りたい!

ベッカフーミの作品ではないけれど
「Fortuna」の一部も結構お茶目でイカシていた。
Graffitto_serpente
なんともプリミティブな蛇さんとカタツムリ。
あとカメも結構かわいい。

白黒大理石の縞々模様の外観が美しいシエナの大聖堂。
内部も贅の限りを尽くした荘厳さで見所はたくさんあります。
その中でも大理石に掻き絵もしくは象嵌細工で描かれる
壮大な床面のモザイクは一見の価値あり。
ただし、この床面モザイクは美術品保護のために
一年間のほとんどは覆われて隠されているため
オリジナルを見る機会はめったにありません。
一年中公開されている部分もコピーであることが多く、
そのオリジナルは
隣接するドゥオーモ付属美術館に収蔵されています。
そんな床面モザイクが公開されるのは年間約二ヶ月間。

このシエナの大聖堂の床面デコレーションは14世紀から始まり
完成をみたのは1800年代に入ってから。
この床を一面に覆う作品は全部で56シーンあり、
それぞれの時代のシエナを代表する画家たちの
デッサンを元に描かれています。
その中にはPinturicchio(ピントゥリッキオ)や
Domenico Beccafumi(ドメニコ・ベッカフーミ)も名を連ねています。
デコレーションが開始された当初はシンプルであった技法も
時を重ねるにつれて複雑になり、絵画にも劣らないくらいの
豊かな表現力をもって描かれるようになります。
それぞれのテーマは人類の教えであったり、
巫女の姿であったり、旧約聖書の挿話であったり、
ギリシャ・ローマ時代の逸話であったりと様々。

ベッカフーミの手になる
「岩から水を湧き出させるモーゼ」のシーンを含む
一連のモーゼ伝はちょうど大聖堂のクーポラの
真下部分に描かれています。

1486年シエナ近郊の農民の子として生まれ、
1551年にシエナに没するまで
その生涯のほとんどをシエナで過ごし、
シエナを中心に活躍したマニエリスムの画家・ベッカフーミ。
本名はDomenico di Pace(ドメニコ・ディ・パーチェ)。
実の父が仕えていたLorenzo Beccafumi
(ロレンツォ・ベッカフーミ)が若きドメニコの
画家としての才能に目を留め、最初の後援者となり
その苗字を与えたため、
後にDomenico Beccafumiとして知られるように。

彼はシエナを離れた数年の間にフィレンツェやローマで
ミケランジェロやラファエロの作品にふれ古典様式を習得。
偉大なるミケランジェロからは躍動感のある運動性を
ラファエロからはやわらかな風景画の描写を学び
そこに独自のエキセントリックな技術を取り入れて
まねできないオリジナル画風を確立。
ヴァザーリが絶賛するまでのオリジナルな画風には
きちんと計算された遠近法をベースに、
それまでにないほど入り組んだ構図が実現されています。
またマニエリスム的な極端な色遣いの中にあって、
聖母の肌などに表れる輝きを帯びる美しさなども特徴。

そんな彼の絵画性がシエナ大聖堂の床面モザイクの
陰影のつけ方などにも反映されています。
各シーンの全体的な構成のとり方や
細かい石の組み合わせで陰影を表現している部分には
長い年月で磨耗していることを含め考えても
ベッカフーミらしさが感じられます。

この床面モザイクは8月末から10月末まで一般公開。

Manifesto_siena
Il Pavimento Svelato
Duomo di Siena
Piazza del Duomo
www.operaduomo.siena.it
入場料 6,00ユーロ
洗礼堂、クリプト、付属美術館などとの共通チケットなら10,00ユーロ

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